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私「も」同じ気持ちです

 部屋に戻ってから、姫様方、若様方に今日の事をお尋ねしたところ、何事も問題なく進んでいるということで、明日もご滞在されている先のお宅を伺う必要はなさそうだった。

 先方のご様子も、ご頭首様方、大人の皆様の対応は硬いものだという事だったけれど、子供たちと打ち解けるのは上手くお出来になられたようで、今日はお母様もいらっしゃらないし、晩御飯の準備も一緒にしたし、この後は一緒にお風呂に入って、一緒にご飯を食べて、一緒に夜更かしするのよ! と、フィリエ様は大層楽しんでいらっしゃるご様子だった。

 あまり夜更かしし過ぎるのはご成長にも悪いですよ、と一応お声がけはしたけれど、あまり効果はなさそうだった。

 王妃様も心配なさっていたようで、


『お母様にもさっき同じことを言われたわ。あと、ご迷惑にもならないようにって。ねえ、ミスティカ、お母様もユースティアも注意ばかりするのよ』


『それはあなたの事を心配しているからですよ』


 どうやらフィリエ様は念話を送られながらミスティカ様とお話しするという器用な事をなさっていらしたようで、こちらとの念話の内容をご存じないはずのナセリア様が僕に念話を送ってくださった。

 フィリエ様に向けられたはずの注意の内容を僕に聞かせて安心させてくださっているということは、つまり、ナセリア様も同じように、器用に念話と会話を使っていらっしゃるということだけれど、何故だろうか、ナセリア様が調べ事をなさるときに何冊もの本を同時に広げられるということを知っていたからなのか、ナセリア様に関してはあまり驚いたりはしなかった。


『ユースティアの方は何かありましたか?』


 ナセリア様からは、一緒に双六をして遊んだり、ヴァイオリンの演奏をして褒められましたとか、それを聴いていたフィリエとミスティカと女の子のお友達とが一緒に楽しそうに踊っていましたとか、楽しい報告を聴かせていただいた。ただ、女の子の方のお友達のお名前は教えていただけなかったけれど。


『私はユニスと買い物に出かけて、それから––』


 孤児院の件を報告しようかとも思ったけれど、あまり楽しい話題ではなさそうだし、きっとご友人宅で楽しんでいらっしゃるであろうナセリア様達に余計な事を考えていただきたくはなかったので、報告するのはやめておいた。


『––こちらは特に変わったことはありませんでした。ただ––』


『ただ、何ですか?』


 なんとなく恥ずかしかったというか、こちらも僕の個人的な感情の話で、ナセリア様にお聞かせできるような話ではないと思っていたのだけれど、尋ね返されたナセリア様のお声が、少しばかりムッとしていらっしゃるように感じられて、焦ったわけではないけれど、つい答えを返してしまった。

 一体何に焦っているのかは分からなかったけれど。


『そのときは深く考えることもしなかったので分からなかったのですが、ナセリア様のお顔を拝見することも、ましてや魔法をお教えすることもなく1日を過ごしましたので、何と申し上げたらよいものでしょうか、こう、心の中にすーっと冷たい風が吹き込んでくる感じと申しますか‥‥‥、ああ、ですが、今こうしてナセリア様とお話ししている間はそのようなことはございませんので、ご安心ください。仕事に支障をきたすようなことも致しませんから』


 僕が自分でもよくわからない、何だかまとまりのない話を一方的に話してしまったのを、ナセリア様はただ黙って聞いていてくださった。


『そうですか』


 話し終えた時にナセリア様がおっしゃられたのはその一言だけだったけれど、先程の声からは受ける感じがまるで違って、何だか嬉しそうな感じがしていた。


『申し訳ありません、ナセリア様。このように愚痴めいたことをナセリア様にお聞かせするべきではありませんでした』


『私が尋ねたのですから、ユースティアが気にする必要はありません。明日も色々と大変なのでしょう? 名残惜しいですが、今晩はこれくらいにしておきますね』


『良き夜をお過ごしください、ナセリア様』


『あなたも‥‥‥私も寂しいのは同じですから』


 そうおっしゃられた後、ナセリア様は念話を閉ざしてしまわれた。

 僕はベッドに腰かけながら、今のナセリア様との念話を思い出していた。

 ナセリア様は、「私も寂しいのは同じ」だとおっしゃられた。この場合、僕と話していらしたのだから、「私も」の、も、は僕にかかるのだろう。

 「寂しいのは同じ」というのも同様だと考えると、僕も寂しいと感じていたことになる。


「たった半日お会いしていない、お顔を拝見していないだけだというのに、僕は寂しいと感じていたのか‥‥‥」


 あんな思いをするくらいなら、他人に心など開くまいと思っていたというのに。

 でも、不思議と、悪い気持ちではなかった。

 ティノが言っていたように、生きていれば良いこともあるというのは、この事なんだろうか。

 だから僕は––


「この気持ちに流されちゃいけないんだ」


 ナセリア様を大切に思う気持ちはある。

 それは、守ることのできなかったティノ達に重ねて放っておけないのだということではなく、ただ純粋に心配しているのだと思っていた。

 けれどナセリア様は、ティノ達のように、傲慢かもしれないけれど、僕が護っていなければあんな風にひどい目にあってしまうように、力のない方ではない。

 たしかに出会った時とその直後には危ない感じもしていたけれど、今ならばきっとそのようなことはなさらないだろう。僕に注意をしてくださって、ご自分ではなさらないような、そんな方ではない。困ったことがあったのならば、どなたにでもすぐに相談なさることだろう。


「––っ、いけないいけない。明日も早くからお役目をいただいているというのに」


 ティノにはあまり通じなかったけれど、昔から騙したり、嘘をつくのは得意なんだ。自分の気持ちを誤魔化すくらいは何てことのない事だ。上手く騙されてくれるだろうか、ナセリア様も、それから自分も。

 そう思ったら何だか胸が痛んだ気がしたけれど、何でもないと思うことにした。

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