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買い出しとやりたいこと 3

 孤児院という施設について、お城へ戻る最中の馬車の中でユニスに尋ねたところ、ユニスも詳しいことは分からないと言っていたのだけれど、どうやら身寄りのない子供を中心に保護している施設で、リーベルフィアに暮らしている方達の援助金で成り立っているものであるらしかった。

 早くして両親を亡くされた方や、そもそも両親を知らないという方、もしくは追い出された、などの理由から、生家のない子供たちの集まるところなのだということだ。


「それは立派な施設だね。僕も、あの時ナセリア様とユニスに出会わなければ、あそこで暮らしていたのかな」


「でも、ユースティアが前にいたところとは違って、ここ、リーベルフィアでは魔法を使える人は尊敬とか、敬意を集める対象でしょう。つまり、魔法を隠して暮らす必要はないわけで、結局、誰かが知ることになって、お城へ召し抱えられることになっていたと思うけど」


 それならそれでも良かったと思う。

 僕が気になっているのは、あそこで暮らしている子どもたちや、院長らしき方のことで、僕のことがきっかけでも、彼らの事がこの国のトップ、つまりは国王様や王妃様のお耳に入ることになっていれば、少なくとも今よりはずっと良い方に物事が進んでいたかもしれない。


「あれ、でも、リーベルフィアに暮らしている方の援助金で成り立っているってことは、当然、その資金の管理をしているのはお城ってことだよね。つまり、ええっと、賃貸料? とかの報告もあげられているんじゃないの?」


 そのことに関しては詳しくないわ、とユニスは首を横に振った。

 契約に関する法律とかに関しては仕える方にも関わることだからと学院でも教えて貰ったということだけれど、直接的な金銭のやり取りとか、そういう報告書を取り扱うのは、お城では別の部署、宰相大臣で担当の方がいらっしゃるということで、ユニスたちメイドの皆さんはそちらに関わってはいないのだという事だった。

 考えてみれば当たり前で、メイドの皆さんのお仕事は掃除とか裁縫、他にも、例えばこの買い出しみたいに色々とやっているみたいだけれど、買い出し1つをとってみても、その費用の出納は財務の方が取り扱っていらっしゃる。

 例えばパン屋さんの仕事が小麦を作ることではないように、買い物に出ることはユニスたちの仕事であっても、その費用の細かい事に関しては––個人の貯えでない限り––ユニスたちが気にしなければならない事ではないのだろう。


「国王様にもご報告した方が良いよね?」


「そうね。それじゃあ、そっちはお願いできる? 宰相さんとかには私からお尋ねしてみるから」


 それは、大丈夫なのだろうか?

 ユニスはお城に仕えているメイドさんのうちの1人で、宰相大臣のような方にお尋ねするのには、随分ハードルが高いように思えるのだけれど。まあ、国王様よりは大分ましだろうけれど。

 もっとも、僕が気にしてもしょうがないことだし、こうして買い出しにも出てきていたりするのだから、いらない心配だとは思う。


「あ、その顔は『ユニスみたいなメイドの1人でしかないような小娘にそんなことできるのか?』って思っている顔ね」


「そこまでは言ってないよ!」


 思っていたとしても口には出していないし、その思っていたこともちゃんと訂正したし。

 お城に到着して、とにかく任せておいて、そっちは頼んだわよ、と言って集まっていらした皆さんと一緒に荷物を持って行ってしまったユニスと別れると、僕は国王様がいらっしゃる執務室へ向かった。

 扉の横にいらっしゃる方に尋ねると、国王様はご在室という事だったので、お目通りを希望した。

 すぐに返事はあり、失礼致します、とお部屋に入れていただいた。


「ご苦労。子供たちもおらず、寂しい思いもしていることと思うが、これも子供たちの為になると私は思っている。帰ってきたら、ナセリアにはよく貴殿に甘えるように言っておくので許して欲しい」


 僕は別に寂しい思いとかはしていないと思うのだけれど、そのはずだけれど、国王様に反論するのもあれなので黙っていた。


「オホン。それで、何用かな? 貴殿が直接訪ねてくるほどの、つまりは国王としての私に用があるのであろう?」


 王妃様に厳しい(ように見える)視線を向けられて、国王様はわざとらしく咳払いを1つなさると、父親として僕の事をからかわれるような表情ではなく、リーベルフィアの国王様としてのお顔で僕に本題を話すように促された。


「はい。実は先程外に出ていた際の出来事なのですが――」


 孤児院での問題の事と、その件に関する資料を拝見する許可と、国王様がこの件に関してご存知であることをお尋ねした。

 最後の質問に関しては、出過ぎた真似かとも思ったけれど、国王様は嫌な顔をなさることなくお答えくださった。


「もちろん、孤児院があることは知っている。成立の詳しい年代などは資料を探せばあると思うが、それらは総務長官の方が詳しくまとめていることだろう」


 国王様はそのようにご存知のご様子だったけれど、王妃様はご存知ではなかったらしく


「私はそんなことも知らなかったのですね‥‥‥」


 と悲しそうなお顔をなさっていらした。

 やはり、国の一番偉い方でも詳しくはご存知ではない事であって、王妃様のように元が普通のご家庭で育たれた方でもご存じない事なのだ。

 孤児院、という言葉自体はご存知でも、その実態などを知らないのでは、あまり意味があるとは思えない。もちろん、そんなことを口に出したりはしないし、表情にもおくびにも出すつもりはないけれど。

 それに、孤児院に保護されている子供たちはまだそれでもマシな境遇なのかもしれない。孤児院にすら保護されていないかもしれない子供たちに比べれば。


「自身の勉強も、城の防衛の事もあるだろう、子供たちが居ない今においても貴殿には迷惑をかけるが、明日、こちらから派遣する際には、貴殿らも一緒について行っては貰えないだろうか」


 聞かれるまでもない事だった。元々、国王様に頼まれなければ、自分から同行させていただけるよう頼んでいたところだった。


「済まないが、よろしく頼む」


 その際には、ユニスの同行も許可していただいた。

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