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同じようなやり取りが向かった先すべてでありました

 僕の受け取った手紙––正確には封筒には、リーベルフィアの国章を象った封がされていて、パーティーの招待状を思い起こさせるようなものだった。僕が直接お届けするのだから、当然切手は貼られていない。

 封筒の裏側には、丁寧なナセリア様のお名前と、元気のよさそうなフィリエ様のお名前、控えめに書かれたミスティカ様のお名前と、鳥の絵が描かれた横に綺麗にレガール様のお名前が書かれている。

 表には先方のお名前と、エイリオス様の署名が入れられていて、庭の花壇に咲いている春スミレが添えられていた。


「よろしくお願いしますね、ユースティアさん」


 動きやすそうな清楚なドレスを纏われた王妃様の隣では、レガール様が裾を掴まれながら、王妃様と僕の事をじっと見上げていらっしゃる。

 少し前までであれば、そこにミスティカ様もいらっしゃったのだろうけれど、最近は姉姫様と一緒にお稽古などをなさっていらっしゃることが多くなっていらっしゃるため、こちらにはいらっしゃらなかった。


「お任せください」


 受け取った封筒を落としたりしないように収納すると、門までお見送りに来てくださるという王妃様のお申し出を丁寧に遠慮させていただいて、門衛の方に挨拶をしてから直接住居地区へと飛び立った。

 ギルドを通しての配達などを利用すると数日かかることになるけれど、自分で直接届けるのであれば、その日のうち、もっと言えば、書いてすぐにでもお届けすることが出来る。

 さらに、ただのお手紙とはいえ、王族の直筆書だ。余計な混乱や騒ぎが頼んだギルドで起こらないとも限らない。

 だからといって、文官の方に頼んだのでは、これ以上堅くなってしまうことは確実で、相手方にも必要以上に緊張を強いることになってしまい、王妃様の意図から外れかねない。

 空の上は、馬車のように道なりに進まなくてはならないということもなく、一直線に目的地まで辿り着くことが出来るため、住所の確認をしながらでも、お城を出てから数分で相手方のお屋敷まで辿り着くことが出来た。

 お屋敷のお庭の前に降り立つと、丁度お庭に出ていらして花壇をいじっていらしたメイリーン様と、メイリーン様のお母様でいらっしゃるユリア様が、目を丸くされて、ポカンと口を開けられたご様子でこちらを見つめていらした。

 

「ご機嫌麗しゅう、ユリア様、メイリーン様。ユースティアでございます。本日は、姫様、若様からの書状をお持ちいたしました」


 敷地の外の道路で、庭の黒い柵の前で丁寧に頭を下げる。

 顔を上げると、蒼白なお顔を浮かべられたユリア様が今にも崩れ落ちてしまわれそうな震える声で口を開かれた。


「わ、私共がどのような不敬を致したのでしょうか‥‥‥」


 この世の終わりとでもおっしゃるかのように、膝から崩れ落ちてしまわれると、夫はただいま出ておりまして、申し訳ございませんと、何故だか謝られてしまった。


「私共はどうなっても構いません。ですが、どうか娘は、メイリーンだけでもお見逃しいただけないでしょうか」


 ええっと、どうやらおふた方との間に大分勘違いというか誤解が発生しているようだ。

 とりあえず、悪い知らせを持ってきたわけではないと分かっていただくためにも、僕は出来る限り優しく見えるように微笑みを浮かべた。


「本日は姫様方からのお手紙をお持ちしただけで、特別な意図があるとか、そういった類の手紙ではございません」


 おふたりのお顔に困惑が浮かぶ。

 お城の、姫様、若様からの手紙ともなれば、よほど重大な用件なのだろうと覚悟していらしたようで、お顔を見合わせられている。


「あの、今、夫は仕事で出ているのですが、私どもで構わないのでしょうか?」


「はい。宛名はメイリーン様のものとなっておりますので」


 恐る恐るといった感じで、僕の手から手紙を受け取られる。


「今、拝見しても‥‥‥?」


「はい。お返事をいただいて来るようにと」


 もちろん口頭で構いませんと付け加える。

 同時に目を左右され、一読されたメイリーン様とユリア様は、目を瞬かせられると、再度手紙に目を通された。


「‥‥‥あの、王族の方を疑うわけでは決してございませんが、その」


 隣人、知り合い、学院などの友人ならばともかく、王族の方からの手紙で『今度遊びに行きます』などと言われても、それはさぞかし困惑されることだろう。

 手紙ですらこれなのだから、いきなり、直接いらっしゃるようなことはなさらなくて本当に良かったと思う。


「はい。内容はその手紙に書かれている通りでございます。姫様方も先日の集まりに大変ご満足されたようで、是非、また先日のように、今度はこちらから普通に遊びに行かれたいと」


 特段、何かあるというわけではなく、普通に遊びにいらしたいとの旨をお伝えしたのだけれど、やはりまだよく理解してはいただけていないご様子だった。


「メイリーン様、ユリア様も、ご友人とお遊びになられることはおありの事と思います。是非、同じように姫様方ともしていただけたら、と」


「‥‥‥これは、その、私共だけということでしょうか」


「いえ。これから、別のお宅にも伺わせていただきます」


 若様、姫様方が認められた、封筒の束を取り出してお見せする。


「一応、先日のようなパーティーではなく、あくまでも、個人として、窺われたいとのことでしたので、是非、先日のように姫様方とも仲良くして頂けたら幸いです、と王妃様も仰っておられました」


 それから、出来れば、これから尋ねる他の家の方とも一緒に、という旨も付け加えておく。


「先日のお家の中で、どちらか、都合の良くないお相手などはありますでしょうか? おありのようでしたら、そちらを考慮致しますとも、王妃様はおっしゃっておられました」


「い、いえ。仲が悪いなどということはございません。むしろ、ユリアも、私共も、親しくさせていただいております」


 それでは失礼致しましたと頭を下げ、何だか放心していらっしゃるご様子のおふたりを置いてゆくことは忍びなかったのだけれど、他に行かなくてはならない家も、お城でやるべきこともあるので、僕は次のお宅へと向かわせていただいた。

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