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友人宅へ伺うのにも色々と問題はおありです

 お茶会、という名の王妃様のお誕生日のお祝いを終えてから数日が経過していた。

 あれから王妃様は、姫様、若様にご友人となられそうな関係の繋がりが出来たことを大層喜んでいらして、近いうちにもまた、お花見とか、そんな感じの名目で別の子どもたちともご一緒になる機会をお作りになられようとしているご様子だった。

 とはいえ、そう易々と国民の皆様を巻き込んでしまう事には抵抗があるらしく、くじを作成されたのは良いものの、若干、持て余していらっしゃるようだった。

 だからといって、若様や姫様が御自ら直接先日の方々のところへ向かう、というのも難しいだろう。

 お城にいる限りは、僕も含めて、護衛の方がたくさんいらして、どこへいらっしゃろうとも即座に駆けつけることが可能だけれど、外へ出るとなるとそうはいかない。

 たとえば、まだ数年先の事だとはいえ、エイリオス様に限って言えば王位継承者だ。そして、お城の方ならば、エイリオス様がリンウェル公国の姫君、フェリシア姫様のことを多少なりとも気にかけていらっしゃるということはご存じのはずだ。

 仮に、あくまでも仮にだけれど、城内、もしくは貴族の方の中にエイリオス様とフェリシア姫様の関係をよく思っていらっしゃらない方がいらして、誘拐だとか、暗殺だとかを企てていらっしゃる場合、お城から出る、つまり、ここの警備を離れるということにでもなれば、これ幸いにと何かしてくるかもしれない。

 それは、何も、エイリオス様の御身に関係することばかりではなく、国王様の意思を変えるために、とか何とかという理由で、ご兄弟姉妹、ひいてはお知り合いだとか友人だとかいうだけでも、迷惑が及ぶ可能性がないとは言い切れない。

 憶測ばかりで動けなくなってしまってはいけないとは思うのだけれど、いつ、どこで、誰が、どんな恨みなどの負の感情を抱いていらっしゃらないとも限らない。若様、姫様方にはもっと自由に、気のままにいらして欲しいと思う反面、出来るだけ安全に、安心にお過ごしいただきたいという気持ちも存在している。

 それらの事は、当然王妃様もよく、十分過ぎるほどにご理解していらして、それでもどうにか出来ませんか、と、僕のところへ相談にいらしたということだった。


「すみません。無茶なお願いだと分かってはいるのですが、エイリオスやフィリエが楽しそうに先日のお茶会の事を話してくれるものですから」


 お城に来ていただくのと、相手方のところへ出向くのとでは、当然、意味合いが違ってくる。

 それに、そういったしがらみの件を抜きにしても、外へ出ることには様々な危険、例えば護衛の少ない状況での襲撃なども全くないかといえば、そうと言い切ることは出来ないだろう。

 しかし、このまま何もしないというのも、先日の件を無駄にしてしまうということになる。

 そう何度もパーティーを開くわけにはいかないだろうし、王妃様のときが特別だっただけで、基本的にお身内で祝われる誕生日に、他の方をお城にお招きするということもなく、最も近いところではエイリオス様の誕生日のお祝いも、今までの事を例とするのであれば、やはり招待状などを出されたりすることはないだろう。

 こちらから、いつ尋ねますという手紙をお書きになって––おそらく拒否されることはないだろうけれど––それから、というのがおそらくは一番丸いやり方に思える。王族の方が、急にお家を訪ねられて、遊びに来ました、では、色々と無理があるだろう。

 王妃様もご存知のこととは思うけれど、学生とか、普通の子供が遊びに行くような、関係自体は良いのかもしれないけれど、感覚はしっかりと知っていらっしゃらなければならないと思う。

 

「分かりました。まずはお手紙を、ということですね」


 王妃様はわずかに気を落とされたご様子だった。

 学生の友達、というのがどのような感覚のものかは分からないけれど、少なくとも形式ばった手紙を書いてから遊びに行くというようなことはないのだろう。


「はい。それがよろしいかと」


 もっとも僕だって詳しいわけではないのだから、あくまでも安全面からそう言っているだけであり、他の方にお尋ねになられれば別の、もっと適したお答えを返してくださることだろうけれど。


「では、その際にはユースティアさんに護衛をお頼みいたしますね。騎士団の皆さんでは威圧感を与えてしまいかねませんから」


 究極的に簡略化して言うのであれば、知り合い、もしくは友達の家に遊びに行く、という事だけだ。

 それにわざわざお城の騎士団を動かしていては『友達』『友人』という関係は難しいとお考えなのだろう。

 僕1人で、というのは責任が重大過ぎるとも思うけれど、そこまで信頼してくださっているのであれば、その信頼には応えられるよう努力しなくてはならない。


「承知致しました。その際には私が護衛を務めさせていただきます」


 王妃様は、思い立ったら則行動とばかりに、早速エイリオス様とレガール様のところへ向かわれるようで、失礼いたしましたと魔法師団に充てられている部屋から出て行かれた。

 実際には国王様を脅かそうという方なんていらっしゃらないかもしれないし、僕が気にしすぎているだけだろうとは思うのだけれど。

 王子様と友人、という、当人方にとっては全く気になさらないような間柄でも、他人からしてみれば思うところもあるかもしれない。

 もちろん、若様に限った話ではなく、姫様方の場合にも同じことは言える。

 もっとも、若様、姫様が出かけたいとおっしゃるのであれば、そのご意思を僕ごときが邪魔できるはずもないので、最初から答えは決まっていたのだけれど。

 それから、王妃様が手紙を認めて戻っていらしたのは2時間も経たないうちのことだった。

 王族の方からの手紙が、それも個人的な依頼だと何か勘ぐられる可能性もあるだろうから、その場で僕がお手紙の配達を引き受け、ついでに返事を受け取るという役を仰せつかった、というよりは、任せていただいた。

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