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王妃様のお誕生日 4

 エイリオス様とレガール様のところには王妃様がいらっしゃった。

 王妃様はお祝いの言葉に、ありがとうございますと笑顔で答えられながら、エイリオス様とレガール様の背中を押していらした。

 集まっていらっしゃる男の子のお客様は、半円を描くように王妃様と、それからエイリオス様とレガール様の周りに集まって、エイリオス様のお話しに耳を傾けていらっしゃった。


「母上は、友とは自然にそうなっているもので、特別こうして頼んだりしなくともよいものだとおっしゃっていたのだが、母上には申し訳ないと思っているが、私には自然とそうなるだけの時間を他人と過ごすだけの余裕がない。成長すれば変わって見せると思っているが、今の私はまだ未熟で、王族としての務めを果たしながら、自分から行動を起こすまで手を回すことが出来ない。ゆえに、こうした機会でもなければならないのだということを了承して貰いたい」


 エイリオス様の言い回しは、エイリオス様の人となりを多少なりとも知っている僕たちからすれば、緊張なさりながらも頑張っていらっしゃるのだなあと温かな気持ちになるものだったけれど、そうではないお客様からすれば、なんだか回りくどいと感じられるような内容だったかもしれない。

 エイリオス様のお話が終わり、レガール様がよろしくお願いしますと頭を下げられると、多少は弛緩した空気にはなったものの、やはりどこか戸惑っている雰囲気が強く残っていた。

 そんな中、座っていらした方の中から、1本の腕がするすると挙げられた。


「はい。ええっと」


「クロム・ヴルムクヴィストと申します。本日はお誕生日、誠におめでとうございます、王妃様。それで、もしよろしければ、私目にいくつかお尋ねすることをお許しいただけないでしょうか?」


 クローディア様が、もちろんです、とおっしゃられると、立ち上がられた青年は、ありがとうございますと、膝をつかれた。


「どうぞ、なんの遠慮もなくおっしゃられてください」


「では失礼いたしまして。先程までのお話の事を考えますと、つまり、立場に依らない対等な関係の、私共が学院や日々の生活の中ではぐくむような、そんな友人を望まれていらっしゃるということで相違ないでしょうか?」


 王妃様は頷かれる。


「その通りです。今まで、私共の過保護ということもあったのでしょうが、子供たちには同性の、兄弟以外のお友達と呼べるような相手がいませんでしたから」


 王妃様がご自身の想いを語られるのを、子供たちも、お母様方も、ただ黙って聞いていらした。


「私も国王様にお声をかけられるまでは学院に通っておりましたから、お友達が人生においてどれ程の宝物になるのかは十分に存じているつもりです。それは、子供たちも、ロヴァリエ王女やリーリカ姫様、オズワルド王子やフェリシア姫様との交流で理解してくれていると思っています」


 王妃様の例えは少し特殊過ぎるとも思えたけれど、姫様、若様方と『友達』といってもいいかもしれない関係になられたのは、僕の知っている限りではその御4方しかいらっしゃらない。

 事実、王妃様の口から告げられる名前に、いらしてくださった子供たちはもちろん、母親の皆様も目を白黒となさっていた。普通に暮らしていたら、自国の王族の方ですら見かける機会はなく、関係も想像しにくいのだから、他国の姫様ともなればなおさらだ。

 幸運なことに、と言っても良いのか、お客様の意識は王妃様に集中されていたらしく、フェリシア姫様のお名前が出た時に、エイリオス様が少しばかり身体を硬直させられ、緊張なさったお顔を浮かべられたのにはどなたも気づかれなかったらしい。


「もちろん、エイリオスとレガールが––ナセリアやフィリエ、ミスティカもそうですけれど––皆さんとお会いするのは今日が初めての事ですから、いきなりというのは難しいのかもしれません。ですけど、どうか、この子達が望んだときには、友人としての関係を考えてはいただけないでしょうか」


 また1人、クロム様よりも鍛えこまれているような、力強そうな腕が挙げられた。


「自分はヴァンスロート・エールと申します。自分は現在、修業中の身であり、将来は騎士団にも実力で入団するつもりでしたが――失礼いたしました。もちろん、優遇などは求めておりません。是非、将来お仕えするべき方の実力を、と思っておりました。自分は、こうした戦いの中からも友情は生まれ得ると考えております」


 集まられた男の子の、或いは男性のお客様の中からも、ああ、彼か、といった雰囲気が感じられる。ヴァンスロート様のこういった性格をご存知なのだろう。


「良かろう。それが条件とあれば––ユースティア」


 エイリオス様に名前を呼ばれ、皆様が振り向いて少しばかり驚かれたようなお顔をなさる中、僕はエイリオス様の元まで歩いてゆき、膝をついた。


「こちらにございます、エイリオス様」


 エイリオス様のおっしゃられようとなさっていることは十分に理解できていた。

 僕は収納して持ち歩いている木造の剣を二振り取り出す。

 驚いたような声が挙げられる中、エイリオス様はその剣をとられると、一振りをご自身の腰に、もう一振りをヴァンスロート様に渡すようおっしゃられた。


「これは決闘ではない。貴殿が私の実力を測るための模擬戦だとでも考えていただきたい。もちろん、年齢も、体格も、勝っているところのない私から、普段から私などよりもずっと鍛えこまれているであろう貴殿に対して侮辱だと思うのであれば取られる必要はなく、拒否していただいても構わない。その場合は、武術でも、魔法でも、勉学でも、他の方法で実力を示すことになるが、貴殿の言からすれば、これが最適な方法であろうと思っている」


 エイリオス様の瞳がどこまでも真っ直ぐだったからだろうか。この、普通では考えられない行動に対して、何か口を挟むことのできる方はいらっしゃらなかった。クローディア様ですらも、少しばかり動揺していらっしゃるようにお見受けできる。

 しかし、ヴァンスロート様は、


「侮辱だなどということは全くございません。しかし、よろしいのですか? 自分は手加減の苦手な男です」


「構わない」


 あれよあれよのうちに、雰囲気が出来上がってしまい、エイリオス様とヴァンスロート様が剣を合わせられるという、まさかの事態になってしまった。

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