王妃様のお誕生日 3
僕も参加するように言われたからといって、自身に任されている仕事をしなくてもよいという事にはならない。まずはお城に仕える者として、いらっしゃった他家のご令嬢、御令息の皆様を会場となる部屋までご案内する。
とはいえ、今回お部屋まで案内するのはご令嬢の皆様だけで、御令息の皆様には庭に出ていらっしゃるエイリオス様とレガール様とのご交流を深めていただけるように案内する。
もちろん、僕は男なので、姫様方がいらっしゃる部屋の中ではなく、エイリオス様とレガール様が待っていらっしゃるお庭へとご案内する手はずとなっている。姫様方の方へはユニスがついて行ってくれるという事だった。
「では、これより会場にご案内いたしますので、御子息の皆様は私に、お嬢様方はこちらにおりますメイドのユニスに付いてきてくださいますようお願いいたします」
僕の言葉に、お母様方はもちろん、お子様達も不思議そうなお顔を浮かべられる。
懸念していたことは現実だったようで、何かございますでしょうかとお尋ねしたところ、恐る恐るといった感じにお母様方の中から手が挙げられた。
「あの、本日私共は、王子様にはお会いすることは叶わないのでしょうか?」
こういった質問が出されることは当然予想されていたので、それに対する回答も用意していただいているし、お城に入る前、そして馬車がお迎えに向かわれた際にも説明がなされているはずだ。
「そのことに関しましては、チラシにも明記しておりますし、先程も説明を受けていらっしゃるとは思いますが、改めてご説明させていただきます」
僕とユニスは、今回のパーティーに関して詳しくその意図などを説明させていただいた。
もちろん、王妃様のお誕生日をお祝いするためのものであることには違いないのだけれど、王妃様が若様、姫様方に異性だけではなく同性の『お友達』も望まれた事、それは決して将来的な恋愛だとか、結婚だとかとは関係がないという事など。王妃様のお考えをそのまま伝えさせていただいた。
「えっ‥‥‥では、チラシの文面通りの、そのままの意味という事でしょうか?」
「はい。その通りでございます」
こちらとしても、普段通りのお召し物でいらしてください、とか、お持たせなどは必要御座いませんとか、なにより『お友達』としての交流、親交を深めるのが目的であると、出来得る限りのアピールはしてきたつもりだった。
それでもこうして、こちらの意図が正しく伝わらないだろうとも予想はしていたけれど。
まさかお帰りになられるという事にはならないだろうけれど、僕は改めていらしてくださった皆様に頭を下げた。
「誤解が御有りだったのでしたら申し訳ございません。たしかに皆様のお考えも理解できます。こうして若様、姫様とお会いになる機会などそうそうある事ではございませんから、今回、そうして繋がりを作り、出来ればそのまま、とまではおっしゃられずとも近いことを、もしくは、『お友達』というのは建前で、本当は婚約相手を探すための体の良い文言だと思われていた方もいらっしゃることでしょう」
奥様方ほとんど全員の視線が気まずそうに逸らされる。呆れられるとか、憤慨されるとか、もっと悪い反応をされるだろうと想像していたので、これらはまだ良い方だった。体面をとられたということもあるのだろうけれど。
「もちろん、将来的にはそういった目的でのパーティーも開かれる可能性が、全くないとは申しません。私には決定権はないので、何とも申し上げることは出来ないのですが。ですが、今日のところはどうか、難しい事とは思いますが、若様、姫様方の、普通の、同性の『友人』となってくださいますことを私共、それから、国王様、王妃様も望まれているということをご理解いただけますよう、お願い申し上げます」
「あくまで友人は友人ですので、これにより、何か領地が優遇されたり、特権が与えられたリなどということはございません。もちろん、皆様が他のご友人にそのような事を望まれていらっしゃるのであれば、こちらとしては何も申し上げることは出来ないのですが」
僕に続いて、ユニスも説明の補足というか、希望を断ち切るような事を事務的に告げる。
もしかしたらまだ希望があるかも、と思っていらしたのかもしれなかった奥様方の表情が、さらに沈み込んでしまわれた。
女性にこのような顔をさせるのは、大変忍びない事だったけれど、今、優先されるべきは、王妃様の意図と、姫様、若様方の事であり、申し訳ないけれど、優先順位をつけさせていただいている。
「––もし、ご不満がおありのようでしたら、こちらでお帰りになられても構いません。ただ、私共は、打算や下心のない––全くないというのも難しい事かとは思いますが――『普通の』友人を作っていただきたいと思っているのだということは、伝えさせてください」
人間、欲望に忠実な部分がどうしても存在する。
自身の利益のために他人を売ったり、それこそ欲望のままに他者を汚したり。そこまでひどくはなくとも、打算やら何やら、全くなく付き合うことの出来るのは、少なくとも、姫様、若様方のような身分の方に対しては難しいだろう。
「もちろん、異性の友人も必要性については存じ上げております。そのことに関しましては王妃様も、国王様もお考えになっていらっしゃいますので、また別の機会にはそのようなこともあることと思います」
「お相手がお相手ですので、難しいかもしれないとは思っておりますが、友人から始まる恋愛というのもあるのではないでしょうか? それは個々人様方の努力次第と考えておりますので、こちらからどうこうできることはございませんが、とりあえず、今日のところは同性のご友人としてのお付き合いを考えてみてはいただけませんでしょうか」
僕とユニスは頭を下げてお願いしながら、しばらく皆様が決断なさるのを待っていた。
こちらとしてはほとんど、出来るだけの説明はさせていただいた。その上で、選ばれるのはいらしてくださった皆様なので、これ以降はお任せするしかないわけだけれど。
結果から言えば、お帰りになった方はいらっしゃらなかった。もっとも、王妃様のお誕生日のお祝いだからということもあるのかもしれないけれど。
「ありがとうございます。若様、姫様方は大変素晴らしい方です。是非ともよろしくお願いいたします」
「もちろん、その後には、王妃様のお誕生日をお祝いする会場へもご案内させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」
僕とユニスはそれぞれ、僕は男性のお客様を、エイリオス様とレガール様が待っていらっしゃるお庭へ、ユニスは女性のお客様を、ナセリア様、フィリエ様、ミスティカ様が待っていらっしゃるお部屋へと、案内させていただいた。




