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王妃様のお誕生日

 花の月も終わりに近づき、王妃様のお誕生日の当日は、気持ちの良い青い空が広がっていた。

 花の月の終わり、ということもあって、お城の庭に咲いていた木々がつけていたピンクや白の花はほとんど散っていて、緑の葉をつけている。

 料理の下ごしらえも、昨晩のうちに済ませてあって、今年は盛大なパーティーが開けるのだと張り切っておられた料理人の皆さんが腕によりをかけられた、サンドイッチやミートローフ、食べやすいように葉っぱに乗せられたポテトサラダなんかの美味しそうな料理や、チョコレートの混ざったクッキーやマフィン、林檎のジャムを添えたスコーンや餡の詰まった砂糖がけパン、さっくさくに焼き上げられたいちごのパイにサクランボのタルト、他にもたくさんのお菓子やお料理を乗せたお皿が、庭でも、部屋の中でも、テーブルの上に並べられている。

 一緒にいらっしゃるだろう親御様のお相手は国王様と王妃様が御自らなさるということで、僕は姫様、若様に混ざってきてください、との命を受けている。


「いつも子供たちの面倒を見ていただいているからといって、ユースティアさんの事を忘れているわけではないのですよ」


 王妃様は子供に言い聞かせるような優しい口調で、柔らかい笑顔でそうおっしゃられた。

 姫様方と若様方––今日のところは子供たちは、すでにお庭に出ていらっしゃる。


「あなただって、一番年上のナセリアと比べたって、5つも離れているようには見えません。普通であれば学院に通っていらっしゃるような年齢で今のようなのにはよほどの事情が御有りなのでしょう」


 クローディア様には、当然、自分の身の上の事を話したことはない。

 僕の話を聞いた、ナセリア様や、ユニスや、ミラさんが他の人に話すとは思えないので、何となくそう思っていらっしゃるだけなのだろうけれど、人の親としての勘なのか、僕もわずかに緊張を禁じえなかった。


「子どもたちにも、それからあなたにも、無理にとは申しません。ただ、私個人としては、お友達というのは、悪いものではなく、良いものですと伝えたかったのです」


「私も悪いものだとは思っていませんよ。むしろ、ロヴァリエ王女やリーリカ姫様、それにフェリシア姫様と関わられるナセリア様達の様子を見て、良いものなのだろうとは思っています」


 思っているだけで、分かってはいないのだけれど。

 家族以外の他人との深い関わり方が分かっていないだけなのかもしれない。

 王妃様は何かを決意されたようなお顔をなさって、


「私、決めました。是非、今日のお誕生日会、うぅう、いえ、これも子供たちの事を思えば小さなことです、お誕生日会ではユースティアさんにも是非、お友達と呼べる方を、そのとっかかりだけでも作っていただきます!」


 王妃様は––大変失礼ながら––ご自身も子供に戻られたかのようなご様子で、ぎゅっと可愛らしく拳を握り込まれて、僕の事を見つめられた。

 僕だって、色々と聞いて回ったりして、友達に関しては学んだつもりだ。聞いた相手はお城に勤めていらっしゃる方がほとんどなので、偏りがあるかもしれないけれど。

 エイリオス様やレガール様に、駆けまわったり、剣や武術、魔法のお稽古なんかを一緒に出来たりするような、良いことなのかどうか分からないけれど、ちょっとやんちゃな男友達がお出来になったり、ミスティカ様やフィリエ様とも読書や刺繍なんかを一緒になさったり、行き過ぎな行動に歯止めをかけたり、お説教をしてくれる、しっかり者の親友がお出来になったり。

 それからもちろん、ナセリア様にも活発な女友達がお出来になって、こもりがちな妹姫様共々、お庭を駆けまわられたり、ちょっとしたピクニックやお買い物なんかにも一緒に出掛けられるような、そんな親友はいきなりというのは難しいかもしれないけれど、出来たらいいなと思っている。

 

「あっ、でも、新年パーティーの時のようなことになったらどうしましょう」


 新年パーティーのときには、たしかに姫様方と同年代くらいの、もちろん貴族の方だったけれど、子供たちはいらしたことはいらしたのだけれど、仕方がないというか、異性ばかりが集まっていらして、とても王妃様がお話しくださるようなお友達が出来そうな雰囲気ではなかった。


「––では、男の子同士、女の子同士と、部屋、もしくは場所を分けられてはいかがでしょう。いずれは、異性のお友達も必要になるかもしれませんが、初めですし、同性の方がお友達としては始めやすいのではないでしょうか?」


 このお誕生日会の目的のようなものを聞いてから、空いている時間を見つけて、街中に、姫様方と同じくらいの年齢に見える子供たちが遊んでいないかどうかを見にいったりもした。

 学院で見かけた生徒の皆さんよりも若く、姫様方と同じ年頃にみえた男の子や女の子は、店の間を駆けまわったり、広場で注意されたりしながら木の棒を振り回していたり、水かけっこをしたりもしていた。

 王妃様も、それは良さそうですね、とおっしゃられて


「私の知っているのは女の子の事ですけれど、お部屋の中でも、双六をしたり、ファッションの話をしたり、それから恋の話をしたり––すみません、これは前にもお話いたしましたね」


「いえ、王妃様のお話を聞くことが出来て光栄です」


 僕もなんとか自分の事から話題を逸らしつつ、お客様、お友達になってくださるかもしれない方達がいらっしゃるのを待っていた。


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