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王妃様の誕生日にという名目。或いは、子供たちに友達を作るという名目。どちらが国王様の真意なのかはわからない

 ラノリトン王国と、その後のちょっとした寄り道を終え、僕たちは無事にリーベルフィア王国王城まで帰国することが出来た。

 個人的にはあまり思い出したくないトラブルや、エイリオス様にとっては将来的ななんやかんやがありそうな結構重要なイベントかもしれなかったことが起こったりもしたのだけれど、少なくとも表向きは行ったときと同じ、皆様向こうでも元気でいらっしゃいましたとご報告することができた。


「ユースティア殿の目から見て、エイリオスとフェリシア姫の関係はどうだっただろうか?」


 アルトルゼン様は、面白がっていらっしゃるのか、本当に嬉しく思っていらっしゃるのか、優雅に微笑まれた。

 ラノリトン王国へ向かう前、姫様方のことはあんなに心配していらしたのに、若様のこととなると話は別らしく、フェリシア姫の事に関してあれこれと尋ねられた。


「人の気持ちなど、私などに計ることのできるものではございませんが、個人的な感想でよろしいのであれば、おふたりの仲はそれほど悪くないようにはお見受けできました」


 ただ迷子になっていらしたところを助けられ、忘れ物を届けられただけの関係だったけれど、出会われてまだ数日しか経っていないのだから、これからどうなるのかなどおふたりに任せるしかない。

 すくなくともエイリオス様に関しては、フェリシア姫様の寝ていらっしゃるところへついキスをしてしまわれるくらいには惹かれていらっしゃるのだとは思う。

 物語ではないのだし、命に係わる事態というわけでもなかったのだから、意識の明確ではない女性に対しての接触など決して褒められる行動ではないのだけれど、普段、王様になられるための勉強に打ち込まれていらっしゃるエイリオス様のお姿を知っている身としては、普段とは違い、普通の男の子のようなところもお持ちなのだなあとあたたかい気持ちになる。僕の考える『普通の』というのが、世間一般の常識とどの程度離れているのかはわからないけれど。


「まあ! それは素敵ですね!」


 王妃様がうっとりとした表情で手を合わせられる。国王様も楽し気な表情を浮かべられた。

 それは、いつだったか、そう、昨秋の感謝祭の後、お城でのお祭りを開いた際、ナセリア様の『仲良し』に関して僕にお尋ねになられたときと同じような表情だった。


「子供たちの仲良しが出来ることはとても喜ばしいことだ。しかし、現在、基本的に子供たちは城の中だけに限定してしか動くことが出来ない。ならば、お城に子供たちと同年代くらいの子供たちが遊びに来れるような機会があればいいのではないか?」


 国王様が同意を求められると、王妃様も「それはよいお考えですね、国王様!」と大変喜んでいらっしゃるご様子だった。

 僕はといえば、話の内容も気にはなっていたのだけれど、その前に国王様が浮かべられた意味深そうな笑顔の方が気になっていた。


「では王妃の了承も得られたことだし、今年の王妃の誕生日に合わせて大々的な誕生日パーティーを開催しよう。王妃を祝うためという大義があれば、城を訪れるハードルも多少は下がるだろうというもの。国民からの信望も厚い王妃のためならば、大勢の国民が集まることだろう。では、ユースティアよ。貴殿から皆に王妃の誕生日パーティーを盛大に執り行う旨を伝えてくれ。書面はすぐに私が認めるので、今から私の執務室に来て欲しい」


 アルトルゼン様は一気にそこまでおっしゃられてしまった。

 王妃様が言葉の内容を理解される前には、マントを翻されて、玉座から立ち上がられると、事態をよく呑み込めていない僕と王妃様を尻目に、おそらくはご自身の執務室へ向けて歩き出されてしまっていた。


「ちょ、ちょっと、国王様!」


 ようやく言葉を呑み込まれたらしい王妃様が、大層慌てていらっしゃるご様子で、けれどすでに玉座の間を離れてしまわれた国王様のところへはどういったら良いのか分からないような気持ちなのだろうというお顔を僕へと向けられる。

 以前ナセリア様から伺ったお話によれば、王妃様の––に限らず、御身内の––そういったパーティーをお開きになるというのは遠慮なさるようになられたという事だったのに。


「ど、どうしたら良いのでしょう、ユースティア様」


「わ、私に尋ねられましても」


 王妃様が僕のところまで詰め寄っていらして、縋るような瞳を向けられる。

 この世界へ来てから初めて気がついたときに、女神様だと勘違いしてしまった王妃様を、これほどまでに近くで見るのは、あの時以来2度目だ。

 困っていらっしゃるお顔もとても魅力的な方なのだけれど、体勢的に少し困るものもあって、思わず目を逸らしてしまう。


「私はただの町娘で、偶々目に留めていただいただけの学生だっただけで、その、あの」


 僕なんて学生ですらない、ただのユースティアだったのだから、多少は慣れてきているとはいえ、このように煌びやかな世界にそれほど耐性があるわけではない。


「落ち着いてください、王妃様。国王様は王妃様を心より愛していらっしゃいます。そのことは十分にご理解頂けていらっしゃると思いますが、その国王様が、王妃様を悲しませるようなことや、辛い思いをなさるようなことをなさるはずありません」


 それだけは確実だ。


「王妃様。エイリオス様のところへ向かわれてはいかがでしょう。事の起こりを考えたのなら、エイリオス様とフェリシア姫様の事から始まったのです。おそらく、国王様はエイリオス様のところへ向かわれて、フェリシア姫様にお手紙を出すように勧められるはずです」


 王妃様はエイリオス様とフェリシア姫様の仲をとても喜んでいらしたご様子だったので、王妃様を喜ばせるためにも、国王様がそうお勧めするだろうということはかなりの確率であるように思えた。


「そうでした。エイリオスにフェリシア姫様の事を尋ねなくてはなりませんものね」


 恋愛ごとは他人が嘴を突っ込むと本人たちの為にはならないと、色々な人が駄弁っていらっしゃるのを聞いたことはあったけれど、その手の話が浮かぶくらいには、他人の恋愛ごとに嘴を突っ込む人が居らっしゃるということだろう。王妃様も例外ではなかったということだ。


「フィリエ、は大丈夫でしょうから、ユースティア様。ナセリアを連れてエイリオスのところまできて下さいませんか」


 王妃様はそれきり、エイリオス様のところへ歩いていってしまわれたので、僕もナセリア様を探しに歩き出した。

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