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リンウェル公国 2

 お城へと到着し、本殿へ続く長い並木道に入ると、端から端まで侍女侍従と思われる方達がずらりと並んでお出迎えをしてくださった。

 馬車が止まると、まず僕が馬車から降りて、扉の前に台を用意する。

 続いてフィスさんが降りてこられて、エイリオス様とレガール様の手をとってお導きなさっていた。向こうの馬車では、ユニスとルーミさんが同じように、ナセリア様、フィリエ様、それからミスティカ様の手をとっていた。


「ようこそお越しくださいました」


 完全に揃った完璧なタイミングで従者の皆様が頭を下げられる。

 表情にこそ出しはしなかったものの、僕は完全に一杯一杯だった。

 ラノリトン王国でもここまで大々的な歓迎を受けたりはしなかった。もちろん、あの時はリーリカ様がお眠りになっていらしたという、ラノリトン王国の一大事が起こっていたため、そんな余裕はなかったのだろうけれど、それにしても、度肝を抜かれたというか、なんだか頭がくらくらしてきそうだった。

 たしかにリーベルフィアではロヴァリエ王女をお出迎えしたことはあったけれど、こんな風に自分が––当然主賓ではないにしろ––出迎えられるなんて初めての経験だ。というより、普通に暮らしている中で、こんな目に遭うことはそうそうない。

 内心で冷や汗が滝のように流れる僕とは違って、姫様方は落ち着いていらっしゃるご様子だった。

 馬車を降りて歩いていらしたナセリア様とフィリエ様、ミスティカ様は、特に緊張していらっしゃるような様子もお見受けできず、普段とお変わりないご様子だった。


「リーベルフィアから参りました、エイリオス・シュトラーレスです。ご歓待、感謝いたします」


 緊張気味なお声でおっしゃられたエイリオス様に続いてレガール様もぺこりと頭を下げられ、ナセリア様、フィリエ様、ミスティカ様も順番に優雅にお辞儀をなされた。

 ミスティカ様が挨拶を終えられると、案内に従われた馬車が離れて行く。


「急な来訪で、持参品なども何もなく、申し訳ない」


「とんでもございません。それで、よろしければ私どもにお仕度などを運ばせていただきたいのですが」


 エイリオス様の視線が、ほんの一瞬、僕の事を捉えられる。


「それには及びません。こちらの用意は全て私共の信頼のおける者に運ばせていますので。勘違いさせてしまったのでしたら、申し訳ありません。そちらを信頼していないということではなく、こちらの方が移動には便利なものですから」


 僕は深々と頭を下げる。

 僕の事を信頼してくださっているのか、すべての必要品は僕が収納している。エイリオス様達にもその魔法はすでにお教えしているため、荷物がかさばったりするようなことはない。


「––左様でございましたか。大変失礼致しました」


 相手方のメイドさんが深くお辞儀をされ、すっと横へ下がられると、お城の本殿らしき白亜の建物の前に、金色の長い髪にエメラルドの瞳の複雑そうなお顔をなさっている美貌の男性と、微笑まし気な笑みを浮かべていらっしゃるクリーム色の髪に赤紫の瞳をなさっているこちらも美人な女性に挟まれるように、フェリシア姫様が立っていらっしゃるのを見ることが出来た。

 おふたりの事はこちらへ来る途中にリンウェル公国に関する記事で読ませていただいている。


「この度は遠いところ足を運んでいただき大変に感謝している。ようこそ、リンウェルへ。私はこのリンウェル公国で大公を務めているイグヴァルト・エスティアナ、それからここにいるのが我妻である、王妃の––」


 イグヴァルト国王陛下が横へと顔を向けられると、クリーム色の髪をされた女性が一歩前へと進み出ていらした。


「はじめまして。ダリアンヌと申します。先日は私共もラノリトン王国へ私用で窺ってはいたのですが、ご迷惑をおかけいたしまして、いくら感謝してもしきれません」


「い、いえ、迷惑などということはありませんでした。そのように頭などお下げにならないでください」


 やはりエイリオス様が緊張気味な声でおっしゃられるのを、僕は後ろに控えながら黙って聞いていた。


「それに、この子、フェリシアの忘れ物もお届けくださるということで‥‥‥」


 エイリオス様が収納の魔法で銀のカチューシャを取り出されたのに、イグヴァルト陛下は「ほう‥‥‥」と興味深げな視線を送られ、ダリアンヌ王妃様は驚かれたように口元に手を持ってゆかれた。

エイリオス様はフェリシア姫様の前で膝をつかれて、先日は大変失礼いたしました、申し訳ありませんと真剣におっしゃられた。

僕たちはエイリオス様から何があったのか聞かされているけれど、フェリシア姫様はお話しになっていらっしゃらないようで、イグヴァルト陛下とダリアンヌ王妃様は、驚いていらっしゃるような、訝しんでいらっしゃるような、戸惑っていらっしゃるようなお顔を浮かべていらした。

 ご自身のカチューシャを見とめられたフェリシア姫様のエメラルドのような瞳がさらに大きく見開かれる。

 屈み込まれたダリアンヌ王妃様に優しく背中を押されるような格好で歩いて来られたフェリシア姫様は、もじもじと恥ずかしがっていらっしゃるようにもお見受けできたけれど、はにかんだ様な笑顔を浮かべられて、「ありがとう、ございます」と小さな声でおっしゃられた。


「‥‥‥昨年のお誕生日にお母様から頂いた大切なものだったんです」


「‥‥‥良かったです。無事こうしてお返しすることが出来て‥‥‥」


 エイリオス様とフェリシア姫様は同じように、同時に手を下げられると、そのまま無言で目を合わせていらしたのだけれど、どちらも、何か言いたげではありながらも、戸惑われていらっしゃるように、口を開かれたりはなされなかった。


「このままここにいても大変でしょうから、どうぞ中へお入りください。昼食には大分時間がありますけれど、是非、それまでここへ滞在していらしてください」


 お顔をほころばせられたダリアンヌ様がたいそう楽しそうにおっしゃって、お断りするのも忍びないと思われたのか、エイリオス様が頭を下げられた。

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