表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/217

リンウェル公国

 ナセリア様の事と、リンウェル公国での諸注意をユニスたちから受けた翌日の早朝。

 僕たちは、今度の入国時には何も問題はなく、リンウェル公国へと辿り着いた。

 春のお祭りでも近いのか、街の中は早朝からすでに賑わっていて、お土産らしいガラス細工や、ここへ来る途中にも通ったオランネルト鉱山に咲いている花を埋め込んであるペンダント、それからアーリスト川で採取された金を加工した各種装飾品など、華やかなお店が立ち並んでいる。

 ユニスたちは馬車の中からでも見えるそれらの装飾品や、聞こえてくるお客を呼び込む声に、瞳を輝かせ、耳をそばだて、大分興味のある素振りを見せていた。


「ユースティア。あれなんて似合いそうね」


「すみません、よく見ていませんでした」


 何故か、ご自分にではなく、僕に似合いそうなのだという装飾品を勧めてくださるフィスさんの事を、前の座席に座っていらっしゃるエイリオス様が不思議そうに首を傾げていらした。


「私はそういった装飾品などには興味はないし、明るくもないのだが、ユースティアは違うのか?」


「い、いえ、エイリオス様。私も、知識としてどういったものがあるのかということは存じ上げておりますが、興味などほとんどございません」


 ナセリア様やフィリエ様、ミスティカ様がどうかは分からないけれど。

 ナセリア様はあまり装飾品などに興味が御有りであるようには見えないし、フィリエ様は綺麗だと興奮はされるかもしれないけれど、ご自身から率先して求められるようには思えない。白鳥が着飾ったりはしないでしょう、とおっしゃられるような気がする。

 ほとんど、といったのは、ああいった金属や宝石などと呼ばれるもの達は高い値が付くことがあるらしいと知っているからだ。

 鉱山で働いていた時に、僕たちが見つけていた宝石なんかは、おそらく高値で取引されたりしていたのだろう。それこそ、あの時の僕らに賃金を払っても十分過ぎるほどのお釣りがくるほど。

 結局、ナセリア様やフィリエ様から、お店に寄りたいなどの念話が送られてくることはなかった。

 並んでいるお店には貴金属など、そういった類の露店だけではなく、普通にお饅頭や焼いた羊のお肉などの食べ物を売っているところもあったのだけれど。

 単に興味をお持ちではなかっただけなのか、それとも今の使命を優先されたのかは分からないけれど、高価そうな––実際、高価なのだろうけれど––馬車に興味を示している様子のリンウェル公国の方の前に姿を見せられることはなかった。


「エイリオス様。お食事ですが、どういたしましょう。このような街中で荷物を広げるわけにも参りませんし、お城に到着される頃にはお昼の方が近くなってしまいますが」


 街中に入る前、オランネルト鉱山の近くであったのならば料理をするために荷物を広げるスペースもあったのだけれど、まさか、すでに王都と言っても差し支えないであろう街の中心付近で調理を始めるわけにもいかないだろう。

 フィスさんが僕の方へと顔を向けられる。


「ユースティア。魔法でどうにかできない?」


 随分とざっくりとした尋ねられ方だったけれど、どうにか出来ないかと言われれば、やってやれないことはありませんと答えるしかない。

 火を出すことは出来るし、その火が燃え移ったりしないようにすることも、匂いや煙なんかが漏れたりしないようにすることも出来るだろう。

 食材に関しても、ラノリトン王国を出発する前に買い込んだ食材はある程度僕の収納でも持ち歩いていたりするので問題はない。

 しかし、それだとナセリア様達が乗っていらっしゃる方の馬車では出来ないし、騎士の皆さんの方にも提供できない。結局、馬車を止めることにはなってしまうので、あまり意味のある事ではないと思える。


「分かっているわよ。言ってみただけよ」


 料理を出来ないことが残念なのか、フィスさんは、エイリオス様達の前ということで、溜息こそつかれたりはなさらなかったものの、残念そうな雰囲気を纏われていらした。


「たまには、既製品を買われるのも良いのではないですか? 幸いなことに、食べる物には困りそうではありませんし、ギルドへ寄れば食事も出してくださると思います」


「それはそうなんだけどさあ‥‥‥。いえ、失礼致しました、エイリオス様」


 どうやら、ラノリトン王国へ向かう途中、自然の中で料理をしたのが楽しかったようなご様子だった。あの時も出来合いのものに対して、プライドが刺激されていらっしゃるようなことをおっしゃられていらしたから、今回も同じような理由なのだろう。


「いや、私は構わないぞ。皆がてづから作ってくれたものの方がおいしく感じられるし、いつも感謝しているが、それでなくてはならないとは、別に気にしてはいない」


「エイリオス様‥‥‥!」


 フィスさんは感極まったご様子で手を組まれると、再び僕の方へと顔を向けられた。

 おっしゃりたいことは分かるので、僕も前方の馬車に乗っていらっしゃるナセリア様へ念話をお送りする。ユニスやルーミさんには送ることが出来ないためだ。

 ナセリア様からのご許可と、ユニスたちの返事の中継をいただいた後、僕たちはやはりアーリスト川の近くに馬車を止めた。街の中心付近の河川は整備されていて、アスファルトやレンガによって舗装されていたり、橋がかけられていたりするけれど、少し離れてオランネルト鉱山の麓の方までゆけば、豊かな自然の緑が目の前に広がる、気持ちの良い光景の中で荷物を広げることが出来た。

 フィスさん達が十分にメイドとしての矜持を果たされ、自然の中で十分に休憩をとった後、あらためてリンウェル公国のお城へと馬車を進めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ