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侵入者との戦い

 僕がナセリア姫と話している間に飛び掛かって来るかと思っていた賊たちは、案外慎重なようで、遠巻きに僕たちの事を包囲しつつ、機を窺っているようだった。

 部屋の中に荒らされている様子はない。そのことに僕は少し安堵した。女の子が知らない複数の男性に自分の持ち物を漁られたなんて、トラウマどころの問題ではないだろうから。

 ナセリア姫の意志を汲むのならば、彼らのことは誰にも知られてはならない。何事もなかったとして、夜明けを迎える必要がある。


「ナセリア姫様、そこから動かないでいてくださいますか?」


 別に、部屋全体とナセリア姫個人、2つの結界を同時に維持することはそれほど苦ではない。けれど、このお姫様が、例えば僕の事を助けようなどと思って戦闘に介入してくるようならば、おそらくナセリア姫にとってこの程度の結界を壊すことは容易だろう。外から破ることは難しいけれど、中からならば簡単に壊すことが出来るからだ。

 そうなった場合、少しばかり厄介なことになる。出来るか出来ないかで言えばきっと出来るだろうけれど、戦う気のある人間を守りながら戦うのはこの人数差の中では割と大変だ。そして、もし予想外の行動に出られた時、僕の方の攻撃が彼女を傷つけてしまう事にもなりかねない。


「わかりました」


 幸いなことに、ナセリア姫は頷いてくれて、大人しくベッドの上で座ってくれた。その視線がじっと僕に注がれているのを感じられる。


「他の奴が来る前にやっちまいな」


 他の護衛が来ないことを幸いと思ったのか、新たな侵入者の警戒をしていた賊が一斉に音もたてずに駈け出してくる。その辺りは流石の技術だと、こんな場面にも関わらず、僕は関心していた。


「とりあえず、刃物は危険かな」


 ナセリア姫に加えられる危害ではなく、ふかふかの絨毯やサラサラのカーテンを引き裂いたり、部屋の中の調度品を壊してしまう可能性が高い。もちろん、修復魔法を使えば元に戻すことは出来るけれど、ナセリア姫も大切なものが壊れるところを見たくはないだろう。

 僕はそれほど大きくはないナイフを持っている男の下へ1歩で詰め寄ると、ナイフを持つ手の手首を掴んだ。

 

「なっ」


 この程度でうろたえるのならば、そもそもこんなことを企てないで欲しい。いや、先程の会話から察するに、彼らはただ雇われているだけという話だけれど、どちらにせよ、こういった仕事をするのには向いていない。

 僕はそのまま手首を捻じりあげ、ナイフをとり落とさせるとともに、床の上に組み伏せて、即座に意識を奪う。魔法による拘束だけにしなかったのは、彼らを確実に行動不能にするためだ。そんなことはないと感じているけれど、彼らの魔法力が高かった場合、拘束を破壊して逃れられる可能性がある。


「はっ!」


 仲間がやられたことに対して、ほとんど動揺しないのは流石だった。

 間髪入れずに、両側から2人がかりで掴みかかりに来る。もはや大きな音を立てても外には聞こえないのだから関係ないけれど、銃器を使われないのは対応も楽だった。

 僕は右側から来る賊の方へと身体を滑らせると、拳をかいくぐり鳩尾に肘をめり込ませた。命に別状はないだろうけれど、しばらく動くことも出来ないはずだ。

 その彼を盾にすると、もう一方から迫ってきていた賊は、一瞬動きを留まらせた。仲間を思う気持ちなのだろうけれど、すでに気絶して戦力的に期待できない相手を思いやる必要はこの場では皆無に等しい。盾をすぐさま相手に投げつけて視界を奪い、その隙に足を払って床に倒し、一瞬で絞め落とした。


「何だこいつは!」


 奪った凶器はすぐに壊して気絶している彼らの懐に戻しておく。彼らの拘束魔法を解くことはないし、自分で武器を持つ気はさらさらない。


「お前達に名乗る名などない」


「糞っ! おい!」


 残りはたったの3人だけど、彼らもようやく慣れてきたらしく、先の人たちのように無暗に飛び込んで来たりはしない。あまり騒ぎを大きくしたくないというこちらの思惑を知られたのかは分からないけれど、僕が援軍を呼ぶつもりがないというのは悟られたらしい。

 ナセリア姫の安全を第一に考えるのであれば、即座に大声でもなんでも人を呼ぶべきだろうけれど、姫の気持ちを蔑ろにしたくはない。


「相手はガキ1人だ。狼狽えるんじゃねえ」


 開きっぱなしの窓から夜風が吹き込み、柔らかそうなレースのカーテンをゆらゆらと揺らしている。音を遮る結界は、光や風までを遮ったりはしない。

 動きがあったのは、月に雲がかかり、月明かりの途切れた瞬間だった。


「‥‥‥なぜ、お前のようなガキが‥‥‥」


 魔法を使わなくても生きてきた環境の為に物音や気配には敏感だったけれど、魔法を使うことを躊躇わないのであればその精度はさらに増す。

 空気の流れや呼吸、殺気、そういったものからも彼らの動きは掴めていたけれど、結界内での出来事ならば、よっぽどの事が起こらない限りは、何が起ころうとも分からないことはない。


「答える義務はありません」


 聞こえているか分からない相手を床に叩き伏せて、確実に意識を奪うだけの追撃をすると、拘束魔法で縛りあげた後、床に転がした。



 ◇ ◇ ◇



 侵入者をいつまでも姫の寝室に転がしておくわけにはいかないので、城門のところに捨ててきた後、僕はナセリア姫の寝室へと舞い戻った。

 ナセリア姫が片付けたようで、争いが起こっていた様子は微塵も感じられなかった。

 

「本当にこの事を国王様にも王妃様にもご報告なさらないおつもりですか?」


 彼らのことは事前に侵入に気付いた僕が片づけたということで処理したとしても、ナセリア姫が狙われたという事実は変わらない。そして、2度目の襲撃がこうして行われ失敗した以上、3度目の襲撃がないとは言い切れない。いや、おそらく3度目もそう日を置かずにあるはずだ。


「ええ。あなたのおかげで何事もなく、こうして無事に乗り切ることが出来ました。報告してしまっては、たとえ事後であろうとも、意味がなくなりますから」


 ナセリア姫はベッドから降りると、完璧な所作で僕に向かってお辞儀をした。


「ありがとうございました、ユースティア様。2度も私をお助け下さって。心配をおかけしなくても済むように、今後一層の努力を致します。ご指導よろしくお願いいたします」


 彼女の金の瞳は空に浮かぶお月さまのように澄んでいて、真っ直ぐに僕を見つめていた。柄にもなく、さらにはお姫様に向かってあんな説教じみたことを言ってしまったせいで、もうどうしていいのか分からなくなっていたけれど、彼女の真摯な瞳を蔑ろにすることは出来ない。


「様など不要でございます。ただ、ユースティアとお呼びください」


 ナセリア姫をティノ達と重ねて、後悔や懺悔なんかの気持ちから言っているのでは決してない。

 ただ僕の心からの気持ちを飾ることなく、そのまま伝えた。


「あなたを信じます、ユースティア。差し当たっては、空の飛び方を教えていただけますか?」


 ナセリア姫は綺麗な笑顔でそうおっしゃられ、僕は約束したけれど、もう既に夜も更けて来ていて、僕は平気だったけれど、ナセリア姫は大分眠そうにしていたし、僕はそのまま部屋を失礼させて貰った。

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