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リンウェル公国へ 3

 ご友人を作ることをお勧めしただけで、何故あのような態度をとられたのかは分からなかったけれど、それ以降、ナセリア様とお話しする機会もなく、夜の食事のときも、明けた朝食の際にお顔を合わせた際にも、僕と目が合うとすぐに別の方向を向いてしまわれて、それでも横目にこちらを窺っていらっしゃるようなので、どうしたら良いものか対応に困っていた。

 何か御用がおありなのかとお話をしようとすれば、不自然にお顔を逸らされるし、かといって何もしないでいても、かなりの頻度でこちらを向いていらっしゃるような視線を感じている。

 休憩中も、フィリエ様とミスティカ様とご一緒に馬車の中で双六などなさっているようで、外へはお顔をみせてくださらなかった。


「ナセリア様となにかあったの?」


 馬車に乗り込むローテーションでも、毎回乗り込む馬車を変えているのだけれど、僕がナセリア様が乗車なさっている馬車に乗っていないときには、騎士の皆さんには何も言われたりしなかったけれど、ユニスやフィスさん、ルーミさんには毎度尋ねられた。


「そりゃあ気にもなるわよ。ナセリア様の態度は、いつもユースティアにくっついていらっしゃる時とは明らかに違うもの」


「そんなにナセリア様と僕は一緒にいるようにみえていましたか?」


 たしかに、お城にいる時、姫様方の中ではナセリア様と一緒にいる頻度が多いかもしれないけれど。

 それだって、ナセリア様がお稽古なんかをなさっていらっしゃらないときに、僕が勉強しているのをみてくださっていたり––ミラさんもよく教えてくださったりはするけれどそういう時にはいつもと言っていいほど、ナセリア様もいらっしゃる––、頼まれるままに魔法をお教えしたりしているだけで、四六時中べったりと一緒にいるわけではない、と思う。


「あのね。そもそも、私たちは姫様方に何かを教えていただいたり、一緒にお話しをするようなことはほとんどないわよ」


「勿論、話しかけてくださるときにはお応えするけれど、まず、日常を過ごすなかで姫様、若様と直接かかわるような機会がそもそもないわけだし」


 それはたしかに、仕事が違うというか、姫様、若様方に直接魔法をお教えする立場にある僕とは違って、基本的に掃除や料理、は料理長様達もいらっしゃるけれど、洗濯などを業務としているユニスたちとでは、顔を合わせる頻度も全然違う。

 それに、防衛の面も兼ねてということではあるけれど、お城に住まわせていただいている僕とは違って、基本的にはユニスたちは、街中の自分の家からお城まで働きに通って来ている。機会も、時間も、違ってくるのは当然だ。


「ユースティア。分かっていてとぼけるのはやめなさい。それとも本当に分かっていないの?」


 フィスさんが、ずいっと顔を近づけられる。

 流石に僕だってそこまで鈍感ではない––と自分では思っている––ので、ナセリア様から向けられてる、ある種、好意とも思える感情のことは理解しているつもりだ。もちろん、フィリエ様達から向けられている感情を理解していないということではない。

 昔から、自慢ではないけれど、他人の顔色を窺うのは得意、というよりも、出来なくてはならない技術だったし、深く入り過ぎない程度の感情を理解することもやらなくてはならなかった。そうでなければ上手くやっていけなかったからだ。

 雇い主に嫌われてしまえば雇ってはくださらないし、お客さんに好かれなければ売ったりするのも難くなり、僕のような子供を雇ってくださる方のところを、嫌われたなどという理由で追い出されたりすることは絶対に避けなくてはならなかったためだ。そんなつまらない理由で追い出されたりしていては、とてもやっていけなかった。

 しかし、心の奥で、あまり立ち入り過ぎないようにしているというか、わずかだとは思うのだけれど、向けられる好意などの感情を、信じ過ぎてはいけないと、甘えすぎてはいけないと、セーブをかけているのだ。

 自分が他人を信頼せずに、こちらのことは信用して欲しいなどと、随分と傲慢で自分勝手な言い草であると理解はしている。


「あー、もう、そういうのはいいから。難しい話はお姉さんわからないから、また今度、機会のある時にして」


 話せと言われたようだったから色々と考えたのに、フィスさんは、ひらひらと手を振るような仕草をなさった。横ではルーミさんはうんうんと頷いていらして、ユニスは呆れたような顔で、というよりも完全に呆れているようで、僕の話なんて聞かずにメイド服のエプロンについた草を払ったりしていた。

 おそらく、その今度という機会は永遠に訪れないだろうと思いつつもフィスさんの言葉に従って黙っていると、びしっと人差し指を突き付けられた。


「とにかく、そうね‥‥‥せっかくこれからリンウェル公国へ行くのだし、そこで色々と学んでみるといいわ。ああ、学問とか、芸術とかの話じゃないわよ。具体的にはエイリオス様と、もしかしたらフェリシア姫様から、ね」


 一体、おふたりから何を学ぶことがあるのだろう。いや、もちろん、エイリオス様は国王様になられるための勉強も、芸術分野に関することでも、運動も、もちろん僕の魔法の授業におかれても、とても熱心に取り組まれている、それからフィリエ様やミスティカ様、レガール様のお兄様としても、一国の王子様としても真面目に取り組まれている立派な方で、僕なんかとは比べるのもおこがましい方ではあるのだけれど。

 エイリオス様の生き方を真似することは出来ないし、ましてや、フェリシア姫様のことなどほとんど何も存じ上げていないに等しいというのに、何をどうすれば良いのだろう。

 ユニスたちは、見ていればいいのよと、それだけしかアドバイスをくれず、ナセリア様とはすぐに仲直りするのよ、と催促された。

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