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ラノリトン王国 33

 その後。

 エイリオス様がフェリシア姫様に謝られようとお部屋をお訪ねになり、忘れ物であるカチューシャを見つけられてから、僕たちはウェイラム国王陛下の元へお目通りをさせていただき、ラノリトン王国を出立する旨をお話しした。

 一応というか、リーリカ姫様にかけられていた呪いと、それに関わっていたと思われる一団は捕縛されており、神殿の方でも色々と問題は山積しているようだけれど、それに関しては僕たちが口出しすることではない。

 ウェイラム国王陛下は、


「そのような理由があるのならば仕方ない。本当は帰国に合わせたパーティーも予定していたのだが‥‥‥前倒しで今日開くことは可能か?」


「問題ございません、陛下。ただ一言、お命じ下されば」


 臣下の方の返答に頷かれて、何のもてなしも出来ず申し訳ないが、せめて今夜のパーティーは楽しんでいって貰いたい、とおっしゃられた。エイリオス様もそれをお断りになるようなことはなさらなかった。

 もちろん、僕たちもパーティーの準備のお手伝いを申し入れた。

 開いてくださる予定だったというパーティーはとてもありがたいものだったのだけれど、それをこちらの都合で前倒しにしていただいたのだ。足りないものや必要なものの買い出しなどには、主に僕が行かせていただいた。

 もちろん、個人に金銭を預けるなど、とは思い、自分の所持金で買い物をして、それを報告することでこちらの財政を管理していらっしゃる方から支給していただくという方式をとろうと考えていたのだけれど、ウェイラム陛下から直々に準備金を、それもかなりの額渡されてしまい、それでと頼まれた。

 買い物のリストは大漁で、それこそ軽い本くらいの厚さにはなっていたけれど、僕にとっては問題にはならなかった。

 お城を出て街中までは飛行の魔法でものの数分、買い出し品のリストにある物を売っているお店のある場所は、先日街中を探索したとはいえ、多少あやふやなところもあったけれど、あらためて探索の魔法を使用すれば必要な物はすぐに見つかり、持ち運びも全て収納の魔法で済ませることが出来た。

 

「えっ? もう帰ってきたの?」


 ラノリトン王国のお城のメイドの方にも、僕の魔法の事をある程度はご存知でいらっしゃるはずのフィスさん達にも、随分と驚かれた。


「じゃあ、今度から、リーベルフィアでも買い出しはユースティアに任せようかしら」


「もちろんです。お任せください」


 僕は大真面目にそう答えたのだけれど、


「嘘よ、冗談。お買い物は私たちの仕事ですもの。他の人においそれと渡すわけにはいかないわ」


 やはりご自分の仕事に誇りを持っていらっしゃるリーベルフィアのメイドの皆さんは、笑ってそうおっしゃられた。



 ◇ ◇ ◇



 本当に飛ぶように時間は過ぎ、あっという間に夜になって、パーティーが開かれた。

 おそらくはパーティーが今日に前倒しになったということは急なお達しだったのにもかかわらず、ラノリトン王国のお城にはリーリカ姫様のご快復を祝われるために、たくさんの方達がいらっしゃった。やはり、ラノリトン王国の方たちはリーリカ姫様のご容体のことを、程度に差こそあれども、ご存知だった様子だ。

 リーリカ姫様のところへも、先日お見かけした方も含めて、大勢の方が集まられていて、皆さん、口々にお祝いの言葉をかけていらしいた。

 もちろんそれだけではなく、他国からいらしている美貌の王女様や、凛々しい王子様のところへも、繋がりを作りたいのか、それとも単に見惚れていらっしゃるのか、それはたくさんの方が輪を形成なさっていらした。

 フィリエ様はいつもとお変わりないご様子で、ミスティカ様をお連れになりながら極上の笑顔を振りまいていらしたけれど、なんとなく、お兄様への当てつけ、というわけではないのだろうけれど、いつもよりも態度や笑顔が3割増しほどにもお見受けできた。

 レガール様と一緒にいらっしゃるエイリオス様のところへも、当然と言えば当然だけれど、たくさんの––それも多くは女性の––方が押し寄せていらした。

 小さな女の子をお連れになった方から、ロヴァリエ王女と同じ年頃にも見える方まで、オズワルド様のところと比べても、決して少なくない数の女性が、一言でも、ひと目だけでも、といらしている様子だった。


「あなたがユースティア様でいらっしゃいますのね」


 それから、僕のところへもたくさんの奥様方、お姉様方がいらしていた。

 男性の方にも挨拶はされたのだけれど、女性の方に挨拶されることの方が断然多かった。

 魔導書の件に関しても色々と話を求められたのだけれど、やはり1番の話題はリーリカ姫様の事に関することだった。


「リーリカ姫様のために色々となさったのでしょう?」


「街の方でもユースティア様のことが噂になっていたと夫が申しておりましたの」


 噂、と聞いて、少し心臓がドキッとした。


「う、噂とは、一体、どのようなものでしょうか」


「何でも情報を集めるため、侍女と協力して走り回っていらしたとか」

 

 色々と話を聞かされたけれど、一番重大なことに関しては僕との関係を疑われるようなことはなかった。


「それから、他にも、この国を発たれた後も、リンウェル公国までまた向かわれるのだとか」


 リンウェル公国の事に関しては詳しいことをお話するわけにもいかないので、笑って何とかやり過ごし、魔法の事や、魔導書の件に関するお話を沢山、求められるままに、出来る限りのことはお話しさせていただいた。


「すごくおもてになるのですね、ユースティア様」


 ひと段落したところで差し出されたグラスを受け取ろうとして、固まってしまった。


「リーリカ姫様––」


「私のグラスは受け取ってはくださいませんか?」


 そうではなく、このような事、一姫様ともあろう方が、僕のような従者にしても良いことだとは。


「あら、そのような事お気になさる必要はありません。私はただ自分の恩人に対して礼を尽くしているだけですから」


 周囲から何だか視線を感じるのだけれど、どちらの選択肢をとっても、何か言われるに違いない。ならば、出来る限り自分だけのことで済ませられるようにするのが得策だろう。


「光栄です」


 僕はグラスを受け取った。


「少しお話をさせてはいただけませんか?」


 リーリカ姫様の視線は会場の外のテラスへ向けられている。

 2人きりになることのできるところが良いということだろう。

 グラスを受け取った以上、ここでお断りするわけにもいかない。

 ナセリア様の方をちらりと窺うと、切なそうに瞳を伏せられた。

 その仕草に何故か胸がチクリとしたけれど、僕はリーリカ姫様についてテラスへ向かっていった。

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