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ラノリトン王国 32

 朝食をとられた後も、エイリオス様はフェリシア姫様に謝られようとなさっていたらしいのだけれど、無言で、寂しそうな雰囲気を纏われたフェリシア姫様に、何となくお声をかけるのを躊躇われてしまわれたらしかった。

 フェリシア姫様の着替えなどはリンウェル公国の方が置いてゆかれていたので問題はなく、お昼の前ごろには昨夜いらした方と同じお迎えの方がお城までいらっしゃった。

 お迎えの方がいらっしゃるまで、フェリシア姫様はエイリオス様とお顔を合わせられることはなく、落ち込んでいらしたご様子のエイリオス様もお見送りに出てこられなかった。

 代わりに、フィリエ様が綺麗な白い封筒にリーベルフィアの紋章の入った封をしてあるものを手渡されていた。


「本当はお兄様は直接言われるつもりだったのだけれど、顔を合わせられないと‥‥‥まったく、そんなことじゃ駄目だと思うんだけれどね」


 フェリシア姫様は少し不安を抱えていらっしゃるような表情を浮かべられながらも、受け取りを拒否されるようなことはなさられず、大事そうに仕舞い込まれた。

 エイリオス殿下にも深くお礼申し上げますとおっしゃられ、リンウェル公国の方は馬車に乗って去ってゆかれた。


「やっぱり、私、お兄様のところへ、一言言ってくるわ」


 フェリシア姫様とエイリオス様の事を少し不機嫌そうに睨んでいらしたフィリエ様だけれど、心の中ではおふたりの事を心配なさっていらしたようだった。

 僕たちが踵を返し、お城の中へ戻ろうとしたところで、中からかなり焦っていらっしゃるご様子のエイリオス様が息を切りながら走って出てこられた。


「どうなさいましたか、エイリオス様」


「フェリシア姫は?」


 まさに馬車の走り去った方を向かれていたエイリオス様の手には、銀色に輝くカチューシャが握られていた。


「お兄様、そんなもの持ってどうしたのよ。付けたくなったのなら私がつけてあげるわ」


「違う! 私のものではなく、これはフェリシア姫がつけていたものだ」


 言われてよく見てみると、たしかに昨日お会いした時のフェリシア姫様の頭には銀色に輝くカチューシャが飾られていた。


「夜に寝る時外したものを、つけるのを忘れていたのですね」


 ナセリア様が淡々と告げられると、エイリオス様は真っ青なお顔をなさって、


「わ、私がフェリシア姫を怖がらせてしまったために‥‥‥」


 ぷるぷるとカチューシャを持つ手を震わせられた。

 もちろん、飛行の魔法を使えば馬車に追いつくことは出来るだろうけれど、そんな非常識というか無礼な真似をすることは出来ないだろう。

 

「なんでお兄様がそれを持っているのよ」


 フィリエ様が非難されるような目を向けられる。

 エイリオス様は焦ったようなご様子で


「ち、違う。別にやましい気持ちがあったのではなく、純粋に、やはり謝りに行こうと思って‥‥‥」


 それでお部屋を訪れられたエイリオス様は、ベッドの脇に置いてあったそのカチューシャを発見されたというわけらしかった。


「ユースティア。これをフェリシア姫に届けることは出来ないだろうか?」


 エイリオス様が懇願されるようなお顔を向けられる。

 出来る出来ないで言えば出来るとは思うけれど、ひとりでにカチューシャだけがふわふわと空を飛んで戻ってきたら、たとえそれが自分が落とした、あるいは忘れたものなのだとわかっても、不気味というか、怖くて受け取ることは出来ないのではないだろうか。


「そんなことしても不気味がられるか、怖がられるだけよ、お兄様。受け取って貰えるかどうか怪しいわ」


「で、では、どうしたら‥‥‥」


 それは直接お渡しするしかないのだろうけれど、それはラノリトン王国を発つということで、そのための準備などを考えると、どんなに早くとも明日以降にはなってしまう。


「とりあえず、ウェイラム陛下にご相談しましょう。こちらでの問題は解決しているのですし、出立を拒否はなされないでしょう」


 ナセリア様の口調からは、ほんのわずかにではあるけれど、どうやらラノリトン王国を早くに出立なされたいのではと思わせられるような雰囲気が漂っていらした。

 元々、クローディア様のお誕生日のお祝いのため、近く立つ予定だったのだから、それが多少前後したところで問題はないと思われる。


「そうね。お母様のお誕生日のお祝いのこともあるし」


 せっかく行くのだから、驚かせるという意味でも、リンウェル公国でプレゼント選びをしましょう、とフィリエ様は随分と乗り気なご様子だった。お兄様の事よりも、好奇心の方が勝っていらっしゃるご様子だ。


「ユースティア。騎士とメイドの皆への連絡を頼む。私たちはウェイラム陛下にご挨拶に窺う」


「承知致しました、エイリオス様」


 そのまま扉のところで分かれ、エイリオス様達はウェイラム国王陛下の元へ、僕はユニスたちのところへ、それぞれ向かった。



 ◇ ◇ ◇



 僕が、ここを発つという旨と、それに至るまでの事をお話しすると、ユニスたちは黄色い声を上げて盛り上がっていた。


「忘れ物から始まるロマンスも悪くないわね。小説とかでも、落とし物を拾ってから始まるラブストーリーなんてありふれてるし」


「べた過ぎるかもしれないけれど、だからこそ逆にね」


「わかるー。この仕事してると、やりがいはあって充実もしているけれど、出会いはなかなかないもんねー」


 いつもお城ではだれだれの恋の相手らしいとか、同僚の方のお話をいているみたいだし、ミラさんみたいに結婚なさっている方もいらっしゃるから、出会いがないというわけではないと思うのだけれど。


「いやー、何というか、恋をしたいって思える方と出会わないのよね」


「学生時代も学科の子は皆女の子ばっかりだったしねー」


「ラブレターとか貰っていたり、告白されたりした子はいたみたいだけれど」


 嘘、とか、私も、とか、ユニスたちのおしゃべりはとめどもなく続いている。

 

「フィリエ様もナセリア様の『ご病気』に随分と喜ばれているようなご様子だったし」


「先日、フィリエ様にもお聞きしたのですが、ナセリア様のご病気とは一体どのようなものなのでしょうか?」


 聞いたような会話の流れを受けて、僕も疑問に思っていたことを尋ねてみる。詳細をフィリエ様は教えてくださらなかったし、何か悪いものではないともおっしゃられていたけれど。

 フィスさんたちまでご存知となると、いよいよ心配になるというものだけれど、尋ねてみたところ、御三方全員に揃って盛大なため息をつかれてしまった。


「さて、荷物まとめないと」


「じゃあ私が道具を戻して置くわね」


 回答を得られず立ち尽くす僕の肩にユニスが手を置いて、


「まだまだ勉強が足りないわね、ユースティア」」


 そう言って、僕には戻っているように告げると、フィスさんの方へと駆けて行ってしまった。

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