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ラノリトン王国 29

 無事にお城へと姫様方を護衛し終えたので、しばらくお傍を離れるご許可をいただいた。

 元より、ナセリア様達もそのおつもりだったようで、僕はすぐに元来た道を引き返し––とはいえ今度は1人なのでそれほど時間はかからない––ギルドへと到着した。目的はもちろん、フェリシア姫様をお探ししている方がいらっしゃらないかを探るためだ。

 普通の迷子や人探しの依頼なども、ギルドへ持ち込まれることがある。

 流石に姫様の捜索をギルドに出すことは出来ないと思うけれど、情報が集まりやすいのは、ギルドか、主婦の皆様が多くいらっしゃる街中の市場か広場だろう。

 情報を得る場合には、先日の件のように人手があった方が楽なのだろうけれど、今、おそらくユニスたちは夕食の準備なんかで忙しいことだろう。

 

「迷子捜索の依頼? 悪いが出てないね」


 予想通りというか、ギルドへは持ち込まれていない案件のようだった。

 僕も一応、自分の目で依頼を確認してみたけれど、そのような内容の張り紙は出ていなかった。

 人探しならば知っている個人を対象に探索等の魔法が使えるけれど、知らない人で、人探しをしている方を探す、などという曖昧な魔法は知らない。そして、おそらく、僕自身が上手く想像できないために、今この場で考え出すことも不可能だろう。


「せめてエイリオス様にどの辺りでお会いになられたのか尋ねておけば良かった‥‥‥」


 今更後悔しても遅いけれど、要領の悪さに思わずため息が出た。いや、もちろん、今から念話でお尋ねすれば済む話なのだけれど、わざわざお手間をとらせてしまうのが忍びなかった。

 よし、と思い直して顔を上げると、おそらくは先ほどの僕と同じようなお顔を浮かべられた方々がギルドから出ていらっしゃるところで、それを数人の方が出迎えていらした。


「いらっしゃったか?」


「いいえ。ここには報告が来ていないみたい。さっきも同じような事を尋ねられたと言われたのだけれど」


「ここに留まっていても事態は好転しない。地図を出せ」


 その方々は、おそらくラノリトン王国王都の地図が描かれているのであろう紙を広げられると、ペンで何かを書き込まれていらした。おそらく、すでに探されたところにチェックを入れていらっしゃるのだろう。


「私たちがちゃんとしていれば‥‥‥」


「姫様は普段、あまり動かれない方なのに、どうして今日に限って‥‥‥」


 うん。違うかもしれないけれど、これだけの方が動いていらっしゃるのだ。本当に心配していらっしゃるようだし、仮に外れだとしても、こちらの事情を話されない程度の常識はお持ちのように思えた。

 何よりほかに情報がないのだ。

 まさかリンウェル公国まで行くわけにもいかない。勝手に国境を跨ぐわけにはいかないだろうし、下手をすれば国際問題にもなりかねない。


「あの、少しお話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」


 いざとなればここにいる方を全員捕まえて口封じをすればいい。

 そんなことを少し考えながら声をかけたのがお分かりになられたからだろうか、それとも他の何かに警戒していらしたのか、それとなく臨戦態勢に入られてしまった。


「なんだ。我々は忙しい。子供の相手をしている暇は––」


「どうしたの、僕。僕も迷子になっちゃったのかな?」


 厳ついお顔をされた男性と、その言葉を遮るように柔らかい雰囲気の女性がこちらに1歩歩んで来られた。もちろん、御二方とも、見える見えないの違いはあれど、武器を携帯してはいらしたけれど。

 そんな言い方をしたら自分たちが誰かを探していると公言しているようなものだと注意しようかとも思ったけれど、余計なことを言ってこじれても話がしにくくなる。


「実は今しがたの会話が聞こえてしまいまして。もしかしてですが、皆さんがお探しなのは、クリーム色のふわふわした髪に、エメラルドのような瞳、それに空色のドレスで着飾られた、御年8つか9つごろにもお見受けできる、銀のカチューシャをつけられた方ですか?」


 一気にそこまで告げた瞬間、警戒レベルが一気に引き上げられたようで、さっと僕から離れられ、囲まれるような形で広がられた。数はおそらく20人ほどだろう。先程までと数が合わないので、近くに隠れていらしたのかもしれない。


「お名前はフェリシア––」


 喋っている途中だったのにもかかわらず、後ろからナイフが飛ばされた。急所は外されていたようなので、こちらを捕らえることが目的だったのだろうけれど、運悪く僕が動いてしまったりして、うっかり死んだりでもしてしまったらどうするつもりだったのだろう。避けたので遠くへ飛んでいったけれど。それを受け、彼らの視線が一層鋭くなったように感じられる。


「話の途中––」


「いや、すでに話し合う余地はない。必ず貴様を捕縛し、姫様に関する事、洗いざらい話して貰おう」


 どうやら誘拐犯か何かと勘違いされてしまったらしい。

 リーベルフィアの国章の入った魔法顧問の証を取り出す暇もなく、こちらの障壁ごと切り捨てんと言わんばかりの威力で剣が振るわれる。微妙にずれているのは、互いにかち合わせないようにするためか。


「話しを聞いてください!」


 僕は、自身を覆う結界と、彼らが退散、はしないだろうけれど、そうしないための結界を、二重に作り出す。


「こいつ、魔法師だ!」


「恐れるな! この人数だ、必ず仕留められる!」


 いや、仕留めたら話を聞き出すことはできないのでは?

 もちろん殺気に似たものを感じてはいるけれど、とにかく、彼らが一瞬でも攻撃の手を緩めてくださったのは助かった。僕は改めて、落ち着いて、けれど素早く、収納して持ち歩いている魔法顧問の証を取り出す。


「申し遅れました。私はユースティア。ここより西方のリーベルフィア王国王城にて、魔法顧問の役に就かせていただいている者です」


 ざわめきが起こり、馬鹿な、とか、こんな子供が、とか、信じられん、とか、しかしあれはまさしくリーベルフィアの、とか、本物だとして何故ここに、とか、彼らの中にも動揺が走っているのが分かる。僕としては、毎度のことなので特に反応はしない。


「それが本物だという証拠は?」


 いまだ構えられた剣を下ろされずに、ほんのわずかな期待と、かなりの疑いが込められた瞳を向けられる。


「ではこちらも逆にお尋ねいたしましょう。あなた方がフェリシア・エスティアナ王女殿下を戴く、リンウェル公国の方だという証拠はおありなのですか?」


 どちらかが折れなくては話が進まないということはよくあることで、僕の方にはすでに見せられる手札は全て、ではないけれど、ほとんど公開している。

 あとは彼らがこちらを信じてくれれば良いのだけれど。


「現在、フェリシア姫様はこちらの、ラノリトン王国の王城にいらっしゃいます。私の主人と、こちらのお城の方が保護されていらっしゃいますので、ご心配でしょうけれど、とりあえず、剣を納めてはくださいませんか?」


 僕は彼らが退却は出来るように、外側の結界は解除する。


「こちらの事を信じられないというのでしたら、どうぞ行かれて下さい。もちろん、こちらに攻撃をして来られても構いません。負けるつもりも、捕えられるつもりもありませんが。しかし、この名と、我が主の名に懸けて、嘘偽りはございませんし、フェリシア様にも危害は一切加えておりません」


 僕たちの視線が正面からぶつかり、しばらくして、彼らは剣を下ろしてくださった。


「大変失礼致しました。しかし、我等も故あっての事。何卒ご無礼をお許しくださいますよう」


「お気になさらないでください。お気持ちは十分に伝わってきましたから」


 今から普通にお城へ向かうとおそらく夜中近くになってしまう。

 僕はナセリア様とエイリオス様に念話で事の成り行きをお伝えした。


(––そういう事ですので、どうか、以前のように起きていらしたりはなさらず、どうぞご就寝なさっていてください)


 責任感の強いおふたりの事だから、きっと起きていらっしゃるのだろうと、若干無駄だろうとは思いつつも、とりあえずは了承の返事をいただき、リンウェル公国の皆様をラノリトン王国のお城まで先導する。

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