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ラノリトン王国 28

 空色のドレスを纏った、おそらくはミスティカ様と同じ年頃と思われるエメラルドのような瞳の女の子は、どう見ても学生とは思えなかった。

 その証拠というわけではないけれど、普通の学生が着ることのできるようなドレスにしては随分と––大分高価そうな生地が使用されていて、身長も、ミスティカ様よりも少し高いくらいであり、僕の知っている学生の平均をかなり下回っている。もちろん、爵位をお持ちの家系、もしくはそうでなくとも裕福なご家庭にお生まれであるならば、服装に関しては説明がつくのだけれど。

 頭には銀色に光るカチューシャをつけていて、エイリオス様の服を掴んでいない方の手は零れる涙を拭っている。


「どうやらはぐれてしまったらしいのだが、私の言葉ではわかって貰えないらしく‥‥‥」


 ナセリア様は普通にお話しになるので、それに今までも必要になりそうなことはなかったのでお教えしてはいなかったのだけれど、翻訳の魔法が使えないのであれば、普段自分が使う以外の言語を理解するのは難しい。僕なんかは問題にならないけれど(問題にも出来ないほど話せないという意味だ)、エイリオス様にとってもそれは難しいことであるようだった。


「姉上がいらっしゃればと思っていたのだが‥‥‥ユースティア」


 エイリオス様のおっしゃられたいことはよく分かる。


「お任せください、エイリオス様」


 僕は結界を作り出して、その中に居る人に翻訳の魔法が効果を表わすように設定する。この場合は、僕とエイリオス様、フィリエ様とリーリカ姫様、それからその女の子だ。


「怖がらせてしまい申し訳ありません」


 僕は女の子の前に膝をつくと、頭を下げてから、しっかりと彼女の目を見つめた。

 急に言葉が理解できたことに驚かれたのか、女の子はきょろきょろと辺りを見回して、それからどうやら僕が言葉を発した人物だと分かってくれた様子だった。


「改めて申し上げます。私はユースティア。ここラノリトン王国より西方にあるリーベルフィア王国で魔法顧問の職に就かせていただいております。美しい姫君。よろしければこの私に貴女のご尊名を伺う機会を与えてくださいますか?」


 出来る限り優しく話しかけたつもりだったけれど、どうやらやはり幼い女の子にとって見ず知らずの、自分よりも年上の男性に話しかけられるのは恐怖であるのかもしれない。彼女の瞳には、恐怖の色が見て取れる。

 同じ女性ならばと思ってリーリカ姫様とフィリエ様の方を窺ってみたけれど、リーリカ姫様は首を横に振られ、フィリエ様はじっとエイリオス様と女の子が繋がれている手の辺りを注視されていらした。

 

「‥‥‥フェリシア・エスティアナ、です」


 やがてその女の子、フェリシアさんが名乗られると、エイリオス様が驚かれたようなお顔を浮かべられた。


「お兄様、その子の事、ご存知なの?」


 おそらくはこの場にいる誰もが思ったであろうことを、フィリエ様が代表してお聞きになられた。


「ああ。とはいっても、私も書物で読んだだけだが。フェリシア・エスティアナ姫。ラノリトン公国の北、ムーオの大森林を挟んだ我が国の東北に位置するリンウェル公国の姫君だったはずだ」


 僕たちはエイリオス様からもたらされた情報にしばらく固まってしまったけれど、こんなことで固まっている場合ではないと、自分に活を入れた。

 なぜ、その公国の姫君がお1人でこのようなところに、と言っては失礼だけれど、いらっしゃるのだろう。ナセリア様、オズワルド様と合流しなくてはならないのはもちろんだけれど、フェリシア姫様を放っておくこともまた出来ない。


「‥‥‥とりあえず、エイリオス様に懐かれていらっしゃるご様子ですから」


「分かった。まずは姉上との合流を目指そう。この状況、いくら魔法があるとはいえ、再び分かれるのは危険すぎる」


 フィリエ様がフェリシア姫様と競われるようにエイリオス様の空いている方の腕をとられ、僕ははぐれてしまわないように、他の通行の方の邪魔にならない程度の緩い結界を展開しながら、サンクティア教会の正門を目指した。



 ◇ ◇ ◇



 当然と言えば当然だけれど、色々とあった、人数も多い僕たちよりも、ナセリア様たちの方が先に到着なさっていらした。

 詳細はここへ向かう途中に念話でお伝えしてあるので、さして驚かれたりはされず、けれど、リーリカ姫様の事を見つけられたオズワルド様は、満面の笑顔で僕たちの方へと駆け出されようとなさって、ナセリア様とミスティカ様が隣にいらっしゃることを思い出されたかのようにその場で踏ん張っていらした。


「なるほど。そうすると、ギルドへ向かうよりも城へお連れした方が良さそうですね」


 リーリカ姫様を存分に抱きしめられたオズワルド様は、真面目な顔でおっしゃられた。

 たしかに、どのような理由にせよ、一国の姫様が迷子になっていらっしゃるのだ。ギルドは基本的に政治等には干渉しない。それに、どちらかといえばギルドにいるよりもお城にいた方が安全面でも、情報の面でも良いように思われた。


「私もそう思います。ユースティアも、それに我が国の騎士団、そしてラノリトン王国の騎士の皆様もいらっしゃいますから」


 エイリオス様が賛同され、僕たちは次の目的地である薔薇園をスルーして観光を切り上げてお城へ戻ることにした。

 エイリオス様とフィリエ様、オズワルド様とフェリシア姫様が無事に馬車へと乗られたのを確認してから、僕も姫様方の手を取らせていただいた。

 ナセリア様から順番に、ミスティカ様、リーリカ姫様、レガール様を馬車へとお連れする。


「ユースティアはどうするのですか?」


「私は馬車に並走しながら護衛致します、ナセリア様」


 元々、4人ずつ乗ることを目的として出してくださった馬車なので、人数の関係上、まさか窮屈な思いを姫様方にさせるわけにもいかないので、僕は遠慮させていただいた。


「あ、あの」


 フェリシア姫様が申し訳なさそうに目を伏せられたので、


「お気になさらないでください。私も丁度鍛錬をしようと思っていたところですから」


 誤魔化しきれていない言い訳をして、おそらくはフェリシア姫様も信じてはいらっしゃらなかっただろうけれど、ぺこりと頭を下げてくださった。

 馬車が出るのに合わせて、僕は馬車に並走する。まさか姫様方の頭上を飛ぶなどという失礼な行動は出来るだけとりたくはない。

 実際、かなりきついけれど、まさか御者台や、屋根の上に乗るわけにはいかず、馬車も姫様方をお運びしているためか多少はゆっくりなペースで進んでいるので、やってやれないことはない。というよりも、やらなくてはならない。

 それでもやはり気を遣わせてしまう事にはなってしまったらしく、僕たちがお城へ帰り着いたのは日の落ち始める頃だった。


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