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ラノリトン王国 27

 フィリエ様が「是非とも行ってみたいわ!」と関心を示され、さっそくそのサンクティア教会へと向かう運びとなったのだけれど、到着してみると、やはりというか、丁度結婚式が執り行われていたところらしく、真っ白な馬車とすれ違いになった。

 せっかくのお二方の門出に水を差してはいけないと思って、僕たちは参列者の皆様が去られるのを待っていた。


「では、そろそろ参りましょう。きゃっ」


 落ち着くのを待って、リーリカ姫様が案内してくださろうとされたところに、同じ制服を着た団体のお客様がいらっしゃった。着ているブレザーの胸のところに紋章がつけられていて、どうやらどこかの学院の生徒らしかった。

 40人か、それ以上にも思えた賑やかなおしゃべりと共に直進されてきた集団に、僕たちの、というよりも周りのことはあまり映っていないらしく、何とか避けるのが精一杯だった。


「リーリカ姫様っ」


 たまたまだろうか、すぐ近くの人の波の中から、リーリカ姫様が押し出されるように流されていらした。1国の姫様ではあるのだけれど、他国の姫君のことを知っているような一般の学生はいらっしゃらないらしかった。さすがに自分たちの国ならば、学院に通っていらっしゃるような方であれば、姫君のお顔くらいは知らないということはないだろう。ウィンリーエ学院の生徒もナセリア様やフィリエ様のお顔はご存知のご様子だったのだし。

 圧力というか、押し寄せられた女学生の集団に押されたようによろめかれたリーリカ姫様を、抱きしめるような格好でお支えする。

 しな垂れかかるように僕の腕の中に納まられたリーリカ姫様は、家族以外の異性に照れていらしたのか、赤くなられたお顔で僕のことを見上げられた。


「あ、ありがとうございます、ユースティア様」


「お怪我はございませんか?」


「大丈夫です。ご心配をおかけしました」


 もみくちゃ、というほどではないにしろ、多少乱れたドレスを直されたリーリカ姫様は、はっとされたお顔で、ぱっと離れられ、パタパタと仰がれるような仕草をなさって、横を向かれた。


「困りましたね‥‥‥」


 リーリカ姫様がキョロキョロと周りを見回されるのに合わせて、僕も周りを見回す。

 人混みに飲み込まれてしまわれたのか、ナセリア様達のお姿が見えない。


「まさか学生の見学と鉢合わせるなんて‥‥‥」


 責任を感じていらっしゃるようなリーリカ姫様に落ち着いていただくためにも、僕はリーリカ姫様の手を取ると膝をついた。


「ご安心ください、リーリカ姫様。幸い、それ程離れてはいらっしゃらないご様子ですので、少し歩けば合流できるはずです」


 探索魔法を使用して、念話も飛ばす。すぐに返事は返ってきて、やはりそう離れていらっしゃらないと思われる教会の敷地の中にいらっしゃるらしかった。リーリカ姫様と僕は揃って胸を撫で下ろした。

 近いところにいらっしゃるのはエイリオス様とフィリエ様のようで、ナセリア様とオズワルド様よりも先にそちらへ向かうことにした。オズワルド様がいらっしゃるのであれば、ナセリア様の安全も多少は保証されることだろう。


「リーリカ姫様?」


 何やらぼうっとなさっていらっしゃるご様子のリーリカ姫様は、僕の腕にご自身の腕を組まれると、はぐれてしまった不安など感じさせない笑顔を浮かべられた。


「ナセリア様とエイリオス様達のいらっしゃる位置はお分かりになるのでしょう? でしたら、見学がてらにお探ししませんか? お兄様のいる方はとりあえず置いておくとしても、他国の姫君と若君をそのままにするのが得策とは思えませんから」


 リーリカ姫様のおっしゃることにも一理ある。

 オズワルド様のことは流石にこの国の方ならば知っていらっしゃるだろうし、ナセリア様も不安を抱えてはいらっしゃるだろうけれど、きっとフィリエ様達の方へ先に向かうようにおっしゃられるに違いない。もっとも、ナセリア様も『他国の姫君』であらせられるのには違いないのだけれど。


(ユースティア。私たちよりも先にフィリエ達の方へ合流してください)


 そう思っていたら、まさにそのナセリア様から念話をいただいた。

 動かずに待っていてくださるという事なので、ナセリア様の観光の時間を潰してしまうわけにはいかない。

 僕は、承知いたしました、出来る限り急いで合流いたしますと念話をお返しした。


「リーリカ姫様。お気持ちは大変ありがたいのですけれど、流石に私1人で観光するというわけには参りません。お心遣いを無にしてしまう事、心より謝罪申し上げます。ですが、どうか私に姫様方を探しに行くことを許してはくださいませんか」


 リーリカ姫様は、何故だか寂しそうな笑顔を浮かべられて、


「やはり––の––なのですね‥‥‥」


 呟かれた言葉は小さく、周囲の喧騒に紛れて僕の耳には完全に届くことはなかった。


「いえ、何でもありません、ユースティア様。参りましょうか」


 リーリカ姫様は僕の手を離されることはなく、それでもはぐれないように慎重に、ゆっくりと、僕たちは姫様方の元へと歩き出した。



 幸い、エイリオス様とフィリエ様はすぐに見つけることが出来た。出来たのだけれど。


「ユースティア」


 僕たちの姿を見とめられたらしいフィリエ様が大きく手を振ってくださる。しかし、そのお顔はどこか不機嫌そうにも見えた。


「フィリエ様。護衛の任に就いているにもかかわらず、申し訳––」


「そんなことどうだっていいわ!」


 リーリカ姫様が抱き着かれていらした腕と(フィリエ様達のお姿が見えると、リーリカ姫様はパッと腕を放された)逆の方の手を引っ張られて僕が向かった先では、困ったようなお顔を浮かべていらっしゃるエイリオス様に、クリーム色のふわふわの髪をした可愛らしい女の子が涙目でくっついてた。

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