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ラノリトン王国 25

 何も働かずにお相伴に預かるだけというのは大層居心地悪く感じていたので、ラノリトン王国でも魔法の授業をさせていただけたのはありがたかった。

 お教えしたのは念話の魔法だ。

 ご自身の身を守るための結界の魔法や、呪いに対抗するための浄化の魔法などでも良かったのかもしれないけれど、結界の魔法に関しては魔導書にも載せているし、浄化の魔法の練習をするためにはまず浄化するためのものが必要なわけで、その点、念話の魔法であれば、魔導書には載っていない、かつ、自身の身1つあればすぐに練習できるので(正確には届ける相手が必要だけれど)、場所なども選ばないし、僕たちが帰った後にも、便利に使えそうだと思ったためだ。

 ナセリア様達にはすでにお教えしている魔法だったので退屈に感じられるかとも思ったのだけれど、そのようなご様子は見られず、最初は驚かれていらしたご様子のオズワルド様とリーリカ様の呑み込みも早く、昼食の準備が出来ましたと呼ばれるまでにはすっかり馴染まれたようにお見受けすることが出来た。


「申し訳ありません、ユースティア様。こちらへいらしていただいただけでなく、国王様のご依頼で魔法のご教授までしていただいて」


 昼食へ向かわれた姫様方を見送ると、お部屋の中からお姿を見せられたソリトフィア様が申し訳なさそうなお顔でおっしゃられた。


「いえ、王妃様。私もこの仕事にやりがいを感じておりますので、そのようなお気遣いは無用でございます。むしろ、私の方こそ、こちらへ呼ばれているのにもかかわらず、姫様方に魔法を教えする時間をいただき、感謝しております」


 王妃様は悩まれていらっしゃるようなご様子だったけれど、「そうだわ」と、何事か思いつかれたようにお顔を綻ばせられた。


「折角ですから、午後には是非国内の観光に出かけられてください。リーリカも元気になったことを国の皆さんにもお知らせしたいですし、こちらへいらしているのに、王子様方もお城の中に居るだけでは退屈でしょうから」


 僕たちは情報収集がてらにラノリトン王国の街中を、一部地域ではあるけれど、見させていただいたのに対して、姫様方は危険があるかもしれないという理由でこちらへご到着されてから観光には出られていらっしゃらない。王妃様の提案は、姫様方にとってもとても良いものであるように思えた。


「それともユースティア様はお出になられたくはありませんか?」


 不安はあるけれど、どうしても出かけたくない、というほどの事ではない。何より、姫様方にはきっと有意義なものになるだろうし、姫様方のためならば、個人的な感情の事など後回しだ。ある程度までは。

 それではよろしくお願いしますね、と王妃様が昼食の場へ向かわれたので、僕は頭を下げた。



 ◇ ◇ ◇



 姫様方が食後の休憩をとられている間に、僕は昼食をいただかせて貰った。


「へえ。でも今度は『ユースティアが』観光に出られるのでしょう? 良かったじゃない」


 ユニスは本当にそう思っているみたいだった。たしかにそれはそうなのだけれど、そのことを思い出させないで欲しい。この格好で出かけたら出かけたで、先日は女性の格好をしていたのに、とか、やっぱりリーベルフィアの魔法顧問は変態なんじゃ、とか、姫様方が後ろ指を刺される事態に陥るのではないかと不安になっているというのに。もちろん僕だって積極的に、悪い意味で、噂になりたくはない。


「大丈夫よ。仮にティアちゃんの事を知っている人だって、ユースティアと結び付けたりはしないわよ。普通は分かりっこないわ。そう、あの服屋の店員の方以外はね」


 フィスさんが真面目に、全く疑っていらっしゃらないといった口調でおっしゃられる。

 そうはおっしゃられるけれど、ナセリア様という前例がある以上、絶対ではないというのは証明されていると思うのだけれど。

 もちろん、ナセリア様達があの服屋に寄られるとは思っていない。観光という題目で出かけるのだから、街中を見るにしても、もっと別の場所に寄られることにはなるだろう。


「それはナセリア様が特別なだけよ。とにかく、させた私たちが言っているのだから間違いないわ」


 皆さんは訳知り顔で顔を見合わせられた後、ルーミさんが代表してまとめられるようにそうおっしゃられた。

 もっとも、僕の恥など姫様方の護衛という任務の前では些細な事だ。既に事態は済んでしまっているのだし、今から国民の皆さんの記憶を、僕の女装に関することだけ消去して回るというのは無理な話だ。


「ユースティアには言うまでもないことだと思うけれど、教皇たちはギルドに引き渡したからって、油断したりしちゃだめだからね」


「承知しています。十分に気をつけます」


 目立っている方だけが悪人ではない。むしろ、目立たない悪人の方が厄介だとも言える。

 たしかに国の中心地はどこも栄えているけれど、1歩外へ出れば、教皇たちが暗躍していたような、そんな組織、あるいは個人、集団が全くいないとは言い切れない。あそこまで大きくなくとも、ごろつき程度であればいくらでもいるはずだ。そういった彼ら全てを冒険者組合などが取り締まれるはずもないのだから。

 魔法だって万能ではないし、僕の出来ることにだって限りはある。


「ご忠告、ありがとうございます」


 そうはいっても楽しんでいらっしゃいと送り出され、僕は急いで、姫様方をお待たせしないように、馬車へと向かった。


 

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