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ラノリトン王国 21

 僕は今までメイドの皆さんに連絡することが出来なかった。

 念話による会話が出来るのは魔法、魔力を扱うことのできる人だけで、フィスさん達にはそれは出来ない。

 つまり、それ以外の方法をとる必要があるのだけれど、自分にかけられている呪いに対抗するための魔法と、変身を維持するための魔法が思いのほか大変だった。

 変身を解けばいいのではと思われるかもしれないけれど、それは選択肢として取りたくない。似たようなものだと思われるかもしれないけれど、この恰好を、それこそ男性の姿でとるのはきついものがある。それに、万が一、彼らを捕縛した後、僕が女装した変態だなどと叫ばれては、主人であるナセリア様達に恥をかかせてしまうことになる。

 しかし、この場に伝令の方がいらしたことにより、その状況から脱却できる可能性が生まれた。僕に対する魔法がたしかに軽減されていたからだ。

 自分の体調を戻すよりも先に、魔力を捻出して化生体を作り出す。

 化生体というのは、幽霊や使い魔とは違うけれど、似たようなもので、自身の魔力を何らかの形に形成し、目的を遂げさせるためのものだ。魔法にはイメージが大切なので、そういった、今回に限って言えば相手に届くようにするための形作りは、意外と重要だったりもする。手紙を飛ばす魔法の紙を無くして使うのと、念話の魔法を足して2で割ったような感じというのが近いかもしれない。厳密には少し違うのだけれど、この場での役割は似たようなものだ。

 あまり難しいことはさせられないけれど、魔力で形作られているとはいえ、普通の人にも見えるように光を伴っているので、魔法師ではない方の案内役にもすることが出来る。例えば、ユニスやフィスさん達のようなメイドの皆さんにも。


「何だ?」


 教皇の股の下を潜り抜け、小鳥の姿をしたそれを、一目散に目標へ向かって飛ばす。

 探索魔法により、ユニスたちの位置は把握できたからだ。

 しかし、そこまでやったところで、魔力の方はわりと限界が近いようだった。呪いに対抗するための魔法の維持と、変身している魔法の維持。結界やシールドの魔法にも言えることだけれど、常時使用しているタイプの魔法は魔力の消費が激しい。普段の調子ならば問題はないのだけれど、今日は、変身の魔法をずっと維持していたからだろうか。既に飛ばしてしまった伝令役には影響がないのが救いだった。


「追って!」


 教皇が叫ぶが、そうはさせない。僕は部屋の出入り口に障壁を展開する。

 僕に攻撃を仕掛けられればそちらにも対応しなくてはならなくなるわけで、結果、その他の魔法の出力は弱まったし、魔力自体も底をつきかけてしまったのだけれど、直接的な魔法による攻撃を僕に仕掛けてくることはなかった。


「こいつ!」


 その代わり、僕の事を捕まえようと、教皇への伝令に来た神官と、後から現れた数名の神官が迫って来る。

 普通の女の子なら、こんな密室に近い空間で、自分よりも大分年上の複数の男性に狙われれば恐怖で委縮したり、動けなくなったりしてしまうのだろうけれど、今、僕の身体は女の子であろうとも、心は男だ。怖がるようなことはない。

 女性の身体に引っ張られそうになる思考を振り払い、魔法は使うことが出来ないために自分の身体能力だけで、ひたすらに部屋の中を逃げ続ける。

 追い詰められないように、包囲されないように、広い場所へと抜けられるように。


「大分頑張ったけど、ここまでのようだな」


 しかし、体力的には限界が訪れるわけで、いくら鍛えていると自分では思っていても、子供と大人では体力の差が大きかった。

 僕がへたり込んでしまったのを見て、ほくそ笑んだ神官たちは、僕に再び魔法をかけてきた。効果としては石化の魔法に近い。痺れているのとはまた違った感覚で、身体が動かなくなりつつあるのを感じる。


「観念して––」


 言いかけた男のこめかみに何かが直撃し、小さなうめき声を漏らしながら、僕に手を伸ばしてきていた男がよろめいた。石化の魔法の効力がなくなり、床に落ちたそれに目を向けると、1枚の小銀貨だった。


「すとらーいくっ!」


 声の聞こえてきた方、出入り口へと顔を向ければ、目以外は笑っていらっしゃる、何かを投げ込まれたような態勢をとられたフィスさんと、いつもは綺麗に結い上げている髪の縛り方を、おそらくは動きやすいようにポニーテールに変えて、完全に怒っていることを隠そうともしていないユニスと、怖いくらいに笑っていらっしゃるルーミさんが立っていらした。


「折角神殿なのだし、自分の罪を数え、懺悔なさい。もっとも、デューン様とアルテ様がお慈悲をかけられたところで、私たちの主人の大切な人に、そして私たちの大切な同僚に、ここまでの事をした事実は消えないけれど」


 急な事態に動転しているのか、神官の格好をした方々が動く事が出来ないでいるうちに、ルーミさんが驚くべき速さで僕の隣までいらして、羽織っていらした上着を僕にかけて抱きしめてくださった。


「大丈夫? ユー、ティアちゃん」


 こんな時でもその呼び方を変えられるおつもりはないらしかった。


「ありがとうございます。大丈夫です」


 無事を証明するために立ち上がろうとしたのだけれど、上手く力が入れられず、ルーミさんの豊かなお胸の中に倒れ込んでしまった。


「頑張ったのね。偉いわ」


「あ、ずるい、私も!」


 よしよしと頭を撫でてくださるルーミさんに身体を預けさせていただいていると、抗議するユニスの声が聞こえた。


「すみません。結局ご迷惑をおかけすることになってしまって‥‥‥」


 謝る僕の唇に、ルーミさんがそっと人差し指を押し当てられた。


「こんなになりながら相手の本陣を突き止めて、私たちに教えてくれたんですもの。上出来どころか、文句なく最高よ、ティアちゃん」


 そうおっしゃられたルーミさんの優し気な笑顔を見たのを最後に、僕は意識を手放した。



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