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ラノリトン王国 19

 ◇ ◇ ◇


 僕たちが入ってきた広間に魔法が展開されてゆくのを感じる。

 流石に何の魔法なのかまでは分からないけれど、直ちに害を及ぼそうと考えているわけではないようだ。もっとも、それはリーリカ姫の事からも分かっていた事だったけれど。


「ユニス、フィスさん、ルーミさん」


 注意してください、と声をかけようとしたところ、ユニスたちはどこか遠くを見ているような目をしていた。

 僕はもう1度名前を呼ぶと、今度は強く手を引っ張りながら、対抗するために結界を展開する。

 

「どうしたの、ティ––ってあれ、何だか」


「おそらくは相手が仕掛けてきています。この神殿全域に魔法が展開されてきていますから」


 僕がこんな姿だからなのか、魔法を使っていることを隠そうとしていない。この場には他にも魔法を使える方がいらっしゃるかもしれないというのに、随分と杜撰なやり方だ。それだけ自分の実力に自信を持っているのだともとれるけれど。


「ですから––って、ユニス、聞いていますか?」


 話している途中から、ユニスたちは僕の声が届いていないかのように、別々の方へ向かって歩き出そうとしていた。

 遠くを見ているようではあったけれど、虚ろだとか、焦点が合っていないだとか、意志が感じられないわけではなかった。つまり、ユニスたちは自分で意識を保ちながら、この場を離れるように誘導されているということだ。


「え、ああ、ごめんごめん。で、何だっけ?」


 ルーミさんがとぼけたようなことをおっしゃられるけれど、意識してやっていらっしゃるわけではなさそうだ。


「いえ。ありがとうございます。皆さんのおかげで相手方が仕掛けてきていることと、仕掛けが分かりました」


 おそらく幻術の類だ。

 それも、この短時間で作用させるのだから、かなりの術者であることが窺える。

 こちらに意識を向けてくれているという事ならば、リーリカ姫様の方への意識が薄くなっていてくれると助かるのだけれど。

 

「ですから––、あれ、ユニス?」


 説明し、対策について話そうとしたところで、ユニスたちの姿がいつの間にやら見えなくなっていることに気がついた。

 まさか、また作用させたのか?

 幻術系の魔法は、そうと分かっていれば効果が薄れる。それでいてなお、僕と話している最中の人に再び作用させるほどの幻術をかけるなんて。


「そこの貴女」


 自分の位置は把握している。ここはまだ神殿の内部だ。そこから動かされてはいない。

 大事を起こせば、幻術なんて解くのは簡単だったけれど、この場には、少ないとはいえ僕たちの他にも人はいらっしゃる。あまり巻き込みたくはない。あとから、だれだれの命を実行中の出来事だなどと言われたくはないからだ。

 しかし、どのみち相手と接触しなくてはならなかったわけで、向こうから声をかけてきてくれたのは幸運だったと言えなくもない。


「私、ですか?」


 不自然にならないくらいの速さで身体をそちらへ向ける。

 仕方がない。一旦、ユニスたちと合流するのは諦めよう。先程から、何だか見られているような、絡みつくような視線を感じてもいるし。


「はい。教皇様が貴女とお話がしたいと」


 やはり杜撰だ。

 そんなにあからさま過ぎる言葉で拐かそうだなんて。そんな事で引っかかる人はいないと思うのだけれど。

 しかし、僕は不思議そうな顔を作って見せる。

 このくらいの外見年齢の少女が見せるような仕草を、まあ、参考になる女性はいないけれど。ティノ、は年齢の割にずっとしっかりしていたからなあ。もちろん、本当の年齢は知らなかったけれど。


「どうされましたか? 何かお辛いことでも?」


 まずいまずい。感傷的になり過ぎると、相手の術にはまりやすくなる。


「‥‥‥はい。実はここへ一緒に来たお姉ちゃんとはぐれてしまったみたいで」


 不自然じゃなかったよね。そう思いながら、恐る恐る相手の顔を見上げる。どうやら気づかれた様子はなく、まだ僕の事を外見通りの少女だと誤解してくれている様子だった。


「そうですか。それは大変です」


 相手の雰囲気にわずかに変化が見られた。

 ごくわずかなものだったけれど、どうやら上手くいったと、ほくそ笑んでいる様子だった。


「それでは、私共がお探しいたしますから、その間別のお部屋でお待ちください」


「その方の外見など、お教えいただけますか?」


 こちらとの接触を断つつもりなのかか、それとも近付けさせないつもりなのか、こちらを監視していたのであれば知っているだろう外見の情報を色々聞かれた。僕は素直に答えた。


「ありがとうございます。私どもが必ずお連れいたしますので、それまでお待ちください」


 先導してくださる神官の格好をなさっている男性の後ろについて歩いてゆくと、広間を抜け、おそらくは居住スペースのような場所に入り込んでいた。

 お城と同じくらいに豪華な造りの廊下を進んでゆき、最奥にある扉を神官の格好をなさっている方が数度叩かれる。


「ここはどこでしょうか?」


 僕の質問には答えてくれず、扉をノックしたままの姿勢で神官の方は止まっていた。


「入れろ」


 入れ、ではない。つまり、ここに僕を連れて来るということは既定の路線だったというか、彼らの考えではなく、ここにいる人物の意思で僕は連れてこられたのに違いない。


「入りなさい」


 言われて足を踏み入れた瞬間、何故だか身体の力が抜けて、その場に座り込んでしまった。


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