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ラノリトン王国 14

 街や国で情報を集めようと思ったら、最も良いのは街中で、普通に暮らしている方に世間話でもするかのように尋ねることなのだそうだ。

 ギルドには事件やら何やらの情報が、たしかにたくさん集まっては来るのだけれど、誰もかれもが冒険者の職に就いていらっしゃるわけでも、ギルドに行かれるわけでもないし、例えば主婦の方のネットワークは、あまり関係がないと思われるような他国の事に関しても何故か知っているというレベル、例えばリーベルフィアの魔法顧問が変わったなどといったこと、から、隣の家の今日の夜ご飯のメニューまで、それは恐ろしい速さで伝達されてゆくのだという。

 もちろん、そういったある程度の情報は、ギルドにも回されることは多いので、一概にどちらが優れているとは言えないそうだけれど。


「良ーい、ティアちゃん。私たちが聞き込みしている間、ちゃんと目を光らせて、周りで誰かがこっちに注目していないか気にしていてね」


 昼間だから男は働きに出ているから大丈夫よ、とおっしゃられて、ルーミさんとフィスさんが買い物袋を下げて、買い物している風にお店なんかに立ち寄られながら話し込まれる。

 僕は探索系の魔法を展開しながら、ユニスの腕にがっしりとしがみ付いて、背中に隠れるように必死になっていた。


「あの、ユー、ティアちゃん。そんなにしがみ付かれると歩き難いし、私が聞き込みにいけないんだけれど」


「えっと、ご、ごめんなさい。でも、は、恥ずかしくて」


「‥‥‥だめよ、今は仕事中なんだから」


 ユニスは頬を染めながら何事かつぶやいて、何かに耐えるような表情をしながら顔を逸らしてしまったけれど、僕の事を振りほどこうとはしなかった。

 おそらくは仕事に出ていらっしゃるのだろう、男の方をお見かけしないのが唯一の救いだった。何の救いなのかは知らないけれど。


「コラ、あなたたち何やっているのよ」


 僕たちが互いに寄り添うようにして立っていると、戻ってこられたルーミさんが、腰に両手を当てて少し前かがみになられながら、頬を膨らませられた。


「私たちは遊びに、そう、遊びに来ているわけではないのよ」


 それは事実なので、たとえ先刻の出来事と今の僕の格好を考えても、反論のしようはなかった。


「決して、ティアちゃんの恥ずかしがっている姿を見ていたいとか、そういう理由ではなくて、姫様、若様方の、そしてこの国やリーベルフィアの皆のために情報収集に来ているんですからね」


 いや、もう、呪いがどうこう以前に、リーベルフィアはダメなのかもしれない。

 たしか、お城のメイドさんになるには、人手不足とはいえ、色々と試験があったりとか、適正とかが調べられるという話だったけれど、そういう試験はどなたが監督していらっしゃるのだろう。


「まあ、能力と性格は関係ないから」


 何故か考えていることが伝わったらしいユニスが僕に耳打ちしてくる。

 別に、ティアさんの性格がアレだとか言っているのではないし、リーベルフィアのお城のメイドさんが皆そうだなどと思っているわけではないのだけれど、仕事中だというのなら、出来る限り、本音は僕には聞かせないでいただきたかった。


「で、どう? 少しはその恰好にも慣れたかしら?」


 慣れるわけがない。というか、慣れたくない。


「そう。じゃあ、街中での調査は私たちがお手本を見せたのだから、次に行くギルドでは、ティアちゃんとユニスがお願いね」


 僕が首を横に振ったのは無視されたらしいルーミさんから、恐ろしい言葉が聞こえた気がした。


「あ、あの、ルーミさん」


「何かしら、ティアちゃん」


「ぼ、っ私の仕事は皆さんの護衛だったのではなかったですか?」


 「僕」と言おうとして、ルーミさんの鋭い視線に射抜かれて、慌てて「私」と言い直す。「僕」などと言ってしまおうものなら、何が待っていることやら、考えることすら恐ろし過ぎる。

 リーベルフィアの魔法顧問だと気づかれない恰好で、情報収取をされる皆さんの護衛をするというのが、当初の僕の役割だった気がするのだけれど。


「ええ、そのつもりだったのだけれど、それだけじゃ面白、じゃない、やっぱり大変でしょう」


「今、面白くないとおっしゃられましたよね!」


 勘づくどころか、完全に分かっていたけれど、やっぱり面白がっていらしたんだ。

 

「似合っているのは本当よ」


「ぼ、私が聞きたいのはそんなことじゃありません!」


 つい大声になってしまい、人差し指を唇に当てていらっしゃるルーミさんを見て、慌てて手で口を押えた。


「‥‥‥ティアちゃん。大声出さないで」


「すみません」


 いいからずっと口を噤んでいるのよ、と言われ、僕が口を押えながら頷くと、ルーミさんに横腹をつんつんとくすぐられた。

 

「!?」


 逃れようとしてみたけれど、ユニスにがっしりと抱きしめられていて、とても逃げられそうにない。


「ごめんね、ユースティア。私も先輩の命令には逆らえないの」


 そんな恍惚とした表情で言われても全然説得力はないよ、ユニス。


「はあ。あなた達、何しているのよ」


 その地獄はフィスさんが戻って来るまで続けられ、拭うことも出来ず、その頃には僕はすっかり涙目になっていた。

 けれど、ルーミさんは何とかくすぐるのをやめてくださって、とりあえずは助かった。


「そういうのは仕事が終わってからになさい。それに私も混ぜてよね。今は他にするべきことがあるでしょう」


 さらりと恐ろしいことを言われた気もするけれど、きっと、気のせいだろう。そうに違いない。そういう事にしておこう、僕の精神衛生上。


「どうだった、フィス。何か収穫は?」


 フィスさんは力なさげに首を横に振られた。


「リーリカ姫様のご容体が回復に向かわれた、とか、回復なさった、とかっていうレベルの事なら大分伝わっているみたいだけれど、肝心の情報はさっぱり」


「やっぱり、市中の人の関心はそっちだものね」


 仕方ないわ、とルーミさんはおっしゃられて、


「やっぱりギルドの方にも行ってみましょう。この前、ユースティア達が捕らえた彼らもギルドに引き渡されたのだし、少しは情報もあるかもしれないわ」


 ナセリア様のお言葉を信じるのであれば、疑う理由はないけれど、神殿の方へ行ってみた方が良い気がするのだけれど。

 まあ、一介の––ではないかもしれないけれど––メイドさんが来ても、神殿の方がまともな話を聞かせてくださるとは限らない。それなら、雑談のような感じで情報収集できるギルドの方が良いのかもしれない。


「そうね。じゃあ、行きましょう。心配しなくても、ナンパされそうになったら私たちが助けてあげるわよ、ティアちゃん」


 いや、ナンパなんてされるはずないじゃないですか。

 そう言って笑ってみたのだけれど、それには取り合ってくださらず、僕たちは馬車に乗ると、ギルドへ向かっていただいた。





「あの、まさかとは思いますけど、ぼ、私を市中引き回しになさるおつもりではないですよね」


「まさかだよ、まさか」


「そうそう」


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