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ラノリトン王国 12

「ユースティアは細いわね。これならコルセットなんてつけている方が変かしら」


「でも流石に少しは胸に詰め物をしないと着られる服がないわね」


 ユニスたちは、買い出しに行くのだとお城の方に許可をいただいて、僕をお城から連れ出し、ラノリトン王国の街中を進んでいった。

 もちろん、馬車を使っての事だったけれど、リーベルフィアから乗ってきた馬車の、つまりはリーベルフィアの御者さんは快く馬車を出してくださって、なされるがままの僕を馬車へと押し込んで、着いた先は仕立て屋さんだった。

 他のお客さんに気取られないうちに、素早く僕の事を試着室へ放り込み、3人がかりで、巻き尺であっという間に僕の採寸を終えたユニスたちは、胸に詰め物をさせ、春物っぽいワンピースを着せ、


「じっとしていて」


 髪を丁寧に梳かして、花の香りのする香料を塗りたくり。


「ユースティア。魔法で髪を伸ばすことは出来るかしら?」


 嫌な予感どころか、もう何だか諦めた方が早いような気持ちになっていた僕は、言われた通りに髪を伸ばしてみる。

 もちろん、今まで使ったことがなかったので、それなりに時間は要したけれど、前髪がくるくるとなってしまったり、伸びすぎて試着室からはみ出していってしまったりといったハプニングを乗り越え、何とか髪を自在に伸ばしたりする魔法を身につけた。


「これはすごいわね。世の中の女性が知ったら殺到しそうね」


 フィスさんが感心したような台詞を呟かれ、ユニスとルーミさんが隣でうんうんと頷いていらっしゃった。


「じゃあ、適当なところでカットしましょう」


「肩で切り揃えちゃっていいわよね」


「ええー、私はもっと長い方が好みなんだけど」


 短い方が良いでしょとおっしゃるフィスさんと、腰の下までもっと長い方が好きなのとおっしゃるルーミさんが火花を散らされる。


「私はどっちでもいいんだけど。ごめんね、ユースティア。もうちょっと待っててね」


 しばらく後、話し合いの結果、長い髪を短く結い上げるという、ユニスの髪型に似た形にするということで、一応の合意と相成ったらしい。もちろん、僕の意見などは全く入っていない。


「ああでも、もったいないわね、切るの。ナセリア様ならいくらで買ってくださるかしら」


「やめなさい、はしたない」


「冗談よ、冗談」


 フィスさんとルーミさんが後ろで何やら話していらっしゃる間に、ユニスが丁寧に僕の長くなっている金の髪を結い上げてくれた。

 ユニスの指が髪の間を梳くのが、何だか気持ち良くて、くすぐったくて、されるがままに任せていると


「出来たわよ」


 ユニスは、白いラインの入っている、大きな赤いリボンを持って来て、まとめた髪を縛ってくれると、頭の後ろにも折りたたみの鏡を広げて髪の出来上がりを見せてくれる。

 ユニスの髪と同じような感じで結い上げられた髪は、自分の髪の事なのに、どうなっているのかちょっと分からなかった。

 短時間でどうやったのか、それとも女性はすぐに髪をまとめる特技でも持っているのか、まるで魔法のように僕の髪は綺麗に結い上げられていた。


「あ、待って、まだ動いちゃだめよ」


 いつでも持ち歩いているらしい、ポーチからお化粧用品を取り出して、鏡の前の台の上に並べてゆく。 他の人が使っていらっしゃるのを見たことはあったけれど、まさか自分が使われる側に回るとは思いもしなかった。というよりも、男性でそんなことを考えるような人は、まずいないだろう。


「あの、何もそこまでしなくても‥‥‥」


「何言ってるのよ。女の子が自分を可愛く見せるためにお化粧するのは当然の事じゃない。あまりやり過ぎるのはよくないけど、このくらいしていない方が不自然で、逆に注目されるわよ」


 そうでなくても注目されると思うけど。

 ユニスが何か呟いていたけれど、目立たないことが目標の僕としては、自分ですることなんて出来るはずもないし、目を瞑って立ちながら、黙ってされるがままになっていた。途中、ふらふらとしそうになったけれど、なんとか自身の身体を制御する。


「こんなものかしら」


「おおお」


 ユニスが額の汗を拭うような仕草をしながら、わずかに試着室のカーテンを開くと、食い入るように覗き込まれたフィスさんとルーミさんが大きく目を見開かれ、驚きの声をあげられた。

 僕はといえば、正面の大きな鏡に映りこんだ自分の姿を見て、元々あったのか分からない男としての尊厳がガリガリと削られているような感覚を覚えていた。


「やっぱり素材が良いからかしら」


「どこからどう見ても、女性にしか見えないわよ。可愛い可愛い」


 男としてはあまりうれしくない褒め言葉だけれど、そういう風に見られているということは、僕だと気づかれる可能性は低くなったということで、本来の目的は達成できたのかもしれない。


「お手をどうぞ、ティアさん」


 元々着ていた服を収納し終えると、少しカーテンを開いたフィスさんが手を差し伸べていてくださった。足元にはやはりさっきまで履いていたのとは違う靴が用意されている。

 慣れないスカートは歩きづらい。かといって、これよりもっと短いスカートなんてまっぴらごめんだし、差し出されたフィスさんの手をとった僕は、エスコートされるような格好で、慎重に、ゆっくりと鏡のある部屋から店内へと足を踏み出した。

 普通、こういうのは男性が導くものなんじゃなかったの? もっとも、今の僕が男性だといえるのかどうかは分からないけれど。


「あの、これって本当に意味があるのですか? それにティアさんって何でしょうか? あ、あと、その、スースーするのですけれど‥‥‥」


 店内も妙にざわざわしているし、最初に連れ込まれたときは気にしている余裕なんてなかったけれど、店内にもお客さんはいらっしゃって、もちろん全員女性の方だった。

 何か視線を感じるのは、やっぱり、僕が男で、こんな格好をしているのがばれているからなんじゃ。


「いいわね。そのまま、ずっと敬語でしゃべっていなさいな」


 ルーミさんが両手の親指と人差し指でフレームを作り、片目で僕の事を覗かれながら、うんうんと頷いていらっしゃる。


「とてもよくお似合いですよ、お客様」


「ひゃ、ひゃい!」


 ユニスたちのものではない声をかけられて、咄嗟に変な声が出てしまって、どうにも恥ずかしく、ユニスの後ろに隠れたかったのだけれど、僕の方が今は若干背が高いので、上手く隠れることは出来ていなかったらしい。


「どこかのパーティーにでもご出席なさるのですか?」


 すみません。全然関係ないのです。


「すみません。この娘、恥ずかしがり屋で」


 恥ずかしがり屋とか関係なく、男なら誰でも恥ずかしいですから、こんな格好。

 などと言えるはずもなく。

 自分たちの分の買い物もちゃっかり済ませていたらしいユニスたちに連れられて、僕は御者さんにとても驚かれながら、馬車へと乗り込むのだった。

 出来ることならばこのまま消え去ってしまいたかったけれど、そういうわけにもいかず、大きなため息をついてしまった。


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