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ラノリトン王国 11

 ナセリア様のお顔を曇らせないようにするのがお仕事だと、リュアレス団長はおっしゃられた。

 それが何よりも優先されるのだと。

 それは僕だって同じ気持ちだ。魔法師団や魔法をお教えする教師としての役割という以上に、姫様方、若様方にはいつも笑顔でいていただきたい。

 昨日の会議の様子から考えるに、麻薬の密売を通して利益を得ている方の中に、少なくともラノリトン王国の貴族の方が、それもあの場に召集されるような名のある方が関わっておられるだろうことは推測できる。

 1人1人に問い詰めれば見破ることは出来るかもしれないけれど、まさかそんなことが出来ようはずもない。すでにリーベルフィアに持ち込まれているのであればともかく、ここはまだラノリトン王国で、僕は表向き姫様方の護衛という立場でしかない。

 こちらのリーリカ姫様にかけられていた呪いと、麻薬にどのような関係があるのかは分からないけれど、王族の方が標的にされていることは確実で、ナセリア様の見解によれば、先日こちらを訪れたという神殿の方が黒幕で、ラノリトン王国の方でもすでに使者を送られたという話だけれど、事態が進展したというような報告を耳にしてはいない。

 神殿を調査出来れば良いのだろうけれど、魔法師が少ない––ほとんどいらっしゃらない––というラノリトン王国では、神殿の神官の方が、一応治癒の魔法を使えるらしく、国民の皆さんにはとてもありがたがられている組織なのだそうで、迂闊に手を出すことが出来ないでいるということだった。

 リーベルフィアではそのような話を聞いたことはなかったけれど、それは国として、魔法がより浸透しているからなのかもしれない。

 僕がもっと積極的に関わることが出来ればいいのだけれど、リーベルフィアの魔法顧問に、しかもこんな子供風情にという雰囲気があるように見受けられたこちらの貴族の方の態度では、おそらく難しいだろう。僕自身が妨害されるだけならばまだしも、姫様方に危害が及ぶ可能性が全くないとは言えない。

 つまり、姫様方にご迷惑をかけないように、僕だと知られずに、調べることができれば良いのだけれど。

 隠蔽の魔法や幻術の魔法では情報の取集という点で考えると、他人に尋ねることが出来ない以上、不安な点が残る。

 そうすると––。


「どうしたの、ユースティア?」


「変身していけばいいんだ」


 そうすれば、少なくともリーベルフィアの魔法顧問が何やら嗅ぎまわっているらしいという噂を建てることはない。注意すれば、お城以外で正体が露見する可能性も限りなく低くできるし、姫様方への危険もこちらへ向けることが出来るかもしれない。

 そう思って立ち上がると、丁度洗濯物を取り込んできたところらしいユニスたちと目が合った。

 急に何事かつぶやいて立ち上がった僕の方を不思議そうな目で見つめているけれど、僕は気にせず考え続ける。


「問題は僕の持っている道具、服は、どれもお城でいただいたリーベルフィア魔法顧問としての標がつけられているということで、生地から縫製しなくちゃ、あるいは買って来なくてはいけないというところかな。昼間に買いに出かけるための許可を貰って‥‥‥」


「あの、ユースティア?」


 声をかけられたので顔を上げると、思った以上にユニスの顔がすぐ近くにあって、驚いて後ずさってしまった。

 器用に洗濯物の束をずらして顔を覗かせているユニスは、


「よく分からなかったけれど、服が入用なの?」


「え、うん。だけど大丈夫、僕だって縫製くらいはすぐに出来るから」


 たしかに寝具にはリーベルフィアの紋様は入っていないけれど、外に着て出かけられるような服ではないというのは分かっている。


「変身とかって聞こえたけど?」


 フィスさんが何故か面白がっていらっしゃるように尋ねられる。

 僕が本当にかいつまんで事情を説明すると、一緒にいらした、茶色の髪を腰の上辺りまで長く伸ばされている––とはいえ仕事の最中はユニスと同じように結い上げていらっしゃる––同じメイドさんのルーミさんが、赤紫の瞳をすっと細められた。


「どうされましたか?」


 ルーミさんは僕に顔を近づけられると、軽く僕の顎を持ち上げられ、ふんふんと確認されながら、僕の顔を観察されていらっしゃるご様子だった。


「そのお仕事、姫様方のためのものなのでしょう?」


「ええ、そうです」


 もっとも、姫様方が望まれるかは分からないので、自己満足だと言われてしまうかもしれなかったけれど。


「だったら、私たちが手伝ってあげる」


 御三方は、ちょっと、とお顔を突き合わせられると、何だか楽しそうな声を上げられながら、時折僕の方をちらちらと見られながら、何事か話し込まれた。


「聞き込みに行くのだって、リュアレス団長みたいに、いかにもって方よりも、私たちの方が相手の方も話してくれるかもしれないじゃない」


 まあ、ユニスをはじめ、どなたも、お城で採用されるくらい、関係あるのかどうかは知らないけれど、容姿も整った方ばかりなのだし、世界が違っても、色が武器になるということは変わりがないだろう。


「ですが、皆さんを危険な目に合わせるわけには‥‥‥」


「だから、ユースティアも一緒に行くのでしょう?」


 相変わらず楽しそうなお顔で、けれど今度はどこか吹き出すのを堪えていらっしゃるような、そんな悪戯っ子のような瞳で、フィスさんが告げられる。


「私たちなら、警戒心も薄れるだろうし、いざという時にはきっとユースティアがどうにかしてくれるだろうし」


 それはもちろん、けれど、やはり、僕1人で行く方が良いのではないだろうかと思うのだけれど。


「ユースティアが連れて行ってくれないのだとしたら、うっかり、姫様方がいらっしゃるところで、おしゃべりがしたくなってしまうかもしれないわね」


「そうね。お城のメイドは口が軽いというのが常識だし」


 フィスさんとルーミさんが、口々にそんなことをおっしゃられる。

 一体どこの世界の常識なのだろう。むしろ、お城に仕えていらっしゃる方は、口が堅い方ではないのだろうか。職業を考えると。

 しかし、真実は今は重要ではなくて、姫様方にご心労をお掛けしないというのが重要なことなので、事実はどうであろうとも、僕が1人で言ったことを知られれば、ナセリア様はやはり気を病まれるだろうというのは想像に難くない。


「大丈夫。ラノリトン王国の娘が解決したように見せればいいのでしょう?」


「ユニス?」


 何となくニュアンスが違った風に伝わっているような気がしないでもないけれど。


「大丈夫。全部任せておいて」


「楽しそうね」


 本当に気持ちだけで、と言おうと思ったのだけれど、とても楽しそうにしているユニスたちに言葉をかけることは出来ず、言われるがままに、僕はユニスたちの後についていった。

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