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ラノリトン王国 7

 出入り口に見張りにつかれる方を残して、僕たちが突入した施設は神殿という存在とはあまり似つかわしくないイメージの場所だった。

 もちろん、ナセリア様が仰られた、今、ラノリトン王国の王城にいらしている神殿からの使者を名乗られた方と実際にリーリカ姫様に呪いをかけている方々が同じ組織に属するのだとしても、例えば僕たちに照らし合わせてみると、騎士団の皆さんと魔法師団の皆さんが違うように、彼らもまた違うのかもしれないのでその辺りは気にしないことにした。

 地下施設には、怪しげな臭いのする薬品が置いてあったり、何の種類か分からない植物が、鉢植えなどではなく、菜園のように大量に育てられていた。

 以前、ロヴァリエ王女がいらしていた際に、ウィンリーエ学院を訪れたとき、帰りに遭遇した彼らが育てていた植物––例の葉っぱ1枚が金貨数枚にもなることがあるのだという植物––に似ている気がするけれど、少し形状が違うようにも思える。

 僕には詳しいことは分からないので、危険かもしれないけれど、ラノリトン王国のお城にあるだろう図書室のような場所、もしくはリーベルフィアのお城で調べられるだろうと思って、数枚を千切り取り、収納する。


「これは麻薬ですね」


 答えは思ったよりも早く出た。

 騎士の方達は念話をお使いになることは出来ないので、一定時間でとりあえず1度集合することにしていたのだけれど、僕が地上に引き返すと、他にも同じ葉っぱを持ち帰られた騎士の方がいらしてその正体を教えてくださった。


「麻薬というのは、薬の事ですよね? 痛みを和らげる効果があるとか、睡眠を誘発するのに使用されるとか」


 薬ならば、治癒の魔法が浸透していなければ、高くなるのは仕方がないことだとは思う。さすがに、数千枚というのは大きすぎると思うけれど。


「いえ、ユースティア殿。そうではありません。これらの使い道というのは––」


「団長」


 リュアレス団長の説明が始まる前に、分かれていてまだ戻ってきていらっしゃらなかった部隊の方がお戻りになった。


「お話を、いえ、事情聴取をしようとしたところ、抵抗にあいましたので、とりあえず気絶させました」


 侵入するときに、縄や紐などを持っては入らなかった。

 僕は収納してあった荷物の中から、縄を数本取り出してお渡しした。


「ユースティア殿。お願いできますか」


 他の部隊の皆さんも同じような状況になっていて、捕えられた方は十数人にもなったけれど、幸いなことなのかどうか、全員命に別状はなさそうだったけれど、全員が昏倒していた。


「分かりました」


 彼らの頭に手をかざし、ククリさんの姿を念写したときと同じような要領で、今は念写する必要はないけれど、彼らの記憶を読み込んでゆく。

 勝手に頭の中を覗いてしまって少し悪いかとも思ったけれど、これで本当に裏が採れるのであれば、つまり、姫様方への助けとなるのであれば躊躇うことはなかった。

 見知らぬ他人のことが重要ではないということでは決してないのだけれど、知り合いの、大切な方達とは比べるまでもない。

 

「やはり、予想通りです。彼らがリーリカ姫様に呪いをかけていた人物のようです」


 念のため、彼らから感じられる魔力も確認しておく。

 気絶していようと、魔力がなくなっているわけではない。

 彼らのうちの数人の魔力は、僕が感じたことのあるものだった。


『ナセリア様』


 結果をはやくナセリア様にご報告して、交渉相手も捕えていただいて大丈夫ですとお伝えしようと思ったのだけれど、ナセリア様と繋がっている感覚はあれど、反応がない。再び呼びかけてみても、同じことだった。


『エイリオス様』


『ユースティアか』


 少し不審に思いながらも、僕は続けてエイリオス様に念話を繋げる。

 こちらはすぐに反応が返ってきた。


『リーリカ姫様に呪いをかけていたと思われる集団は捕縛いたしました。そちらの、リーリカ姫様のご様子はいかがでしょうか?』


『今はフィリエがみて‥‥‥いや、リーリカ姫も、今、起き上がられた。オズワルド殿が抱き着かれている』


 それはよかった。

 ここからでは、リーリカ姫様の詳しい容体などを診ることは出来ないけれど、お医者様もいらっしゃるのだし、僕が感じることの出来るのは魔力、魔法的な事だけなので、エイリオス様、フィリエ様が大丈夫だとおっしゃるのであれば大丈夫だろう。


『それはようございました。それで、ナセリア様はどちらでしょうか?』


 僕が尋ねると、エイリオス様は黙ってしまわれた。

 

『ユースティア』


 すぐ後に、フィリエ様から念話が繋がるのを感じた。

 3者間でも特に問題はないのだけれど、エイリオス様は念話を遮断なさってしまわれた。


『ユースティア、お姉様のことなら心配はいらないから、今は私とお話でもしましょう?』


 フィリエ様が、大好きなナセリア様のことで、嘘をつかれるはずはない。ナセリア様の危機なのだとしたら、すぐに、何をおいても知らせてくださるはずだ。


『それとも、まさか、お姉様にもう連絡してしまったかしら?』


 しばらく無言の時間が流れ、


『ユースティアのバカ! もう、あのね––』


『ご心配をおかけしました』


 念話に割り込むことは出来ないけれど、別の方からの念話を受け取ることは出来る。


『ナセリア様。ご無事なようで何よりです』


 フィリエ様やエイリオス様のお言葉からも、大事には至っていらっしゃらないというのは分かっていたけれど、実際いお声を聞くことが出来ると––今しているのは念話だけれど––安心できる。


『いいえ。ですが、ユースティア。あなたは普段は女性に対してとても紳士的だとは思うのですが、もう少し、色々と考えて、察していただけると助かります。もちろん、察しない方が良いこともありますけれど』


『なるほど。よく分かりませんでした。ご無事なようで何よりです、ナセリア様。これより、帰還いたします』


『そうですね。多分、フィリエに、それからユニスたちにも、色々と言われるでしょうから、しっかりと聞いてくださいね』


 怒っていらっしゃるわけではなさそうだけれど、いや、少しばかり怒っていらっしゃるのかもしれない。念話だけでは何とも理解するのは難しかったけれど、お城へ戻れば理解できるはずだ。ナセリア様のお言葉がすこし怖かったけれど。


「ユースティア殿」


「すみません、今、行きます」


 姫様方に連絡を取ることは告げていたので、こちらの会話が終わったのだろうタイミングを見計らわれた騎士団の方にお声をかけられた。どうやら、諸々の収集も済ませてしまわれたらしく、手伝えずに申し訳ありませんと頭を下げると、お気になさらないでください、こちらこそ姫様、若様へのご連絡、感謝いたしますと、逆にお礼を述べられてしまった。

 僕は騎士団の皆さんの荷物を収納すると、おそらくはお説教らしきものが待っているのだろうラノリトン王国の王城へ、姫様方の元へと歩みを進めた。

 

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