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ラノリトン王国 4

 ものの数分でユニスたちは僕たちがいる部屋、つまりリーリカ姫様の寝室に到着した。

 すでに許可はいただいているため、僕の口から現在のリーリカ姫様の容態と状況、これから僕がしなくてはならない事を説明した。


「そういうわけなのですけれど、姫様方の事、くれぐれもよろしくお願いいたします」


「あの、ユースティア‥‥‥」


 薄い緑の髪をショートに切り揃えている、普段は活発そうな雰囲気のフィスさんが真っ先におずおずと手をあげられる。

 彼女たちが聞きたいのだろうことは分かっているけれど、あえて何も答えず、黙って続きを待つ。


「そのお役目は私たちでは変わることは出来ないの?」


「申し訳ありません。しかし、魔法が使えない、もしくは出力が低すぎますと、最悪の場合、逆にこちらまで汚染される恐れもありますので」


 魔法が全く使えない、ということはないのだろう。

 学院の魔法学科を卒業された方でも、魔法師団ではなく、メイドとしてお城に就職なさりたいという方もいらっしゃるのだと聞いたことはある。

 しかし、それは本当に少数であり、多くの方で、お城の魔法師団に所属されていない、学院の魔法学科を卒業された方は、別の職業、例えば冒険者などになられるらしい。さらに、前述した理由もある。

 そして、彼女たちが逆に汚染されるような事態に、万が一、陥ってしまった場合、姫様方の負担がより増えることになるし、オズワルド様とソリトフィア様にも余計に心労をお掛けしてしまう事にもなりかねない。

 さらに言えば、現状に対処できていない以上、厳しい言い方になってしまうけれど、この事に関して言えば、こちらの魔法師の方にお頼みすることも出来ないだろう。

 悔しそうな、残念そうな彼女たちに、僕は、姫様方の事をお頼みする。


「それは頼まれるまでもないことだけれど‥‥‥大丈夫なの?」


「ご心配頂きありがとうございます。おそらくは問題ないと思われますが――」


 ナセリア様の不安そうな、心配していらっしゃるような視線を感じて、万が一の場合の話はするのをやめておいた。

 ナセリア様も、僕が行かなければならないということは十分に分かってくださっているとは思うけれど、行かないでくださいなどと懇願されたら、それを断り切れる自信はなかった。

 

「いえ、問題ありません。必ず、無事に戻りますので」


 そう言って、すぐに出ようとしたのだけれど、ソリトフィア様に止められてしまった。


「お待ちになってください。いくらこちらがお頼みしたこと、お頼みしている立場だからとはいえ、このような夜も近い夕暮れに、他国からいらしてくださった貴方様を向かわせるわけには参りません」


 ユニスたちも大いに頷いているし、フィリエ様とエイリオス様も心配そうなお顔をなさっている。


「そうよ、ユースティア。今日はもう暗いし、ユースティアが凄いのは知っているけれど、危ないかもしれないわ。それに、明るい方がこのお城の護衛の方も動きやすいだろうし、ユースティアがいない間に私たちが危険にあうかもしれないじゃない」


 それはいつ僕が離れても同じことだとは思うのだけれど。それに護衛というのであれば、ついて来てくださっている騎士団の皆さんがいらっしゃるし、ラノリトン王国の王城にも同じような存在、騎士団があるかもしれないし、少なくとも魔法師の方はいらっしゃる。治癒の魔法は苦手とされていても、防衛としては採用されるほどには優秀な方達なのだろう。


「苦手なわけじゃないと思うのだけれど……」


 フィスさんが僕の顔を見てため息をつかれる。

 フィスさん達のおっしゃりたいことは、分からないでもない。

 不遜な言い方になってしまうのだけれど、僕がこの世界に来て以来––もしかしたらその前の世界を入れても––出会ったどの方と比べても、僕が最も上手く魔法を扱えるだろうことはおそらく間違いがない。出会ったことのない方に関しては知りようもないけれど、魔力だけで考えるならば、人類としては、対等と思える方はいらっしゃらない。

 ルルーウィルリ様やリンデンブルムさんならば可能かもしれないけれど、今どちらにいらっしゃるのか分からないし、念話を繋ぐことは可能かもしれないけれど、どれ程の時間が掛かるのかもわからず、一方的なお願いだけを聴いていただくわけにもいかない。何せ、先日、お誘いを断ってしまった身だ。

 もちろんフィリエ様が僕の事を心配してくださっているのは伝わってくるので、そのご厚意を無下にすることも出来ない。

 

「今すぐに命に別状があるような事態にはならないのだろう? そのユースティアの判断を私も信じている」


 エイリオス様は強い瞳を僕に向けられ、ちらりとナセリア様の方を心配なさっているような表情で見やられた。

 ナセリア様は何もおっしゃられずに、ぐっと何かに耐えていらっしゃるような表情をなさっていらした。

 

「‥‥‥分かりました。もし、相手が大人数だった時のことも考えますと、騎士団の皆さんにもお声がけした方がより確実にもなるでしょう。夜––夕刻から皆さんを働かせるのは忍びありません。思わぬ危険があるやもしれませんから」


 おそらく、心配はいらないだろうけれど、それでナセリア様たちが安心してくださるのであれば、そうしよう。


「明日の朝に出ます。私はこれからその旨をリーベルフィアから付いて来てくださっている皆さんにお伝えしに行きたいのですが、とりあえず、この場はここまでということでよろしいでしょうか?」


 もちろん、症状を抑えるための治癒、浄化の魔法は継続する。

 

「こちらからお頼みしていることですのに、申し訳ありません。せめて夕食はごゆるりとお寛ぎください」


 ソリトフィア様とオズワルド様が真摯に頭を下げられたので、僕も姫様方に習うように礼をして、頭を下げた。



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