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ラノリトン王国へ 2

 隣国とはいえ、リーベルフィアの王都からラノリトン王国までは1日以上はかかる。朝早くに出発したとしても、おそらくその日はリーベルフィアの東のギルドに泊まることになるし、ラノリトン王国の王都まではそこから半日だというのが御者の方の話ではあったけれど、不測の事態が起こらないとも限らない。

 だからといって荷物が重くなったりはしない。全ては僕が収納することが出来るし、姫様方にも先日収納の魔法はお教えしたので、ご自身の分は問題なく収納されていらっしゃることだろう。

 もちろん、護衛についてきてくださる騎士の皆さんの分も、というわけにはいかない。

 全員分の荷物を僕1人で持つのはリスクが高すぎるし、そうならないように細心の注意を払いはするけれど、過信しすぎてはいけない。


「それでは私は後ろの馬車におりますので、何かございましたら念話でお伝えください」


 僕はエイリオス様、レガール様と一緒の馬車に乗ることになっている。いくらリーベルフィアの馬車が大きいとはいえ、同行する全員が一緒に1台の馬車に乗ることができるわけではない。学院に行ったときとは人数が違うのだ。


「え? ユースティアはこっちに乗らないの?」


 フィリエ様にさも当然のように問われ、僕は首を横に振った。


「はい。そちらの馬車にはユニスたちが乗ることになっています。先程も申しました通り、私はすぐ後ろの馬車に控えておりますので、御用の際は念話でお伝えください」


 フィリエ様は不満そうに頬を膨らませられ、エイリオス様のお顔を見られると、


「お兄様も私よりユースティアを選ぶのね」


「フィリエ。お前も分かっているのだろう? あまり我儘を言って皆を困らせてはいけない」


 エイリオス様に諭されて、フィリエ様は、いいわよ、もう、と可愛らしく頬を膨らませられた。


「お兄様もユースティアも私たちと離れて大丈夫だというのね。それなら、私たちは私たちで楽しくやってやるんだから!」

 

 行きましょう、とミスティカ様の手を取られたフィリエ様が前の馬車へと乗り込まれると、ミスティカ様が慌てた様子でフィリエ様の後をとことことついてゆかれ、馬車へと乗り込まれた。


「‥‥‥すみません。フィリエには私の方から言っておきますから」


「頭などお下げにならないでください、ナセリア様。それから、フィリエ様には申し訳ありませんとお伝えください」


 ナセリア様、フィリエ様、ミスティカ様、それからエイリオス様とレガール様が馬車へと乗り込まれて、後に残ったのは僕と、ユニスたちメイドの皆さんと、護衛の騎士の皆さんだけとなった。

 ちなみに、僕以外の魔法師団の皆さんはお城の護衛に残っていらっしゃる。


「では出発いたします」


 御者さんにお声をかけられて、エイリオス様が返事をなさると、馬車はラノリトン王国へ向けてゆっくりと走り出した。

 女性の方はどうか分からないけれど、こちらの馬車の中では、エイリオス様は難しいお顔をなさったまま、ラノリトン王国の年号や王族の家系図が載ったもの、大臣の方の名前や法典などの内容が書かれているものをお読みになっていらした。

 他国を尋ねるのだから王族として当然の心構えなのかもしれないけれど、やはりご立派だと思う。

 もちろんすでに暗記してはいるが、とおっしゃられていたにも関わらず、それを読み返し、復習なさっている。

 僕も見習って、出来ることからやっていこう。

 図書室からお借りしてきた数冊のうち、1冊を取り出す。

 ナセリア様のように何冊も開いて同時に読むことは出来ないし、そもそも馬車の中ではスペースがない。 

 そう思っていると、斜め前に座っていらっしゃるレガール様に服の裾を引っ張られた。

 例の式典の際に着た服も持って来てはいるけれど、馬車の中から、それもまだラノリトン王国に着かないうちから着るような服ではない。浄化の魔法があるとはいえ、わざわざ汚れるかもしれない真似をする必要もないだろう。


「お暇なのですか?」


 レガール様は口を閉じられたまま、素直に頷かれた。

 いつも一緒にいらっしゃるクローディア様や姉姫様はこの場にいらっしゃらず、エイリオス様も熱心なご様子でお勉強をなさっているので持て余していらっしゃるのだろう。


「承知致しました。では、不肖、この私がお相手を務めさせていただきます」


 王子様相手に大丈夫なのか分からないけれど、僕も子供なのだということは置いておいて、子供の相手は慣れている。

 僕は白いハンカチを取り出すと、指先を動かしながら織り込んで、小さな小鳥を作り出した。このハンカチは支給品––とはいえ頂いたものだけれど––なので、以前使っていたような継ぎはぎの有り合わせの布で作ったものではないけれど。

 レガール様は相変わらず口は閉じられたままだったけれど、わずかに目は見開かれて、エイリオス様もわずかに顔を上げられて、まじまじと僕の掌の中を覗き込まれた。


「鳥さんですよ」


 そう言いながら、ふわふわと浮かばせてレガール様の前までゆっくりと飛ばすと、レガール様は慎重な手つきでつんと突かれ、笑顔を浮かべてくださった。

 

「今度は猫さんですよ」


 しばらくぷかぷかとさせた後、折り方を変えて猫をつくりだすと、レガール様のお膝の上に飛び乗らせた。

 あやとりがあればもっと色々とそちらの種類も増えるのだけれど、今のところは持っていないのでこのハンカチだけで許していただこう。

 レガール様はひとしきり僕の折った猫とお戯れになった後、ご自身も水色の綺麗なハンカチを取り出された。


「はい。折り方はお教えいたしますよ」


 男の子だからあまり興味は持っていただけないかと思ったけれど、そうでもないみたいで良かった。

 その日の馬車の中では、宿屋に停車するまで、ずっとハンカチ遊びをお教えしていた。



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