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新年パーティー 3

 ナセリア様を探すのにそれほど時間はかからなかった。

 フィリエ様とミスティカ様の方とは違い、もう1つ、男性のお客様の群れが出来上がっていたからだ。

 群れ、という表現ではいささか失礼かもしれないけれど、実際、それ以外の表現は思い浮かばなかった。別に、やきもちをやいたりとか、そういう気持ちは一切なかったと思うのだけれど。

 ナセリア様のお姿はよく見えなかったけれど、その輪の中に居らっしゃることには違いない。囲うように輪を形成されているのはナセリア様よりもずっと、僕よりも少しばかり年上に見える方々で、細かいことまでは分からなかったけれど、どうやら年末の音楽祭のことをお話しなさっている様子だった。

 ナセリア様に危険が及ぶようならばそれに対処するような行動をとることは出来るけれど、彼らも10歳の女の子––お姫様––にどうこうしようというつもりはなく、ただナセリア様と会話をしているだけなのだし、僕が警戒しすぎているのもコミュニケーションの邪魔になってしまうかもしれない。

 まだまだ先の話になるとは思うのだけれど、フィリエ様に理想の結婚像があるように、ナセリア様もいつかは結婚なさるのだろう。王妃様の年齢を考えると、それは遠い未来の話ではなく、わずか数年後の事だろう。

 家族というものについても、リーベルフィアで王家の皆様のご様子を拝見したり、ユニスや、他のお城の方、それにロヴァリエ王女などがご自身の家族について楽しそうに語っていらっしゃるのを聴いていると、やはり良いものなのだろうなと考えられる。

 ティノ達は家族だったけれど、ティノ達といた日々の事を思い返せば、悲しさと同時に、やっぱり嬉しかった気持ちや、暖かかった気持ちが甦ってくる。

 だとすればなおさら、ナセリア様があの方々、それこそフィリエ様ではないけれど、ナセリア様が幸せだと思えるような家族になってくださるかもしれない方との出会いを喜ばなくてはいけないのに。


「どうかされましたか、ユースティア様」


 ういぶんと 長い間ナセリア様の方ばかりを見てしまっていて、突然かけられた声に、つい驚いてしまいそうになった。


「ク、王妃様。私にどのようなご用件でしょうか?」


「そんなに畏まらないでください」


 クローディア様は周りの方に––不敬に当たってしまうけれど––とても魅力的な、可愛らしい笑みを浮かべられながら、僕のところまで歩いていらした。

 用というほどの事ではないのですが、そう前置きされたクローディア様は、僕の元の視線の先を辿られたらしく、ああ、とおっしゃられた後、うっとりとしたお顔を浮かべられた。


「随分とナセリアのことを気にかけていてくださるんですね」


 あの子はしっかりしているように見えて、実際にしっかりしているのですけれど、やっぱり心配になるんです、と王妃様は頬に手を当てられながら微笑まれた。


「ですからどうかよろしくお願いしますね」


 これをあの子に渡してきてくださいますか、と小さく折り畳まれた紙を手渡された。

 承知いたしましたと頭を下げ、何故だか足取りも軽くナセリア様の下へ向かった。


「ナセリア様」


 失礼致しますと、お客様の間をかき分けて、何となく視線を集めながらナセリア様の隣までなんとか辿り着く。


「お話し中のところ、申し訳ありません、ナセリア様。こちらをクローディア様よりお預かりしております」


 ホールに流れる音楽も変わり始めていて、どうやら皆様、ナセリア様にダンスのお相手を申し込んでいらっしゃるところらしかった。

 ナセリア様が困っていらっしゃるように見えたことと、まだどなたとも踊っていらっしゃらないことにどうしてかほっとしていることに驚きながら、ナセリア様の下に膝をつき、王妃様から渡された包みを差し出した。


「ありがとうございます、ユースティア」


 ナセリア様がそうおっしゃって、僕の手から手紙を拾われると、周囲から小さくないひそひそ話がされ始めた。

 紙を広げられたナセリア様は顔を上げられて、王妃様の方を向かれると、嬉しそうな、恥ずかしそうな表情を浮かべられた。

 それきり、顔を戻されて僕の事をわずかに赤く染められたお顔でじっと見つめていらして、何かを待っていらっしゃるように静かな笑みを浮かべられていた。

 周りの方も、僕たちの事をじっと見ていらっしゃるようで、ダンスの最中だというのに、僕とナセリア様の周りは静まり返っていた。


『こういう時は男性からリードするものよ』


 まるでタイミングを計っていたかのように、頭の中にフィリエ様のお声が響いてきた。

 ほんのわずかに遅れて、ナセリア様も驚いたようなお顔を浮かべられた後、また少し頬を赤く染められた。


「僕と踊ってください、ナセリア姫」


 不安な気持ちでナセリア様のお顔を見上げると、僕を見つめていらしたナセリア様のお顔が輝いた。


「––はい。喜んで」


 少し言葉に詰まられながらも、小さな手を僕に向かって差し出してくださった。

 周りの方の表情やお気持ちも気になるはずなのに、ナセリア様の嬉しそうな笑顔を見ていたら忘れてしまいそうになった。

 僕の方から申し込んでおいて、他の方とのことを尋ねるのは失礼にあたるし、曲に合わせて、大分踊れるようになってきたステップをナセリア様に合わせていると、そういったことをすっかり忘れてしまいそうな気持になっていた。

 踊っていらっしゃる際中、ナセリア様は終始黙ったまま嬉しそうになさっていた。

 前回、ロヴァリエ王女が帰国される際のパーティーでは、結局ナセリア様に誘われる形になってしまったので、今回は僕の方からお誘いすることができてそれを受けてくださったことは素直に嬉しかった。

 今、僕の手を取って踊っていらっしゃるナセリア様は、あの時よりも嬉しそうな雰囲気をされていて、先程までお話しされていらしたときよりも、なんというか、その、可愛らしい––柔らかい表情をなさっていた。


「大分、踊るのが上手くなったのですね」


「姫様方のおかげです」


 ナセリア様は少し残念そうな口調でそうおっしゃられた後、すこし拗ねたような口調で、


「––先程も、年上の奥様に、モテている様子でしたし」


 ナセリア様はまだいらっしゃらなかったのだから、僕が貴族家の奥様方、旦那様方とお話してることなんてご存じないと思っていたのだけれど、どうやってかご存知だったらしい。


「い、いえ、あの、あれは別にモテていた訳ではなく––」


 魔導書の項目や、訓練の方法について尋ねられていただけなのだと説明すると、ナセリア様は少し頬を膨らませられて、頬を赤く染められながら、知りません、とそっぽを向かれた。

 そんなことをされながらも、ダンスのステップを間違われるようなことはなされずに、しばらくすると、先程よりもずっと嬉しそうな雰囲気で僕の方へ向き直られて、楽しそうにステップを踏まれたので、心に感じていたもやもやがいつの間にやら晴れていた僕も、それにつられるようにくるくると踊り続けた。

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