サーチライト妄想塔の少女は夢を見る
サーチライトの灯る 妄想塔の頂き
本を読み 詩作だけが趣味の少女は 現世を見おろす
そこでは多くの影がうごめき オイルが影の動きを滑らかにしていく
少女は世捨て人だからか 常世の涙や亡骸を見ても 憤ることはない
静かに詩を綴り 世の営みを その睫毛艶やかな瞳で見つめるだけだ
ある影は体を動かし 街の礎を築くビルを建て
ある影は指先を動かし すべての影の空腹を満たす料理を作った
ある影は唇に紅を塗り 影の欲情を満たすように振る舞い
ある影はまた 最早動かなくなった影を土に葬った
すべてが完璧で 揺るぎなく
すべてが完璧で 悲劇だが 慈愛に満ち
すべてが完璧で 何も言うことはない
すべてが完璧で 非打つところなし
サーチライトの灯る 妄想塔の少女はベッドに入る
身を患い 二本足では決して歩けない 足を労わりながら
彼女のベッドから遠く離れた場所では
多くの影が 顔を覆っては うなだれ
多くの影が 笑顔見せては 手を取りあい やがて倒れていく
妄想塔の少女は夢を見る 風の音を聞きながら これでいいと
妄想塔の少女は夢を見る 波の音に耳を澄まし 何もかもが土へと還ると
妄想塔の少女は 大好きな本を傍らに 今にも壊れそうな寝息を立てる
妄想塔の少女は 多くの影を見つめて すべてが完璧だと言い聞かせる
気怠い視線を投げかけて サーチライト妄想塔の少女はただひたすらに 熱を帯びた 夢を見る