表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

隣のクラスの笹木さんは、凄い可愛い。

作者: 真昼




隣のクラスの笹木さんは、凄い可愛い。



腰までの髪はサラサラしているし、ぱっちり二重な眼とか、ふっくらしたピンクの唇がこれ以上無く可愛く配置されていて、そこらのモデルとかアイドルよりよっぽど可愛い。


しかも性格も良い。

消しゴム落ちたら拾ってくれるとか、吹奏楽部でホルンを吹いているとか。これって性格も良いって事だろ?


勿論他の男子達にも大人気だ。

球技大会の時なんてやばかった。バスケの試合中、彼女の手にボールが渡った時の真面目な表情とか、流れる汗とか、揺れるおっぱ……失礼。とかに、どいつもこいつも夢中になる。ガン見だ。

この前同じクラスの佐藤が「笹木さんは美少女と天女とロリを足して3で割ったんだ!」と叫んでいた。

その後クラスの女子から総スカンを食らっていた。

つまり、笹木さんは聖域でもあるという事だ。


大人気という事は、ライバルも多いという事だ。

これはむしろ自然な事だ。廊下ですれ違う度に良い香りがする位なんだ。ちょっと彼女持ちの奴が笹木さんを二度見した位で、そいつの彼女は目くじら立てないで欲しい。

因みに俺の話じゃない。彼女できた事ないし。


そして笹木さんは良く告白される。

手紙とか、呼び出しとか、L○NEとか。まあL○NEで告白できる奴は友達登録してるって事で、友達って響きがまず羨ましい。

勿論俺は知らない。泣いてない。

今の所笹木さんが誰かと付き合ってるって話は聞かない。サッカー部エースとかテニス部部長に告白されたけど断ったと、もっぱらの噂だ。


学校でイケてる奴等が断られるんだから俺みたいな冴えない男が相手にされる訳が無い?

いや、それでも告白してしまうのだ。

だって笹木さん美人だし。笹木さんと他の女子は違う、見た目とか運動神経じゃなくて、中身で選んでくれるんじゃ無いかと思ってしまうんだ。

笹木さんと付き合えるなら、無茶苦茶貢ぐ。バイトも始めて、行きたい所に連れて行ってやりたい。

それで「体大丈夫?無茶しないでね?」って言ってくれるなら天にも昇る気持ちになれる。

十分一万円で手を繋げる券とかあるなら多分買う。

その十分で話せたらとか考えるだけでやばい。



兎に角言いたいのは、俺が笹木さんの事が好きで、これから告白しようとしているという事だ。












場所は放課後の教室。


呼び出したって訳じゃない。終わらない課題を片付けて帰ろうと思ってたら、隣の教室でホルンの練習をしている笹木さんを見つけた。

しかも一人。音の良し悪しは分からないけど、ホルンを吹く笹木さんは凄く絵になる。夕焼け色の窓を背にする姿はほんとに音楽の女神かって感じで。


帰る暇なんてない。後三十分で課題の提出期限が来る事も忘れてた。だって普段友達や顔のいい奴等に囲まれて近づく事すら出来ない女の子と、二人っきりって事だ。

そうだ、告白しよう。

そう思った。


だって仕方ないだろ?

高校に入って直ぐ、消しゴムを拾って貰った時から好きだったんだ。どうぞってはにかみながら手を差し出した、あの笑顔が忘れられない。

高一の終業日、伝えておけば良かったって何度も後悔したんだ。

告白するならなんて言おうかって、今でも考えてるんだ。

男だろ、俺。



ドアの向こうの俺に気付いたのか、笹木さんが手を止める。一歩だけ教室に入って、真っ直ぐに背を伸ばした。

急にごめん、と呟く。

でも。



「ずっと前から好きでした。付き合って下さい」



ありきたりで陳腐だけど、それで良い。てかこれ以上は恥ずかしすぎて無理だ。

よし言った。言ってやったぞ。

ばくばくいう心臓を感じながら、返事を待つ。


少し驚いた顔を見せた笹木さんは、ゆっくりと口を開いた。


「御免なさい、肉がある人はちょっと無理です」と。



絶望した。

断られただけではなく、彼女がそんな事を言うとは。

いや勝手にイメージ抱いてたのはこっちだけど、それでもあんまりだ。

崩れ落ちそうな膝を抑えようとしていると、更に声が聞こえる。



「本当にごめんね。皮膚にも筋肉にも血管にも内臓にも興味が持てないから、生きてる人とはお付き合いしたくないんだ」



硬直した。

「何に興味あるの?」と聞いた声は震えていた。




「骨!」と答えられた。


消しゴムを拾ってくれたあの時より、ずっと良い笑顔だった。









「いや普通にずっと前から好きだったって言うか……ええと大分前血が苦手だったのね?あのびゅーびゅー吹き出しそうな所が。それで内臓とかも苦手になっちゃって。焼き鳥でもハツとかホルモンは苦手なんだ、内臓食べてる!って意識で。そしたら筋肉も生々しく感じちゃって、いや牛肉とかを食べるのは好きなんだけど。そしたら残ったのは骨と皮膚だけでしょ?皮膚好き!って言うのはどうかと思ったから骨好き!にしようかと。

そしたらどんどん好きになっちゃって。あの絶妙な形とか、全身を支えるのに最適な機構とか、健気な硬さとか、カルシウムとコラーゲンの組み合わせは萌えだよね。友達がサッカー部エースかけるテニス部部長もえーって言っててよく分からなかったんだけど、骨の栄養素に当てはめて考えると凄く良く分かったの!

そしたら今までこっそり好きだった人を見てもあんまりときめかなくなっちゃって、その人は筋肉多い人だったんだけど、その人よりガリガリで骨が分かりやすい人の方が良いなって思っちゃって。でもその人好き!って言うよりもその骨好き!って感じだったから告白するのはやめておいたんだ。あなたの骨が好きです、付き合って下さいって言うのも恥ずかしかったし。その時気付いたんだ、骨は恋愛対象なんだって」





改めて言うと恥ずかしいね、と笑う笹木さんは可愛い。そりゃそうだ。男子の三分の一から告白されたとか、街に出てスカウトされず帰ってきたことがないという荒唐無稽な噂も、誰もが納得してしまう女の子なのだ。


そんな美少女が告白されまくって、でも断っても一向に悪い噂が流れない理由がわかった。

まさかの骨フェチ。

しかも重度。


一年半に渡る恋心にヒビが出来る。

骨。ボーン。スケルトン。


「じゃあ好きな人は居ないの?」と聞いた。

怖いもの見たさのような気持ちで。膝どころか全身ガッタガタだ。


「え!えーと……ちょっと待って思った以上に恥ずかしいね、これ…うん、言うよ、言ってくれたもんね。生物の……と言うか生物準備室の」



生物。生物教師の柳川は、どじょう顔でガリガリの、木乃伊(ミイラ)の様なおっさん(57)だ。

しかもいつも生物準備室で生活している。

嘘だろ。美女と野獣なんてもんじゃない。美少女とどじょう顔木乃伊だ。

格差社会という表現すら生温い。





「ジョニー………かな。ああもう恥ずかしい///」



おい待て誰だジョニー。待ってジョニー、誰なのジョニー。

笹木さんは可愛いのだ。その笹木さんが好きな男だとするなら学校中の男に袋叩きにされても可笑しく無い。十数分前の俺でも闇討ちくらいはするだろう。

けれどジョニー。これはあれか。仇名か。

柳川の本名は序弐威だったか。

柳川序弐威。字面が酷い。


「ジョニーって誰?」と聞いた。声が掠れる。死さえ覚悟した。







「骨格標本だよ?生物準備室に置いてある」



人体模型の名前はエリザベスって言うらしいよ。と笹木さんは言う。俺は死んだ。











**







結局課題は出せなかった。

気がついたら定められし時を巡る針(時計の分針)が六の数字を超えていたからだ。提出期限を超えたら絶対に受け取らない教師なのも不幸だった。



夕焼けを背に、慣れた道を歩く。


…………同じクラスの水岡さんも、美人だよなあ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] とても読みやすいし、内容も面白かったです! 美少女の描写がすごく上手くて、ここまでの美少女がいたら学校生活も楽しいだろうな、と思いました。 オチは……確かにこれは、どれだけ好きでも、ど…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ