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絵美 遊園地

さぁ、遊びに行きましょう。

 田島ランドに着くと、辰野さんの友達が入場ゲートの近くに立っていた。


辰野さんがすぐに手をあげて、合図をする。


「オッス、今日はサンキュ。」

「なんのなんのフミくんの為ならたとえ火の中水の中。」


話し方が軽いというか、何だか面白そうな人だ。


「もういーから、紹介するよ。こちらが高木絵美さん。そしてこちらがお友達の河野綾香さん。」


どーも、と3人でお互いに頭を下げ合う。


「んで、こっちが大学の時にキャンプ同好会で一緒だった中川真一(なかがわしんいち)です。」

「こんちは。僕は家の後を継いで酒屋をやってます。お酒のご用命は中川酒店をどーぞよろしく。」


御用聞きのノリだ。肩の凝らない感じの人でよかった。

こちらも職業を言って自己紹介をする。


「うわっ、二人とも先生? 怒られないように大人しくついて行かなきゃ。」


私達が保育園と中学校の先生と聞いて中川さんは少しビクついていた。

綾香はそんな中川さんを見て、わざと教師の口調で高圧的に話しかける。


「今日は仕事じゃないんだから引率はしないわよ。エスコートはそちら、がんばってね。」



 入場料を払うところで、少しもめた。


辰野さんが全員分払うと言って聞かなかったのだ。


「じゃあ、入場料と三枚の乗り物券が付いてる基本パックのやつだけ辰野さんに払ってもらおう。飲み物代や付け足しの乗り物券は各自持ちでね。」


綾香が先生っぽく、さっさと決めて指示してくれる。


絵美は教師をしている綾香を見たことがなかったので、学生時代とは違う友達のそんな様子に、自分たちも大人になったんだなぁと変に感慨深かった。



中川さんが張り切って「まずは定番のジェットコースターからでしょう。」と言うので、皆で園内図を見ながらそっちに向かう。


「辰野さん、絵美ちゃんは方向音痴だからちゃんと見といてよ。地図持ってても一人にしたら必ず迷子になるから。」


綾香ったら何を暴露してくれてるんだか…。

まぁ確かに方向音痴だけど。

小さい頃から通っている道でもよく間違えるので皆によくあきれられる。


でも今ここで言わなくてもいいじゃない。

辰野さんもそこでしっかりと頷かない。



ジェットコースター乗り場にはさすがに順番待ちの列ができていた。

けれど待っている間に四人でいろいろ話せたのは良かった。


絵美は辰野さんが紹介の時に言ったキャンプ同好会のことが気になっていたので、そのことを二人に聞いてみた。


「お二人とも今でもキャンプはよくするんですか?」

「ええ、僕は先日の土曜日、ほら都合のつかない日があるって言ったでしょう。その日に父と奥河原にキャンプに行きました。真一とも季節ごとには行くよな。」


「ああ、俺らのキャンプはたき火をして旨いものを食って酒を飲むために行くようなもんだから、予定が合えばすぐ行くんですよ。今度一緒に行きましょうよ。アウトドアでしか食べられない美味しい料理をご馳走しますよ。」


「へぇ、それはいいわね。行こうよ絵美ちゃん。」

「あっ、綾香。ちょっと…。」


絵美が躊躇しているうちに、あれよあれよとキャンプに行く予定が決まってしまった。


どーしよう。

また会うことになっちゃった。



やっと順番が来てジェットコースターに乗ることになったが、綾香と中川さんがさっさと一緒に座ったので辰野さんの隣に座ることになってしまった。


緊張する。

いろんな意味で。


ジェットコースターは眩しい空に向けてぐんぐん高度を上げていく、レールを掴む機械の音が限界まで重たく響くようになったかと思うと、一気に真下に向かって落ちていく。


ひゃっとお尻が持ち上がるような浮遊感がした途端、ゴーという音と風が耳や頬をなぶる。


思わず「うわっ!」という声を上げてしまった。


うわー久しぶりに乗ったけどこんなにドキドキするものだったっけ。


何分間か顔の強張る瞬間を過ごした後、緩やかな走りになったと思った途端に元の乗り場に着いた。


終わってみればあっけないんだけど、でも緊張したー。

思わず深呼吸をする。



辰野さんに「大丈夫ですか?」と言われながら階段を下りてしばらく歩いていたら、大丈夫ではないのが辰野さんの方だとわかった。


無理してがんばって平気を装っていたのだろう顔が真っ青になっている。

見ただけで具合がよくないのがわかった。


とにかく影に入って少し寝転んだ方がいいだろうという綾香の指示で、涼しそうな木陰のある芝生に辰野さんを連れていく。


「飲み物を買ってくるからね。そこに寝てなさい。絵美ちゃん、ちゃんと寝転んでいるように見張っとくのよ。」


綾香はそう言って、荷物持ちに中川さんを従えて行ってしまった。



「あー、すみません。来たそうそうにこんなことになって迷惑かけて・・。」


辰野さんは気分が悪いのにそんなことを言う。


「何言ってんの。こういうのはお互い様でしょ。そんなことは気にしないで体の力を抜いて寝てなさい。治るものも治らないわよ。」


絵美もつい園児に言い聞かせる口調になってしまう。


「うー、昨日からはしゃいで緊張してたつけがこんなとこに出てくるとは。あー、情けねぇー。普段はこんなことないんですよ。乗り物に酔った事なんてないんだけどなぁー。」


「はいはい、わかったから。ぐちぐち言わないの。」


「絵美さん、保母さんみたいだ。」

「みたいじゃなくて、保母です。」


それよりさり気に名前で呼びましたね。

もう、油断ならないんだから。



綾香たちが飲み物を持って帰って来て、暫くみんなでお茶をしてくつろいでいたら、辰野さんの眩暈(めまい)も収まってきたようだった。


「ここからは別行動にしましょう。辰野さんは今日は三半規管を痛めるような乗り物に乗らないこと。絵美ちゃんは辰野さんの様子をよく見て、水分補給と休憩を忘れずに監督するのよ。じゃあ昼過ぎ、そうねぇ一時半ごろに中央休憩所で会いましょう。遅れる時はメールしてね。行こっ、中川君。私バイキングに乗りたいのー。」


綾香は言いたいことを一気に言うと、中川さんを連れて行ってしまった。


謀られた。



しかたがないので辰野さんと「これからどうします?」と園内図を見て相談する。


まずは、乗り物を避けて催事場が無難だろうか・・。

今日は生け花展をしているらしく、その側では手作り木工教室も行われていた。


私が生け花、辰野さんが木工に興味があったので、ちょうど良さそうだ。


まずは催事場の方へ先に行ってみることにした。



生け花展の方は私が今習っている流派とは違ったので、こんな風に生けるんだなと新鮮な気持ちで見て回った。


辰野さんがこれいいなと言った作品は、流木と苔を土台にして滝の水が流れるように花を配置したものだった。

大胆な構図で爽やか、いかにも辰野さんが好みそうなものだ。


まだ二回しか会っていないけれど、そんな気がした。

不思議なことだが、なんとなく辰野さんの人となりがこの短い何時間かの間に分かってきた気がする。



木工教室の方は、辰野さんの独壇場だった。

教えてくれてる先生より上手いのではないかと思う。


先生とも気が合って、二人で話しながら参考作品のミニチェアより凝った椅子を作っていた。

私も仕事柄、工作は得意な方だが、木を使っての木工はまた一味違うようだ。


固いものをはめ込むときなどは辰野さんに助けてもらいながら、何とか人形の椅子を作り上げた。


これは、休み明けに教室で使えそうだ。

いいお土産ができた。



その後、乗り物はゴーカートと観覧車に乗り、ゲームセンターやミニ水族館で午前中を過ごしてから、昼食を取りに中央休憩所にやって来た。


「まだ集合時間になっていないし、食べていればそのうち昼ご飯を食べにくるでしょう。」

「そうですね。」


綾香達はまだ来ていなかったが、二人ともお腹が空いていたので、先に食べることにした。



辰野さんが選んだのはビッグバーガー。

大きな塊にかぶりついている。


おおっ、若いねぇ。

またこういうのが似合うかも。


絵美は冷たいうどんにした。

炎天下の中を歩いていたので、喉越しのいいものが食べたかったのだ。



私達が食べ終わる頃に、やっと綾香達がやって来た。


「あーーっ、疲れたー。久しぶりにこんなに絶叫系を制覇したわ。」

「綾香さん、乗る乗る。こっちはついて行くのに必死でしたよ。」


どうも綾香が中川さんを振り回していたようだ。


「綾香も中川さんもお疲れ様。私達先に食事を済ませちゃったけど、ゆっくり食べてね。」


「あっ、僕飲み物を買ってきますよ。これは朝のお返しなので(おご)らせてください。真一はコーラだろ。絵美さんはアイスティーですよね。綾香さんは何にしますか?」

「あっ、私アイスコーヒーをお願い。」

「了解です。」


辰野さんはサッと席を立って売り場に歩いて行く。


「私がアイスティーだってなんでわかったんだろう。」

「そりゃあ絵美ちゃんを見てたらわかるよ。街コンの時もそればっかり飲んでたじゃない。」

「そっかぁ。」


よく見てる。

でも私は辰野さんが何を頼んでいたのか覚えてない。

あの時はどこで会った人だろうということばかり考えてたからなぁ。



帰りは中川さんの車で大賀駅まで送ってもらった。


辰野さんとも「じゃ、キャンプで。また、メールします。」と言いながらあっさりとここで別れる。


彼らはこの後も、二人でどこかに行くようだ。



絵美の方は綾香がちょっと話があるというので、駅の地下に降りて喫茶店に入ることになった。


「はい、情報料。ここは絵美ちゃんの奢りね。」


奢るのはいいけど、何の情報?



それから綾香が話したことを聞いて、絵美はあきれてしまった。


「綾香さん、あんたは結婚相談所のアルバイトですか?」とツッコミを入れたくなるような話だった。



辰野文也さん 23歳 


S県八日町出身 

両親健在 兄と妹が一人ずついる。 

実家のすぐ近くに祖父と祖母が住んでいる。


B自動車会社の上位下請け部品メーカーの製造部 精密機械製造課 勤務 部品設計を含めた研究職

安達国立大学 工学部 システム機械科 を優秀な成績で卒業


趣味は キャンプ・DIY・コンピュータ・模型ヘリを飛ばすこと

悪癖はたまに飲み過ぎること。これは、中川さんがお酒に強いので付き合わされるらしい。


現在 大賀駅から徒歩15分のボロアパートに居住 これは、大学時代から住んでいる所だそうだ。



そして、こんなことまで…。


高校の時からモテ始めて、女の子から告白されることが何度かあった。

しかし告白してきた子が全員知らない子だったため、その子たちとは付き合わなかった。


大学に入って同じ同好会の女性に告白されて交際を始めたが、その子が我儘な子だったらしく振り回されるのに辟易してすぐに別れた。

その子が別れた後すぐに同好会をやめたりして、なかなか気まずい状況だったらしい。


それ以来、「女は懲り懲りだ。」と言って何度女性からの告白を受けても断り続けていたそうだ。


「そんなフミくんが、初めて自分から好きになった人だから俺は全身全霊を上げて応援するよー。」

と言うのが中川氏の弁だそうだ。



よくここまで聞いてきたね。


一気に話し尽くして、ニコニコしてジュースを飲んでる綾香を見る絵美の気持ちは複雑だった


こんなに知ってしまうと、情が湧いてしまう。


辰野さんを今回会っただけで断るという選択肢は、なくなった感じがする。


絵美にしても辰野さんが気分が悪くなってからは、なんとなく肩ひじを張らずに自然な感じで話ができている。


今日一日中ずっと付き合っていて、他人に気遣いのできる気持ちのいい人だということもわかったし。


こうなったらどうなるのか、行けるところまでとことん付き合ってみようかなぁ。



絵美の腹が、決まった瞬間だった。

決めた。決めましたね絵美ちゃん。

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