絵美 まだまだ街コン
何かが起こりそう。
三番目のグループの人たちが早めに席を立って行ったので、麻巳子や綾香と話す時間が取れた。
「さっきのグループはないね…。」
麻巳子がひそひそ声で話す。
「うん。なんの会話も弾まなかった。こっちがいくら話を振ってもあれじゃあね。気を使いすぎて疲れちゃったよ。」
綾香も麻巳子に同意する。
「それより絵美、大人しすぎるよ。もっと自分を出していかなきゃ覚えてもらえないよ。」
「まぁまぁ、麻巳子。絵美ちゃんにしてはがんばったじゃない。ほら、最初の弁護士のグループ。ちょっと年齢高めだったけど、絵美ちゃんに目を付けた人はなかなかよさそうだったよ。メール番も交換できてたし、…。」
「あれは絵美が頑張ってたというより、相手の押しが強すぎたのよ。絵美は、ああいう押せ押せタイプは苦手だからね。たぶん連絡とらないよ。…でしょーう。」
鋭い、麻巳子。
「…うん。ああいう人は…ちょっとダメかな。それに好意というか、興味というかそういうものも感じられなかった。でも、麻巳子は二番目のグループの代表の人と盛り上がってたじゃない。次、会うの?」
「うん。今までで一番フィーリングが合った。連絡来たら会ってみるかも。もし会うことになったら、綾香か絵美が一緒に付き合ってね。最初から二人だけは、ちょっときついから。」
「「うん、わかった。」」
そうか、麻巳子いいな。
私のほうは期待外れというか、…もっとピンとくる人がいるかと思ってたんだけど…。
麻巳子が気に入った人も、私は軽くて頼りなさそうに感じた。
麻巳子はその人に、私には見えなかった何かを見たのだろう。
人の好みって、ホントに好き好きなんだなぁ。
カランというベルの音がして、また、10人ぐらいの人が喫茶店に入って来る。
次のターンが始まるようだ。
絵美たちの前に座った3人は、なんとも若い人たちだった。
ジーパンにチェックのシャツ。
髪も、なんとか櫛を入れましたよと言う感じの飾らない人たちだ。
おしゃれ着を着て来た絵美たちとは全く異質な雰囲気を感じる。
まさか綾香の言っていた大学生じゃないでしょうね。
これまでと同じように、一人一人が自己紹介を始める。
その時、なんだか見覚えのあるような人が一人いた。
一番遠い席に座っているので、あまりじろじろ見るわけにもいかないが、絵美は気になって頭の中で人物リストを探ってみた。
園の子供たちの関係者かしら?
それとも、友達の弟?
こんなとこで友人の親戚関係の人には、出会いたくないものだ。
仕事関係も絵美の場合気まずい。
先生のネタは、PTAのお母さま方のネットワークに乗ってすぐに広まってしまうのだ。
ヤバいなぁ。
どうか、知り合いではありませんように。
男の人たちは意外にも代表者の人が28歳で、他の二人がその人の後輩で、25歳と23歳の社会人だった。
…みんな童顔。
いや、23の人は大学卒業したばかりなんだから年相応か。
でも全員、29歳の絵美たちより年下だ。
お互いに初見で対象外だと思ったのか、六人とも肩の力を抜いて、ざっくばらんにいろいろと話ができて楽しかった。
絵美が顔を知っていると思った23歳の人も、経歴を聞いてみると、何の接点もなかった。
その人は辰野文也さんといって、九州からこちらの大学に来て、そのままここで就職をしたそうだ。
でも、たまにその人もこっちを見ている気がして少し心配にはなったが、最後まで「知り合いですか?」と問われることもなかったし、連絡先も交換しなかった。
やれやれ、今日の街コンも残すとこ後ひと組。
少し緩んだ気を引き締めて、もうひと頑張りしますか。
絵美は気が付いていなかったが、窓の向こうでその辰野文也なる人物が、絵美の方を振り返って見ながら、何度も首をひねっていたのだった。
ほらほら絵美ちゃん、誰でしょうねぇ。