第一章7 《一緒にお風呂》
風呂に入る前に、俺はエリヴィラに先にそのボロイ布を脱いで、浴室の中で俺を待ってろと言ったが――
「никуда не хожу пожалуйста」
エリヴィラは俺の服を掴んで、引き止めた。
「ええと・・・エリヴィラ、俺はただその扉の側で待っているから」
「Нет!」
うお! いきなり大声で否定(?)された。
こまったな、さすが俺でも、子供の前で服を脱ぐのは・・・
「エリヴィラ、ひとつ質問だ。 君が俺を、ここで、この狭い空間で一緒に服を脱いで、そして一緒に浴室に入りたいの?」
やっぱまずいだろ? 俺じゃない、エリヴィラにとって。
「Да да」
今度は「ンダンダ」で返事をした。 どうやら本気だ、ああ~ 子供を相手するのはこんなに疲れるの? 世の中の親は大変だなー。
「分かった・・・」
俺はもう諦めた、この子のわがままを聞こう。
「Спасибо, папа!」
お礼はいいから・・・
「じゃ俺は後ろを向いているから、お前も早くのボロイ布を脱げ」
「Хорошо」
そして俺たちは背中と背中を向いている間、服を脱ぐの、始めた。 しかし俺はまたひとつ大事なことを思い出した、とても重要な事。
ちょっと待って、俺今、エリヴィラを「お前」って言ったよな? ああ~ つい気を緩んで、いつもの口調で喋った。 これはまずいよね? 早くエリヴィラに謝った方がいいよね?
そして服を脱いで、タオルを腰に巻いた後、顔を振り返る瞬間。 俺はひとつ気づいたことがあった。
そうだ! なんでこんなときにこれを忘れたんだ?! もしなんにも聞かず、振り返れば、もしかしたらエリヴィラのは、は、裸を目撃かもしれないぞ?! これはアニメやマンガじゃないから!
もしこれはアニメなら、主人公はうっかりヒロインの裸を見た(本当に“うっかり”なのか?)後、いきなり飛ばされるパタンだ。 でも俺は冷静だ、ここは振り返る前に、ちゃんとエリヴィラに聞こう。
「エリヴィラ、そこにあったタオルが体を巻いたのか?」
「Да」
よし! 「ンダ」で返事した。 これは「はい」という意味ですね!
「じゃ、俺は振り返るぞー?」
そして振り返った瞬間、俺の口の中にあった数千、いや、数万の言葉が一瞬で消え去った。 真っ白な肌と白いタオルが一体化したようだ、淡いピンク色の髪の毛と白い肌はまるで雪とサクラだ。
このふたつはけして同時に見えないから美しいが・・・今は雪とサクラを同時に見たような錯覚が一瞬、いや、何秒が俺はただエリヴィラを見蕩れたんだ。 そして――
「В чем дело?」
急にエリヴィラは俺に声を掛けて、強制的に俺を現実に引き戻った。
「うん、ああ~ 大丈夫大丈夫。 ただエリヴィラの綺麗な肌に見蕩れただけだ・・・」
って!!! 俺はなんで正直言ったの?! バカなのか? 俺。 それともアホ? いや、どっちでもない。
「!!!! Спасибо...папа...」
あれ? 白い目で俺を見ていると思ったら、顔が赤くなっていた、もしかして・・・熱でもあるの? もしあるなら大変だ、少しだけ測ってみよ。
「エリヴィラ、少しだけの間動くなよ? 今、熱があるかどうか、測ってみる」
「Хорошо...」
そして俺は手をエリヴィラのおでこを触った。 異常なし、熱はない。 でもエリヴィラの顔は更に赤くなっていた。
「エリヴィラ、苦しいところある? こう、頭がクラクラするとか?」
「Нет」
頭を振った。 どうやらないみてえだ、エリヴィラはそういうのならば、大丈夫でしょ。 じゃーさっそく風呂に入って、すっきりしよ!
「エリヴィラ、先に入って」
「Да」
エリヴィラはまるで遊園地を見たように、凄い勢いで入った。 カワイイやつ。
「おい! 走るとまたケガするぞ?」
「Хорошо~」
分かっているのか? こいつ。 まあ、まだ子供だし、いっかー。
そして俺は入った後、まずエリヴィラの髪を洗うのが先だ。 長い髪だから、洗うのがちょっと時間かかるかも。
「エリヴィラ! こっちに座って、髪を洗ってやるから」
「Да~」
エリヴィラはニヤニヤと笑ってながら、俺の前に座った。 ちゃんと俺の話を聞いてくれて助かったー。
そして座った後、俺はまず彼女の髪を水で洗った。 そしてシャンプーを――
――いや待て、もう少しだけ水で髪の毛を洗うか、まだ泥がいるかもしれない。 女の子の髪は大事って、むかし零香から聞いたような気がする・・・
「キシュッ!」
突然、零香が読書をしているとき、くしゃみをした。
「この時期はまだ寒いなー」
エリヴィラの髪の毛、少しだけ洗っただけで、髪の感触はすっごくいごこち・・・柔らかくって、本当に綺麗だ。
「エリヴィラ、今からシャンプーを使うから、頭の部分を洗っている間、目を閉じてね」
「Хорошо」
そしてエリヴィラは強く目を閉じた。
そんなに強く閉じてもいいのに、でも、俺がガキの頃もよくあんな風にシャンプーを目に入れないとしたよな・・・懐かしい。
頭の部分の髪の毛もすっごく柔らかい。 ここはあんま強く力みを入れないようにしよ、もしかすると、エリヴィラは痛いと叫ぶかもしれん・・・痛いと日本語で喋るより、ロシア語で言うかもしれない。
「痛くない? エリヴィラ」
「Нет」
少しだけ、頭を振った。 これは「いいえ」よね、よし! いい感じだ、この調子で髪の毛を洗うか!
そしてエリヴィラの髪を洗っている間、ひとつ奇妙なことに気づいた。 エリヴィラの髪は異常に長い、しかも頭の部分の髪の毛の色は淡いピンク色、でもだんだん色は変わっていく。
淡いピンクから、少しずつもっと・・・濃い色になっていく。 この色の名前は・・・確か、赤紫色? それともフクシャ? 意味は同じだ。 そんなことより、これはまた妙なことだ。 淡いピンク色の髪の毛は既に奇妙なものだ、おまけに髪の最後の部分はフクシア色?
――これは生まれ付きの髪色? 不思議だ・・・まさかこんなことまで出現するなんて、思いもしなかった。 ちょっとかっこいいかも。
「髪、綺麗だな。 この淡いピンク色と髪の先にあるフクシャも、すっごく綺麗だ」
思わずココロの声を言ってしまった。 俺はいったいなにをやっているの?! 確かに綺麗し、不思議な色だし、ちょっと羨ましいだし・・・っと最後の言葉は無し無し。
「Спасибо, папа!」
予想外の、エリヴィラは満面笑顔で俺に礼を言った(だと思う)。 やれやれ、この子には単純過ぎるかも・・・でもカワイイ。
そして2分後、ようやくエリヴィラの髪を綺麗に洗った。 後は――
「体はちゃんと自分洗えるよね?」
これはさすがの俺でもやってはいけないことだ、いくら子供でも。
「Да」
よし! ンダで返事をした! これでひとまず安心だ。 次は俺が頭を洗う番だ。
こうしてエリヴィラは自分の体を洗っている間、俺も自分の髪の毛を洗う準備をしていた。
「папа......」
が、急にエリヴィラは俺を呼んだ(?)、だよね?
「どうしたの?」
「спина」
エリヴィラは俺に背中を向いた。 もしかして、俺をエリヴィラの背中を洗えってこと? それもそうだ、彼女は背中が届かないみたいだ。 しょうがね、ここは俺が洗ってやるよ。
「分かった、背中を洗ってやるよ。 いくよ?」
「Да」
そして彼女の肌を触った瞬間、一瞬だけ別のなにかの柔らかいとすべすべのモノを触ったみてえだ。 肌は白いと柔らかい、すべすべの皮膚だ・・・
これは水の効果じゃないよね? 錯覚じゃないよね? こんな柔らかくて、すべすべの肌は初めて触った。 ちょっとくせになるかもしれない・・・・・・
――っといかんいかん、洗うのだけに集中しろ、詩狼! 君は犯罪を犯す人間じゃない! 落ち付け・・・エリヴィラを妹として認識しろ、きっとこれで大丈夫だ。
「В чем дело?」
急にエリヴィラはこっちに見た。
ダメだ!!! こんなカワイイ妹がどこにいるの?! しかも外国人だし、どうすれば・・・そうだ! 自分の娘として認識すればいいんじゃねえの? 親子なら恥ずかしがることなんてないから!
「んん、なんでもない。 すぐに終わるから、少しだけ待っててね」
「Да~」
――3分後(長い!)――
「よし! 後は水で体を浴びるだけだ、こっちに向いて、エリヴィラ」
「Хорошо」
エリヴィラは一回の回転で、綺麗な背中からカワイイ顔で俺を見た。 そして俺は彼女の裸を見た、正直に言うと、ガキの裸は興味ないから。 俺は平気でエリヴィラの体を綺麗に洗った。
「これでよし! 先に風呂に入ってもいいぞ? 俺は後で入るから」
まあ、俺はまだ体を洗ってないから。
「Хорошо」
返事した後、彼女は先に風呂に入った。 そして――
「Хорошая удобная」
うん? 今エリヴィラはなんて言った? いままで聞いたことのない言葉だ(ロシア語だけは変わらないだけど)、でも・・・気持ちよさそうな顔をしているから、ここは「気持ち良い」という解釈で認識しよ。
「そんなにいいの? エリヴィラ」
「Да~」
溶けそうな顔で返事をした、なんて分かりやすいだろ。 俺も早く体を洗って、風呂に入ろう!
そして体と髪を洗って、水で浴びた後、俺は風呂に入る準備をした。
この浴槽は少し狭いね、よく見たら。 でもエリヴィラは小さいし、問題・・・ないよね?
「エリヴィラ、俺も入るから、少しだけ足を引っ込んでくれない?」
「Хорошо」
そしてエリヴィラは少しだけ、自分の足を引っ込んだ。 これでひとりが入っても問題のない隙間だ。 俺はエリヴィラの反対、つまり、彼女の対面に座った。 少し狭いね。
そして入った後、体の力を抜けた直後、全身にあった疲労が抜けていた。 一日の疲労はどんどん消えていくみてえだ、これでようやく一日が終わるって実感した。
「ああ~~ 極楽極楽」
ちょっと爺くせセリフかもしれないが、でも本当に気持ちが良い。 このまま寝込んでしまうかも・・・
「папа」
いきなりエリヴィラは話しを掛けてきた。
「ん? って顔が近い! 近い!」
エリヴィラは俺を話しを掛けたとき、顔は約10cmくらいの距離にいた。 もの凄く近い距離のフェイスアンドフェイス、もう少しで接吻するかもしれない・・・あっぶねー。
そして俺はエリヴィラを少し離れろっと言った後、なぜか彼女は悲しそうな顔がした。
「ご、ごめんエリヴィラ。 俺はただびっくりしただけ、エリヴィラを嫌っていないから、ね?」
「Вы уверены?」
んん・・・・・・マジスンマセン、意味が分かりません! が、この状況を見ると、普段なら子供が泣くそうな顔をしているとき、必死に慰めていたら、必ずこのセリフが言う。 それは、「本当に?」だ! これは極めて普通な質問だから、あんまてこずっていない。 したがって俺は、エリヴィラが言った言葉を「本当に?」という解釈で認識をした。
――やべぇ、もしかして俺・・・天才? んなわけねえか、まぐれだ、きっと。
「本当本当。 そんなことより、俺になんか用?」
言った後、俺は気づいた。
俺はアホなのか? エリヴィラはロシア語にしか喋らないじゃないか!?
でも事は予想外に上手く進んだ。 エリヴィラは俺がロシア語が理解できないから、行動で示した。 それは――
「お、おい・・・」
「Ehehe......」
最初に俺とエリヴィラは面対面で座ってた、でも今はふたりは一緒に同じ視線で壁を見ていた。 彼女は背中を俺の胸元で預けて、まるでソファーに座っているようだ。
「これでいいの? ただ俺をソファー扱いする?」
「Да」
カワイイ「ンダ」の返事だ、これじゃまるで本当の親子みてえだ。 日本人の父とロシア人の娘、ちょっと変わった組み合わせだな。 確かにここ数年、いや、昔からロシア人はよくこの日本に旅行に行っているみてえだ。なんか奇妙な気分だ、言葉が見つからないが・・・すっごくいごこち。
そして時が流れている間、俺は時々エリヴィラの頭を何回も撫でた、彼女も嬉しそうに楽しんでいた。 ふたりはバカみてえに、ただニヤニヤと笑って、少し話をして、そして――
「も、もうダメだ・・・・・・長時間で風呂に入ったから、あやうくのぼせたっと思った・・・」
「Я также......」
俺たちは時間の概念を忘れて、長風呂をした。
そしてこのありさまだ、俺とエリヴィラの顔は真っ赤だ、トマトみてえだ。
――頭がクラクラする・・・