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星の空へ

作者: 影楼
掲載日:2007/12/29

  「……うおっ…」

気が付くと広い空地に雄雅は寝そべっていた。

空地周辺に街灯はなく、ただ星が辺りを照らしだしている。

ふと、空地横の道路に人影が見えた。急いで立ち上がり、

  「誰かそこに居るのか?」

と言ってみる。よく目を凝らして見ると、髪の長い少女……とまでは断定できた。それ以外は宵闇に隠れ薄く輪郭が見えるだけである。

  「こんばんは」

弾むような声色で少女は雄雅に近づきながら答えた。

次第に色が判別出来る様な近さまで来ると、

  「お名前は?」

と質問してきた。

流麗な青い長髪、丁度雄雅の肩位までの身長、赤い長袖のブレザーにチェックのミニスカートといった格好だった。

  「俺の名前は茸河雄雅たけがわゆうが、君の名前は?」

簡潔に答え、自らも質問をする。辺りに人の気配は無く二人だけの様だ。

  「私は咎理帝とがりみかど、よろしくね」

偉くカッコいい名前だな、と雄雅は内心思った。

そして≪カッコいいかな≫と何処からともなく答えが返ってきた。目の前に立つ少女の声で。

  「…え」

違和感を感じ、その声が目の前に居る少女が口から放った言葉では無い、と言う事実を認識するのに数秒かかった。

テレパシー、そんな言葉が頭を過った。

  「もしかして、人の心が読める?」

頭で考えている事と違う事を雄雅は帝に訪ねた。

  「…ううん読めないよ?でもなんで聞こえるのかな」

神妙な顔で、それでいて可愛らしく、帝は首を振った。

もしかして俺だけ分かるのか?と思ってみる。

そしてまた≪私達だけ心が通じてるのかも≫と声無き声が返ってきた。

  「まあ、聞こえてるんだしな」

あえて追及はせず、話を切り替える。

  「所でこんな時間に何やっているんだ?」

  「うん、星が綺麗だったから」

雄雅は空を眺めてみた。月は見えず、辺り一面に星が散らばっている。

そう言えば俺もこの空を見に来てたんだっけ、等と思ってみる。

  「星は綺麗だよね」

今度の答えは声として返ってきた。

それを雄雅は空を眺めながら軽く頷いて返した。

ふと腕時計を覗く。時間は午後11時32分。

  「もうこんな時間か!!やっべ」

予定時間をかなり過ぎていた事に雄雅は慌てる。

  「あ、もう帰るの?」

  「ああ、君も早く帰った方が良いよ。夜道は危ないからね、そんじゃ」

全速力で家まで走る雄雅に≪明日もまた来てね≫と声無き声が聞こえた。

少しスピードを緩め、また来るよ、そう呟きまた全速力で家に帰った。


  「ただいまー」

  「お帰り、今日は遅かったわね」

帰り着くやいなや、母が台所から出てきた。

ガチャ、っと玄関の鍵を閉め、

  「ま、ちょっとね」

簡潔に答え階段を駆け上がる。

自分の部屋に入り、机に向い勉強。これが、いつもの習慣だった。ただ、今日だけは勉強に集中出来ず数分で止め、すぐさま布団に潜り込んだ。

無論原因はあの少女、帝である。例えどんなに考えようとも結論付ける事は出来ない現象を、雄雅は何を思ったのか考えていた。

だが、やはり結論は出る訳もなく雄雅は自然と眠っていった。




早朝7時24分、時計は鳴っていない。

  「ふあぁぁ……って遅刻だああああ!!」

慌てて布団から跳ね起きる。いつもならこの時間帯はとうに家を出ている時間帯だった。

急ぎ制服に着替え、階段を駆け降りる。

  「母さん!!飯は!!」

台所に母は居ない、常ならば朝ご飯が出来上がっている時間の筈だった。

ジャーとトイレの流水音が聞こえる。

  「母さん!!飯!!」

トイレから出てきた母に叫ぶ。

  「うるさいわねぇ、今日は土曜日よ?休みじゃ無いの?」

ハッと今更ながら気づく、それに加え今日から冬休みの筈だった。

  「…ミスった…」

雄雅は小さくぼやいた。

  「全く、何慌ててるんだか」

母の笑い声が階段を登る雄雅の背中に聞こえた。

ハハ…と苦笑いを浮かべ自分の部屋へと戻った。

制服を着たまま布団の上に寝転がる。今日から暇になるな〜、等と思いながら雄雅は二度寝した。



気付けば昼の11時、良く寝たな、と自分を称揚する。

  「何もやる事無いしなぁ」

母が聞けば「勉強しなさい」と言うのはすぐ想像が着いた。

雄雅は友達の家で勉強すると母に言い家から飛び出していった。無論勉強はする筈はない。



午後8時2分、母が夕食を食べ終え台所へと向かう。

  「ごちそう様」

一歩遅れ雄雅も夕食を食べ終え、雄雅は玄関に向かった。

「早く帰って来なさいよー」と食器を洗う母の声が聞こえる。

  「おーっす」

雄雅は気前良く返事をし、家を後にした。



居るのか?と雄雅は昨日逢った少女へと心の内で語りかける。

≪居るよ、今日は早かったね≫と予想通り返ってきた。

雄雅は空き地を見渡す。空地の真中に置かれている古い土管の上に、昨日と同じ格好の少女が座っていた。やはり星を眺めている。

無言で雄雅も隣に座る。

≪えと…雄雅って呼んで良い?≫今度は帝からの問い掛けだった。

良いよ、俺も帝って呼んで良いかな?空を見上げたまま雄雅も心で話す。

≪うん!≫威勢の良い声で答えた。

二人はまた空を見上げ星を眺める。

  「俺の話でも聞くかい?」

  「うん、聞かせて」

二人は楽しそうに笑い合う。その笑い合う姿は傍から見れば、恋人同士にも見える程だ。



  「あはは、雄雅って面白いんだね」

  「そりゃ面白くなくちゃね」

腕時計を見ると午後10時11分、まだ時間はあった様だ。

ふと、帝が口を開く。

  「私の話も聞いてくれる?」

  「ああ、聞かせてくれ」

雄雅は帝の声に耳を傾ける。帝の目の色が不意に変わったのに気づきながらも。

  「私…両親が居ないの」

心の声は聞こえない。

  「お父さんは私の生まれてすぐ死んだらしくて、お母さんは去年…」

  「今一人暮らしなのか?」

帝は首を横には振らず、頷いた。

  「そうだったのか……それなら俺の家に来ないか?」

何の思いもなくただ尋ねていた。

そして一瞬の間を置き、

  「えっ…」

と帝が小さな声で驚く。

雄雅も今になって自分の言った言葉の意味を理解したが、今更自分の言った事など取り消せる訳もない。

  「部屋一つ空いてるからさ、それ使ったらどうかなと思ってさ」

咄嗟に空き部屋がある事を思い出し、言ってみた。

  「良いの?」

予想に反する、肯定の返事だった。

  「俺は良いんだけど、母さんがOK出すかな…まあ、言ってみるよ」

どうせ良いと思うんだけど、内心思いながら。

≪今から雄雅の家に行っても良いかな?≫予想外の言葉が聞こえてきた。

ああ、別に良いよ、雄雅は特段気にかけるまでもなく返した。

  「じゃあ、そろそろ行こうか」

時間は午後10時48分、早い帰宅になりそうだ。


  「ただいまー」

  「お邪魔します」

いつもの声に少女の少し高い声が加わる。

  「お帰り。あらあら、お客さんかしら」

母がリビングから扉を開け出てきた。開いた扉の奥から、

  「おっ、雄雅お帰り」

父の低い声が全く何の前触れもなく聞こえてきて、雄雅は一瞬驚いた。

  「何だ、父さんか」

今日は父が週に一度帰って来る日だった事を雄雅は思い出した。不安は募る。

  「あのさ、この娘家に住まわせても良いかな?」

突然の、だがしっかりとした雄雅の言葉に母は一瞬驚く。

  「ええ、私は別に良いけど…とにかく、玄関で話すのもなんだから中で話しましょ」

雄雅と帝は未だに靴を履いた状態だった。母に促され雄雅と帝はリビングに入った。

父さんは別に良いって言いそうだな、長年の経験か、単なる想像か。前者に限りなく近い事は確かだった。

二人が炬燵に座るや否や、父は何の躊躇いもなく、

  「俺は別に構わん」

と、一言で承諾しこの場は収まった。



  「じゃ、おやすみ」

  「おやすみなさい」

  「Goodnight」

父のお気楽な声が返事として返ってくる。どうやら酒で酔っているみたいだった。

二人は階段を上り雄雅は部屋の扉を開ける。ふと気付き、向いの部屋の扉を開けた帝に、

  「そう言えば、着替えは持って来なくて良いのか?」

今更の事に気づく。

  「あっ、忘れてた」

帝も今更気づく。

  「今から取ってくるね!」

  「あ、っと俺も行くよ。夜道は危険だから」

良心からか、期待からか、雄雅は言う。

  「それと荷物は二人で分担した方が良いからね」

≪ありがとう≫返事は心の中で。


  「母さん、ちょっと出かけて来るね。すぐ戻るよ」

  「はーい、すぐ戻って来なさいよー」

すぐは無理だな、自分から言い出した事にケチをつける雄雅であった。

時刻は午前0時21分、今日も月は見えず、星が辺りを照らしだしている。

ガチャ、扉を開ける。二人は空を少し眺め、よし行こうか、と雄雅が促す。

二人は小走りで夜の闇へと消えていった。


  「ここだよ」

走って2〜3分だったろうか、二人は咎理家に着いた。

実に普通の一戸建てである。

帝がカギを開け中に入る、次いで雄雅も中へと入る。

  「お邪魔しまーす」

家の中は到底人が住んでいるようには見えない雰囲気だった。かと言って蜘蛛の巣が張ってある訳でもない。

  「ここで待ってて」

そう雄雅に言って帝は奥の部屋へ行った。

躊躇い無く雄雅は部屋中を見回す。

  「凄い片付いてる…俺の部屋とは大違いだな」

小さくぼやく。雄雅の部屋は片付いていない訳でも無いが。

そうこうしている内に帝が奥から出てきた。

  「おっす、じゃ行こ」

帝の可愛らしい声が背中の方から聞こえて、

  「じゃあそれ持つよ」

振り返って荷物を持つ。それほど重くも無かった。


午前1時13分、雄雅と帝は茸河家へと帰って来ていた。

当然この時間帯に母が出迎えする筈もない。

二人は小声で、

  「ただいま」

  「お邪魔します」

と言うと、足音無く階段を昇って行った。

  「また明日」

  「うん、また明日」

雄雅は部屋の扉を閉め、タンスの中にある布団を引っ張りだす。

そして、布団に潜り込む。

いつもなら2〜3分で寝れる筈が、今日は10分経っても寝れずにいた。

仕方なく、雄雅は部屋の窓を開ける。冷たい夜風が部屋に入ってくる。

≪ねぇ、聞こえる?≫いきなり帝の声無き声が聞こえた。

どうかしたのかい?雄雅は驚きを抑え、少し間を置いて答えた。

≪眠れないの、そっちに行って良い?≫帝も少し間を置いて答える。

良いよ、俺も眠れないんだ、今度は即答で。

5秒ほどして帝が雄雅の部屋に入って来た。服は着替えてすらいなかった。

  「ちょっと星を見ようと思ってさ」

雄雅も服は着替えてはいない、自然な光景のように思えた。

雄雅は窓に手をかけ、屋根へと降り立つ。

  「さ、こっちへ」

雄雅に促され、帝も屋根へと降り立つ。

二人は座り星を眺める。

ふと帝が、

  「私の話の続き、聞いてくれる?」

  「うん、良いけど」

帝は構わず続ける。

  「私ね、前から雄雅の事が好きだったの」

  「えっ――――」

あまりの衝撃的な言葉に、雄雅は頭の中が真っ白になった。

変わらず帝は続ける。

  「だから昨日話しかけられたのは本当に嬉しかったの」

未だに動揺していて雄雅は言葉が出ない。

  「ごめんね、いきなりこんな事言って」

ようやく、言葉が漏れる。

  「いや、俺も嬉しいよ」

小さく、ぼやいた。

雄雅の言葉に帝はホッとした様子だった。

  「俺も帝が好きだ」

拍子抜けした帝の表情が一拍置いて赤くなる。

そして帝が一言、

  「雄雅って本当何考えてるのか分かんない」

そう言って笑った。

  「そうかな」

雄雅も笑い返す。


  「雄雅、今までありがと」

  「どうした?」

雄雅は一瞬躊躇った。

  「私ね、一年前に死んでるの」

意味が、分からない。

  「だから、一度でも良いから雄雅と話したいと思って来たんだ」

  「死んで…いたのか」

思考に言葉が追い付かない。

無言のまま、帝は立ち上がる。

数秒の時を経て、

  「ごめんね、嘘ついちゃって」

一言言って、雄雅の方を向く。

  「嘘付く気はなかったんだけどね…」

帝は苦笑を浮かべ、無限に広がる星空へと目線を向ける。

傍らにある雄雅は、

  「俺と、話したかったんだな」

ひとつ前の言葉に応え、立ち上がり、帝と同じように星空を見やる。

星空は明るく、満月の光にも負けず照り輝く星たち。

不意に、

  「――あ」

雄雅が帝を、優しく抱きしめた。

帝の温もりが、暖かさが、雄雅には寂しく思えた。

  「帝」

小さくポツリと色々な感情の混ざった言葉を漏らす。

  「ありがとう」

  「……うん」

帝もまた、雄雅の温もりを感じ、しかし寂しいとは思わない。

ポツリと帝の目から滴が落ちる。

そして一言、声なき声で帝が言葉を紡ぐ。


    ≪大好きだよ、雄雅≫



時刻は午前6時8分。

窓からの涼しい風に気づき、雄雅は目を覚ました。

  「まだ早いな」

そう言って窓を閉めようとして、

  「……これは」

窓際に小さな手紙とお守りが置いてある事に気づく。

お守りを手に取り数秒眺める。手作りであるように見えた。

そして手紙の内容をみた。

短く、簡潔に、

  [私のお守りだよ]

とあった。

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