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ハイヒール

「魔道師よ。」


「なんでしょうか、国王陛下」


「この魔方陣は、その、書物以外も召還できるのか?」


「この魔方陣については、いろいろとわかってきてはいるのですが、わからないことも多くあります。やってみなことには何ともいえませんが、出来るはずです。」


「この女性が履いている靴を召還してみたいのだが?」


国王が指さした先には、かなり高いハイヒールが写っていた。


「靴?ですか。それだったら靴職人に作らせてみてはいかがでしょうか?」


「しかし、職人をこの部屋に入れるのは避けたいし、書物を切り抜くのもちょっとな。」


「そうですね。作るにしてもサイズとかありますから、元になるものがあったほうが良いでしょう。一度、召還に挑戦してみましょう。」


「うむ。頼む。」



召還魔法というのは、通常の場合、召還する対象を明確に指定することは難しい。たとえば、勇者を召還するといっても、相手も人間である以上、こちらの言うことに対して反抗することも考えられる。こちらの言うことを聞いてくれて、かつ、性格もよくて、見た目よくて、、、などと細かく指定することは困難なのである。勇者が持つと言われる「能力」についても、召還する際に付与される加護の一種と考えられているが、具体的な能力を指定できるという話は存在しない。


そもそも、こちらの世界に存在しないものを召還する以上、具体的に何を召還するかイメージ出来ないのである。ところが、儀式の間で行っている召還魔法の場合、(非常に残念なことに)エロ本に限られているが、人種(髪の毛の色)、年齢、体型、etcと、かなりの精度で召還するものを指定できるようになっていた。そして、指定する方法については、魔方陣の記述内容を変えるよりも、魔法を実行する魔法使いたちのイメージによる影響が大きそうだという結論に至りつつあった。魔方陣を書き換えずに、召還したい人種や体型、年齢について魔法使いたちがイメージする内容を変えるという実験をしたところ、ほぼイメージに近いエロ本を召還できたのだ。そして、魔方陣を書き換えることで、よりイメージに近いものが召還できるようになった。複数いる魔法使いたちのイメージが同一に近ければ近いほど、そのイメージに近いものが召還されるようで、魔方陣は魔法使いたちの「思い」を具現化するサポート役のようなものらしい。


ということで、エロ本以外のものも召還できそうだし、異世界のものといってもエロ本のおかげで対象を明確にイメージすることが出来るので、ハイヒールも召還できるのではないかという結論に至った。


なお、最初に召還したものが「偶然にも」エロ本だったから良かったものの、もしも最初に「軍事雑誌」などを召還していた場合、こちらの世界の歴史が戦争の歴史に変わっていたかもしれない。



召還したい「もの」のイメージをより強固にするために、魔法使いたちが集まりハイヒールのイメージを固めることになった。といっても、エロ本を開いてその中のハイヒールを見つめているだけなので、はた目には変態の集会でしかない。そして、細部の打ち合わせ。


「色は何色にする?」

「やっぱり『黒』じゃないか?」

「「「「黒だな」」」」


「形はまずはこのままで良いか。では、このような形の黒い靴を強くイメージするように。」

「「「「ハイ」」」」


薄暗い部屋に集まったおっさん(魔法使い)達が膝をつき合わせながらエロ本を凝視し、ハイヒールの色を考えている姿は端から見たら間違いなく変態の集まりだった。



「しょーーーかーーーん」



かくして、黒いハイヒールが無事に召還された。



「ところで、魔法使い達よ。ここで重大な問題があるのじゃ。」

「なんでしょうか?」


「召還したのはいいが、これを誰にに何と言って履いてもらおうか?」

「・・・・・・」


女王とその護衛の女騎士達に頼んだら、召還したものではないかと怪しまれてしまう。ましてや、エロ本に載っていたものだとばれたら何と言われるか。


「そもそも、国王陛下はこの靴を誰に贈ろうと思っていたのですか?」


「いや、誰に贈るというか、この靴で一度踏まれてみたいと思っていたのじゃが、女王に踏まれるのもちょっとな。かといって、女騎士達も踏んではくれないだろうし、踏んでくれるとしてもあいつら騎士だから力加減とかしなさそうだから、最初から全力というのはちょっと自信がなくてな。」


(なんの自信ですか・・・)残念がる魔法使い達。


ちなみに、魔法使いの一人がぼそっと(俺も踏んで欲しいな)と言っていたが、幸か不幸か誰にも聞かれることはなかった。


「それでしたら、どこか他国に持ち込んで、国王陛下のことを知らない者に踏んでもらうというのはいかがでしょうか?念のためマスクでもして顔を隠しておけば問題になることもないでしょう。おぉ、そうです、ついでに他国で流行っている最先端の靴という触れ込みで、どこかの国王陛下から贈答品として贈ってもらってはいかがでしょうか?そうすれば、怪しまれずに国内に広めることも出来るでしょう。」


「それは良いアイデアだな。では、どの国の国王に頼むとしようか・・・」




そして後日、国王陛下は隣国の国王陛下に会うべく、その国の城へと向かっていた。転移魔法を使えばあっという間なのだが、いきなり現れると混乱させるので、定例的に訪れる日が決められていた。緊急時であれば使っても良いのだが、さすがにハイヒールのためだけに転移魔法を使うのをためらうくらいの常識は国王に残されていたようだ。それに、いきなりエロ本とハイヒールが大量に現れるというのもまずいと思った国王は、馬車で赴くことにした。馬車には、贈答されるエロ本と、召還されたハイヒールを元にして作られた複数サイズのハイヒールがまれていた。


「ふんふ~ん。」


国王は上機嫌だった。


「盗賊だ-!!!」


「何っ!」


20頭ほどの馬にのった盗賊達に囲まれて馬車が止められる。


「命が欲しかったら金目の物を置いていきな!」


女盗賊だった。


金目のものくらいくれてやっても構わないが、あの靴だけは譲れない!ふざけるな!ワシの楽しみを奪わせてなどやるものか!国王は憤慨していた。憤慨したあまり、思わず馬車の外に出て怒鳴りつけてしまった。


「ふざけるな盗賊どもが!お前たちにくれてやるものなど何もないわ!!」



そこには、待ちきれずにマスクをつけ、なおも待ちきれずに自らハイヒールを履き、さらに待ちきれずに下着姿になっていた国王が仁王立ちしていた。この時代の価値観を元にしても、十分すぎるほど立派な「変態」だ。


「ザ・変態」 ここに降臨。



「いやぁぁぁぁーーーー!」

「変態ーーーーー!」

「○されるーーーーーー!」

「おかしらーーーっ! 待ってくださーい!!」


どうやら女盗賊の頭目は変態に免疫がなかったようだ。女盗賊達が一目散に逃げていった。


馬車の御者、その他使いの者たちが大勢いたのだが、見なかったことにした。我々が仕える国王は、大陸の四大国家間で平和同盟を結んだ立派な国王陛下。こんな変態のはずがない、そうだ、きっと忍ばせていた護衛の者に違いない!そういうことにした。


「ふん、腰抜け共が!」


颯爽と馬車に戻る国王。


「国王陛下。危ないことはおやめください。今は幸運にも女盗賊達が逃げたから良かったものの、返り討ちにあっていた可能性も高いですぞ。まぁ、われわれが護衛についている以上、国王陛下にはかすり傷一つつけさせることはありませんが。」


魔道師から注意されてしまった。


「ワシの貴重な靴が盗られてしまうと思ったら我慢できななったのじゃ。心配をかせさせてしまったな。気をつける。」


(私は国王陛下の頭の中が心配ですよ・・・)


眉間に出来たしわをつまみながら、ため息をつく魔道師であった。


ちなみに、武力に頼ることなく盗賊を一喝して退散させたとして、国王の評価が高まったという。もちろん、変態の存在はなかったことにされていた。


また、退散した女盗賊達は、あんな変態に捕まったら何をされるかわからない、やっぱり気質が良いな、と真面目に働くことにしたという。


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