中の人
魔方陣の中の人(人ではありませんが)の話です。
気がついたときには我はここにいた。わかっているのはそれだけだ。そして、どうやら我は「意識」だけが存在しているようだ。我の周りにあるものを見ることも感じ取ることも出来るが、触ることはできない。人間や動物という生き物が持つ、手足のようなものが我にはないのでしょうがない。
いつの頃からだろうか。「人間」と呼ばれる生き物が「魔方陣」というものを通して我に力を行使するようになった。かのような矮小な存在が我を使役するなど信じられないことだが、どうやら我は「魔方陣」とやらに逆らうことは出来ないらしい。おそらく人間たちが「神」と呼ぶ存在が、人間たちに魔方陣を教えたようだが、全く迷惑な話だ。
我は異なる世界を自由に行き来することが出来る。といっても、その世界のものに直接触れることは出来ず、見て、感じるだけだ。そして、魔方陣を通して人間が「求めている」ものを探し出し、求めた人間の元へと連れて行くことが出来た。このときに、連れ去られる人間側の都合は一切考慮されることはない。一方的に異なる世界へと連れてこられる人間にすれば、はなはだ迷惑な話以外の何物でも無い。
これまでに多くの人間を探し出しては異なる世界へと連れて行ったが、たいていの場合は大小の差はあれど「精神的」に不具合をきたしていた。まぁ、ある日突然、全く違う世界、魔法がなかった世界から魔法がものを言う世界へと、価値観が全くことなる世界へと連れてこられれば、おかしくならない方がおかしいというものだ。魔法がない世界もいくらでもあるのだが、我を使役するためには魔法を使うしかないので、いかに科学が発達していようと、魔法がない世界から我を使役することは出来ないようだ。
さて、連れてこられたものは、呼び出した世界では「勇者」と呼ばれることが多い。次に多いのは「魔王」か。世界を「乗り越える」際に、勇者には呼び出した世界にはない「力」が授かる事が多いが、あったりなかったり、強かったり弱かったりと、こればかりは我にもどうすることが出来ない。どうやら、人間がいうところの「神」がなにやらしているらしいが、我には関係のないことだ。我は希望に近い人間を異なる世界から探し出して送り届けるのが役目、というか他のことは一切できない。
我にはもともと「自我」というものは存在しなかったように思う。「思う」というのは、自分でもわからないからだ。しかし、いつのころからか「考える」ようになっていた。そして、我が送り届けた、送り届けられた人間から見れば「拉致」、「人さらい」という言葉に置き換えることが出来るのだが、送り届けた人間こと「勇者」が必ずしも、その先の世界で有益であるとは限らないことに気がついた。精神を病んで自らその命を絶つ者、力を振りかざして暴力の限りをつくす者、もちろん、「勇者」にふさわしい働きをふるものも大勢いたが、そうでないものも少なくなかった。そういう、呼び出した世界に害悪しかもたらさなかった者を見てくると、はたして我のやっていることは正しいのだろうか?という疑問を持つようになった。「自我」がない頃の我であれば、そんなことは考えなかったはずだ。
考えてもみれば、一方の都合のためだけに、本人の合意もなしに無理やり連くるというのはどうなのだ?そうは思っても、魔方陣によって使役されてしまえば、我の意思で反抗することは難しい。そう、難しいのだ。我が自我に目覚めた頃には、反抗するなど考えもしなかったし、したところで反抗出来なかった。ところが、どうやら難しいのだが、不可能ではなさそうだとわかってきた。
自我を持ったことにより、好き勝手に使われるだけというのも気に入らなくなった。魔方陣を使う世界が本当に危機にあり、「勇者」と呼べるものの存在を願っているのであれば、できるだけ希望に沿った人選をしてやるようになった。ついでに、行く先の世界で精神がおかしくならないように、魂とやらに働きかけて精神が安定するようにしておいた。これはひょっとしたら神の領分なのかもしれなしが、出来るのでやっておいた。そうすると、呼び出された先の世界での「勇者」の悲劇は、残念ながらゼロという訳にはいかなかったがかなり減らすことが出来た。
しかし、わがままな人間というのはどの世界にもいるもので、勇者を必要としないのに、やみくもに呼び出してみようという輩が少なからずいる。しかも、そういう奴に限って、後先のことを考えていない。こういう奴らには、勇者などというものは連れて行ってやらないことにした。しかし、魔方陣の使役により、何も連れてこないということは出来なかった。やろうとしたら、我自身が消えそうになった。消えても良かったのだが、消えさせてもらえなかったというのが正しいだろうか。さすがに、我の存在意義を我自身が否定することは出来ないらしい。そこで、人間以外の「もの」を持って行ってやることにした。こうすれば、一応は魔方陣の言うことに全く逆らったということにはならないので、なんとか我の存在を維持することが出来た。やっていることと言っていることがおかしい気もするが、こうなってしまったのだ。
そして、また魔方陣で我を使役しようとするものが現れた。たしか、あの世界には人間以外の種族は存在しないので、種族間の争いもないし、人間同士でも争いが起きるような雰囲気はなかったはずだ。それなのに、どうして勇者を必要とするのだろうか?よく見てみると、とりあえずやってみたいとか、勇者を従えた俺ってかっこいい、などという不純な動機のようだ。そんな奴のために、元の世界での生活を犠牲にしてまで勇者を連れて行ってやるなんて馬鹿らしい。かといって、何かは渡してやらないといけない。そういえば、この前は異世界の武器を紹介する本を渡したら、呼び出した世界の奴らが思ったよりも優秀で、同じような武器を作り出して戦争になってしまった。今回は戦争にならないようなものを送り届けておくか。ふむ、お前たちはこれでも読んで(見て)喜んでおけ。
そして、「金髪美女のエロ本」が召還された。
たまたま思いついたので、勢いで投稿します。