生まれたままの姿
「ところで魔導師よ。先日、妻がこの儀式の間に侵入したであろう?あのときの女騎士の会話で気になっていた事があるのじゃが。」
「魔方陣が召喚する書物について、描かれている人物の年齢を指定できるのではないか?という話のことでございましょうか?」
「うむ。話が早くて助かる。やはり魔導師だけあって優秀だな。」
「ありがたきお言葉」
もちろん、魔導師以外の魔法使いたちもそこには気がついていた。
「そこで、年齢を指定する方法はわかったのか?」
「それっぽいところはわかっているのですが、細かいところがまだまだ解明できておりません。実際にやってみないとわからないことが多くあります。」
「そうか・・・失敗したときの(精神的な)リスクは大きいが、魔術の進歩のため、私はこの身を犠牲にすることはいとわんぞ。」
「国王陛下をそのような危険な目に遭わせるわけにはございません!」
「はぁ、お前たちは優秀だが少しばかり頭が固いようだな。」
「と、申しますと?」
「よいか?確かにお前たちは国王である私に使える身じゃ。しかし、この部屋(儀式の間)において、そのような序列は無意味。私たちは同士ではないのか?少なくともワシはそう思っている。」
「国王陛下・・・ ありがたきお言葉。では同士と呼ばせていただいても?」
「あぁ?勘違いするなよ。そこはきちんと国王って呼ばないとダメだろ。まったく、最近のやつらはすぐ調子に乗るから困ったもんだ。」
(ちっちゃいな・・・)あきれつつも平静を装おう魔法使いたち。
「ハハァッ!失礼しました。調子に乗りすぎました。国王陛下。」
「わかればよい。では、話を戻して、とりあえずいろいろとやってみるしかないんじゃないのか?」
「はい。では、それらしき文字を修正してみます。」
「出来ました。では、早速召還してみます。」
「うむ、頼んだぞ。」
「しょーーーかーーーん」
国王がぶるっと身震いした。既に条件反射になっていたが、歩き出して魔方陣の中央へとたどり着く。そして、召還されたものを持ち上げた瞬間、膝をついた。
「国王様!?いかがなされました?」
慌てる魔道師に向かって、国王が震えながら召還された書物を投げつけた。
「こんなもん、見たくないわ!」
そこにはセクシーポーズをとったおばあちゃんが描かれていた。
「え、そうですか?これはこれでなかなか・・・」
「お前、そんなのが趣味なのか!?」
「うーん、大好きというわけでもありませんが、嫌いでもないです。それがどうかしましたか?」
さも当然かのように答える魔道師に対して国王は一歩後ずさりしながら、
「ま、まぁ、個人の趣味だからの。他人がどうこういうこともあるまい。それはお主の好きにするが良い。」
「よろしいので?ありがとうございます。」
周りの魔法使いたちは(うわぁ、あんなのがいいんだ。ちょっとな・・・)と思いつつ引いていた。
「次じゃ、次!」
「ハハァッ!」
「しょーーーかーーーん」
次に出てきたのは、和風黒髪美人の人妻系エロ本。
「おぉぉ! これは! このちょっと疲れた感じがまたなんとも言えぬ。むふふ。」
「おそらく雰囲気から見るに、この女性たちは人妻ではないでしょうか?黒髪の人妻というのも、なんだか背徳感があってたまりませんな。」
「お前も言うようになったのぉ。」
「やはり黒は最高ですな。」
大好評だった。
調子にのって次々と召還する魔法使いたち。
「だいたい、わかってきました。これからは年齢も指定して召還できそうです。」
「よし、貴重な実験は成功だったな。」
「では、本日の召還として最後にもう一つ実験してよろしいでしょうか?」
「研究熱心だな。良いことだ。やってみるが良い。」
「ありがとうございます。」
ここで魔道師は一つのミスを犯してしまう。消さなくても良い記号を誤って消してしまったのだ。そうとは知らずに、、、
「しょーーーかーーーん」
光が収束して、召還された書物を取りに行く国王。しかし、書物を手に取った瞬間、国王の雰囲気が変わってしまった。何やら懐かしむような雰囲気で一筋の涙を流したようにも見えた。
「国王さま?」
「い、いや。何でもない。それよりも、魔道師よ。今回は失敗したようじゃ。」
「失敗?では、どのような書物が召還されたのでしょうか?」
走ってくる魔道師。国王より書物を渡された魔道師は、一瞬戸惑うような表情を見せつつ、すぐに何やか穏やかな表情になっていた。
「確かに、これは失敗ですな。」
「気にするでない。失敗かもしれぬが、これはこれで良いものではないか?」
「ハイ。なんと申しますか、心が落ち着きますな。」
魔法使いたちが魔方陣の中央に集まり、召還された書物をのぞき込むとそこには「健全な」赤ちゃん雑誌が開かれていた。どうやら、魔方陣の年齢設定をゼロ歳にしてしまったようだ。
「ワシの子供や孫もこんな時期があったのぉ。」
懐かしむように見つめる国王。
「私にも最近、孫が出来たのですが、ここに描かれている赤子よりも我が家の赤子の方がかわいいですな。」
「何を申すか!うちの王子のほうがかわいかったに決まっておろうが!」
すると、この中で一番若い魔法使いも口を出した。
「失礼ながら申し上げます。私の子供もものすごく可愛いです。」
「なぁにぃぃ!貴様、この国の王子である息子を愚弄する気か!」
「ひぇぇっ!失礼しました!そのようなつもりは全くもってございません。」
「落ち着いてください、国王陛下どの。親にとっては我が子、我が孫が世界で一番可愛いものではございませんか?」
「ふむ、それもそうだな。すまぬな、少々親ばかがすぎたようだ。確かにお主の子供も可愛いのであろうな。しかし、私の王子が小さかった頃や、孫たちだって同じくらいかわいかったぞ。こればかりは譲ることは出来ないな。(ニヤリ)」
「ははぁっ!ありがたきお言葉。」
なんともいえない和気あいあいとした雰囲気に包まれる儀式の間であった。
そこへ、
「入るぞ~」
女騎士たちが当たり前のように入ってきた。
「おい、いつものを頼む。」
まるで馴染みの喫茶店にでも来たかのような調子でホモ雑誌を注文(?)する女騎士。実験により召還され床に広がっている「様々な趣味」のエロ本を眺めて
「お前たち、多趣味だな・・・」
少々、いや、かなりあきれ顔でつぶやいたが、国王と魔法使いたちは無反応。代わりに、何やら楽しそうに書物を囲んで歓談していた。
「そんなに凄いものを召還してしまったのか。あまりひどいと没収しないとな。」
と思いつつ、魔法使いたちに近づく女騎士たち。そこで、魔法使いたちが広げている雑誌をのぞき込むと
「きゃぁぁ、可愛いぃ!(はぁと)」
黄色い歓声があがった。
「これ何?赤子の書物って、しかもすごく綺麗。か~わ~い~い~(うっとり)」
ちょっと「うざい」とおもった魔法使いたちと国王だった。
「お前たち、俺たちがいつも婦人の裸体を見て喜んでいるとでも思っていたのか?」
「違うの?」
何も違わないので、反論できなかった。しかも、実験結果が床にちらばっているので、余計に反論できなかった。
「まぁ、違わないけど・・・ でも、今日の書物は最高だろう?」
「えぇ、すごく可愛いわ!いつもこんなのを召還していればいいのにね。」
「お前たちも、人のこと言えないだろうが。」
ホモ雑誌を愛読している女騎士たちも人のことは言えなかった。
「ま、まぁね。(汗)」
などなと、お互いに憎まれ口をたたきながらも、無邪気に笑う赤ん坊たちの写真を前に、これまでにない朗らかな時が流れる儀式の間であった。
「え? いったいどうしたの? なんなのあの雰囲気は?」
また今日もエロ雑誌とホモ雑誌でも召還してるんだろうな、と思いながら儀式の間を除いていた女王陛下。いつものような邪気に満ちたいやらしい笑顔ではなく、朗らかな雰囲気につつまれた国王、魔法使いたち、女騎士たちを遠目に見ながら逆に気持ち悪くなって足早にこの場を去ったのであった。
今回は「ほのぼの回」(っていうのかな?)でした。いつも最初から「おち」は用意してなくて、とりあえず召喚するものを決めて、あとは書いているうちに自然と話の流れが出来るのですが、今回はこのようになってしまいました。