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黒、、、、、、、ではないかと

ある日、儀式の間では、何度目かの「召還の儀」が行われていた。


夜な夜な国王と魔法使いが「儀式の間」で何かをやっているという噂は城中に広がり、やや疲れたようにも、薄ら笑いを浮かべているようにも見える国王たちを心配する声も少なくなかった・・・




さすがに何度目かになると魔法使いたちも慣れてきており、今日も無事に「召還」に成功した。



ちなみに、これまで召還したものは、全て「金髪美女のエロ本」であった。



「しかし、この異世界の本はいつ見ても素晴らしい印刷技術じゃのう。まるで、生き写しではないか。」


「まさしく、その通りでございます。これほどの印刷技術は我々の世界にはございません。」


「ひょっとして、生きたままこの書物にとらわれているのでは!?」


「それはわからんが、良いものであることはわかるな(ニヤニヤ)。勇者を召還できないと聞かされたときはお前たち全員死刑にしようかと思ったが、これは勇者以上の価値があるのぉ。」


何気なく王様が言った一言で自分たちが危うく死刑になるところだったことを知り、冷や汗を流す魔法使いたち。


そして、(勇者よりこっちのほうがいいのか・・・)と残念なものを見るような目で国王を見つめていたが、国王は目の前のエロ本に夢中で全く気がついていない。



「それにしても、いつもいつも同じような女性の本ばかりが召還されるが、異世界には金髪の女性しかおらぬのか?」


王様が素朴な疑問を投げかける。


「うーん、どうでしょうか。ひょっとしたら魔方陣が金髪の女性を選んでいるのかもしれませぬ。」


「どういうことだ、魔道師よ。」


「今使っている魔方陣は、もともと倉庫の奥に隠されていた魔方陣を元に作られているのですが、どのような物を召還できるのは我々も未だ詳しくはわからないのですよ。」


「今日も含めて5回召還して5回とも同じような女性ばかりの書物を召還しておるということは、魔方陣に何かしらの条件が付与されいるとうことか?」


「ひょっとして、、、? いや、まさか・・・」


「何か心当たりがあるのか?」


「なんと、、、なくですが、、、魔方陣のこの辺りの文字を変えることで、髪の毛を色を変えることが出来るかもしれません。何故かはわからないのですが、そういう気がしてきました。」


「ふむ。おもしろそうだな。とりあえず試してみようじゃないか。では、その文字とやらを書き換えてから、もう一度召還するとしよう。」


「ハッ」



変更箇所はそれほど大きくなく複雑なものでもなかったので、書き終わるまでそれほど時間はかからなかった。


「出来ました。私のカンが正しければ、これで違う人種のものが召還できるかもしれません。」


「うむ。さっそく試してみるか。」



「しょーーーかーーーん」


(何度聞いても力が抜ける詠唱じゃな・・・)



そして、「それ」は召還された。


「お、おぉ、、、」


「どうじゃった?」


「ごらんください。今回は赤毛の女性にございます。」


「ほぉぉぉ、金髪の鮮やかさとはまた違って、これはこれで良いものじゃのう。おぬしも良くやった。あとで褒美をつかわそう。」


「ありがたき幸せ。」


とはいってみたものの、魔道師としてはこのようなもの(エロ本)で褒美がもらえるとは、嬉しいやら情けないやらで素直に喜ぶことが出来なかったのだが。



「他の色も指定できるのか?」


「おそらくは、可能かと思われます。」


「ふぅむ。魔法使いたちよ。お前たちに問おう。何色が良いか?」


さも重要なことを聞くような威厳を醸し出しているが、結局はエロ本に出てくる女性の髪の毛の色である。


(そんなこと仰々しく聞かれてもなぁ・・・)と思いつつも、考えてみる。


すると、魔法使いの一人がうやうやしく手を挙げた。


「よろしい、言ってみよ。」


「はい。これまでの金髪女性は健康的な美しさがありますし、先ほど召還した赤毛はまた違った初々しさがありました。ですが、どちらも自立している女性というか、少々我が強そうに見えます。やはり、こう、何も言わずに男性についてきそうな、おしとやかな女性も良いのではないかと。」


国王はあごひげを整えながら問いかける。


「ふむ。おしとやかな女性か・・・・となると?」



静寂が支配する儀式の間に、ゴクリ吐息を飲む音が響く。


そして、若い魔法使いが答えを口にする。



「黒、、、、、、、ではないかと。」


国王が魔法使いたちに目配せすると、誰もうなずくことはないがその意思ははっきりと見て取れた。


後に国王は自伝書にこのように記した。


「この国の行く末を決める重大な局面において、偉大なる魔法使いたちと私の心が確かに一つになった瞬間があった。」


と。




「では、試してみよ。」


「ハハァー!」




魔方陣はすぐに完成した。



そして再び


「しょーーーかーーーん」



こう何度も聞かされてくると、国王はこの間の抜けた詠唱を聴くだけで少し興奮するようになっていた。


すでにパブロフの犬になりつつあった。


いつものように魔方陣の上に輝いた光を収束すると、そこに「それ」は鎮座していた。


魔道師を手で制止して、国王自らが魔方陣の中央まで歩く。


その後ろ姿はさしずめ、岩に突き刺さった聖剣をいざ抜かんと進む勇者のように見えた(かもしれない)。


床に片膝をついて、「それ」を持ち上げた国王は魔法使いたちを一瞥すると、何も言うことなく頷いた。



「おぉ! 成功したぞ!」

「やったぞ!」


魔法使いたちが歓喜の声を上げた。


「お前たちの働きぶりには感謝の念しか出てこないな。褒めて使わすぞ。」


(勇者が召還できないからって死刑にしようとしたくせに)

全員同じことを考えたが、口にしたら本当に死刑になりかねないので誰も口にはしない。


「身に余る光栄です。」


「まずは見てみるかの。」


「ほぉっ!」


「うぐっ!」


「ぐぁっ!」


「この、、、破壊力!、、、(バタッ)」



儀式の間から出てきた国王と魔法使いたちがそろって青白い顔をしながら、


「やはり黒じゃ・・・・・・」


「さすが、黒・・・・・・」


「黒が一番・・・・・」


と思い思いに「黒」の褒め言葉をつぶやくのを聞いたメイドや近衛兵たちは、ひょっとしてこの部屋では禁断の黒魔術が行われているのではないかと真剣に心配し始めるのであった。


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