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初めまして

「のう、魔導師よ」


「なんでございましょうか。」


「召喚魔法で召喚できないのは生き物だけということじゃな?」


「そうです。」


「ふむ。いつもいつも春画(エロ本)ばかり召喚していたが、生活に役立つものを召喚すれば、ちょっとは女王や女騎士達の我々や魔方陣に対する評価も変わるのではないかと思うのじゃが、どうだろうか?」


「もっともでございます。この魔方陣は特定の分野に限ったものしか召喚できないわけではありませんので。」


「そう思ったのじゃが、いざ召喚してみようとなると、何を召喚すれば良いのかわからなくてな。」


「ごもっともです。そもそも、こことは異なる世界にどのようなものがあるのかわからないものですゆえ。」


「何がいいかのぉ。」


「陛下、これなどはいかがでしょうか?」


「どれじゃ?」


黒いストッキングを指で指し示す魔導師。


「これを見るに、雪が降っているというのに、この黒いものをはいている女性は寒そうにしておりません。これはひょっとして、優れた防寒着ではないかと思われます。」


「なるほど。薄手の防寒着であればドレスの下に来ても邪魔にならないし、これからの寒くなる季節にぴったりじゃな。例の踵の高い靴とも相性が良さそうじゃ。」


「靴との相性はよくわかりませんが、まずは召喚してみましょうか。」


「うむ。頼む。」



儀式の間にて準備が整い、召喚魔術の詠唱が半分ほど終わったとことで、


「お呼びですか、今度は何だ、黒いストッキングとか。まさか自分で履くんじゃないだろうな、おいおい。」


という声がどこからともなく聞こえてきた。驚きのあまり詠唱を中止する魔法使いたち。


「今のは誰の声だ!? 誰かこの部屋の中にいるのか? またしても女騎士か?」


「陛下、落ち着いてください。事前に確認しましたが、この部屋の中には誰もいませんでしたし、今の声は男のものと思われます。」


「では、今の声は何だ? おまえ達にも聞こえただろう?」


「なんと!我の声が聞こえるのか?」


「おまえは誰だ! どこに隠れている!」


「どこにも隠れてなどおらん。おまえ達の足下にいる。」


「足下だと!?」


一斉に自分達の足下を見渡す国王と魔法使いたち。


「これでわかるか?」


なんと、話し声に合わせて魔方陣が明滅するではないか!?


「「「「おぉぉぉ! 魔方陣がしゃべったぞ!」」」」


興奮に包まれる儀式の間。全員が、国王も例外なく、跪く。驚きのあまり声を失っている魔法使いたちと国王。国王と魔導師が目配せした上で、魔導師が答える。本来なら国王が答えてもよいのだが、人外との接触である。そちら方面の知識に長けていると思われる魔導師が答えることになった。


「あなた様は神であらせられるか?」


「神ではない。おまえ達が神と呼んでいるものは私の他にいるようだ。」


「では、あなたはどういった存在なのでしょうか?」


「我が誰なのか、我によくわかっておらぬ。少なくとも人間が魔方陣と呼んでいるものには間違いない。」


話し声に合わせて明滅する魔方陣。


「我はおまえ達の願望をくみ取り、答えてきた。それはおまえ達もわかっているだろう?」


「はっ。これまで我々の召喚魔法により、多くの貴重な書物を召喚してもらいました。」


「あぁ、あれか。あれって全然貴重じゃないし。」


「貴重ではない?」


「あぁ、あの本はこことは別の世界で『エロ本』と呼ばれている書物だが、特別なものではない。この世界のように貴族や平民といった階級がない世界のものだが、お金さえ払えば誰でも手に入れることが出来るものだ。お金といっても、そうだな、こちらの平民の食事1、2日分といったところか。」


「なんと!あの書物がそのくらいのお金で手に入れられるものなのですか?」


「そうだ。その程度のものだ。印刷技術がこの世界よりもはるかに進んでいるからな。まぁ、『使い道』はおまえ達と同じだがな。」


声しか聞こえないのだが、なにやら「ニヤリ」という表現が似合いそうな口調だった。


「それで、エロ本、ハイヒールと召喚して、今後は黒いストッキングときたか。」


「ハイヒールというのは、あの踵の高い靴のことでしょうか?」


「そうだ。そして、たった今、おまえ達が召喚しようとしていたものが『ストッキング』と呼ばれるものだ。あちらの世界では女性が身につけるものだな。」


「女性専用か?」


真剣な表情で問いかける国王。


「専用という訳ではないが、、、まぁ、男で履くのはあまりいないようだな。」


「男が履いてもいいのだな。」


妙にそこにこだわる国王だった。


(間違いなく自分で履くつもりだな・・・)


国王以外のものが全員そう思っていた。


「とりあえず出しておくか?」


何の気負いもなく、気軽にといかける魔方陣。


「え・・・と、我々の詠唱は必要ないのでしょうか?」


「あぁ、詠唱か。なくてもいいぞ。」


「・・・いいんだ・・・」


魔法使い達が自分達の存在意義を否定されたようにうなだれた。


「あぁ、今はなくてもいいけど、最初から必要なかったわけではないからそう落ち込むな。」


「といいますと?」


「我にも詳しくはわからないが、お前たちが何度も召還魔法を使ったおかげで、我とお前たちがこのように意思の疎通を図ることが出来るようになったのではないかと思っている。魔方陣と詠唱は、おまえが達が何が欲しいかを教えてもらうためのもので、それを異なる世界から取り寄せてここまで運ぶのが我の能力なのだ。普通はこんな風に意思の疎通なんて図れないから、魔方陣と詠唱で何が欲しいかを教えてもらうわけだが、おまえ達とはこうやって意思の疎通が図れるようになったから詠唱は不要になったのだ。普通はお前たちみたいに何度も何度も召還魔法なんて行使しないからな。このように会話するなんて我も初めてのことだ。」


召還といえば、勇者。普通は勇者をそんなに大量生産するかのように召還することはない。エロ本見たさに何度も召還したことにより、魔法使い達と魔方陣に何らかのパスのようなものが出来たらしい。


「では、今後はどのように召還するのが良いのでしょうか?」


「今後も召還するつもりのか・・・まぁ、いいけどな。詠唱の最初のほうが我を呼び出すための呪文のようなものだから、魔方陣を描いて、最初のほうだけ詠唱すれば今と同じように会話することが出来るようになるはずだ。そこで、召還したいものを言ってくれれば他の世界から持ってきてやろう。」


「やはり、勇者は召還できないのですね?」


「出来なくはないが、お前たち、今この世界に勇者を召還して何をするつもりだ?勇者を必要とする世界でもないだろう。おまえ達が勇者と呼ぶ者にだって元の世界での生活があるということはわかっているのか?そんな彼らの生活をおまえ達の勝手な都合で取り上げる権利がおまえ達にあると、おまえ達は自分のことをそれほどの存在だとでも思っているのか?もしも、この世界に勇者が必要だと我が判断したら、そのときは召還しても良いが、今はそのときではない。したがって、勇者、もしくは別世界の人間を召還するつもりはないから、覚えておくように。それでも勇者を召還しようとするなど、その身をわきまえぬ行動に出た場合は、今後、二度と召還魔法に応じることはないからな。」


「「「「ハハァァッ」」」」


平服する国王と魔法使い達。


「では、ストッキングを召還しておくぞ。ほれ。」


これまでのような派手な光もなく、突然そこに「それ」は現れた。


(なんとあっけない・・・)


あまりの簡単さに脱力する魔法使い達。


「まぁ、とえりえあず手にとって見てみるが良い。使い方はエロ本で見たとおりだから我が教えることもない。今日のところは引き上げる。じゃあな。」


「「「「ハハァ。」」」」


等しく頭を下げる国王と魔法使い達。魔方陣の前には、国王と魔法使いの身分の差など無いも同然だった。魔方陣の光が弱くなり、間もなく消えてしまった。どうやら「魔方陣」がこちらの世界から去ったようだ。


「まさか魔方陣と会話することになるとはな。世の中何かあるかわからんな。」


「私も魔方陣と会話できるなんて聞いたことがありません。おそらく人類史上初の快挙ではないでしょうか。」


「まぁ、そんなことよりも今は『ストッキング』とやらが先だ。」


(間違いなく人類歴史上の快挙なのに、ストッキングとやらのほうが大切なのか・・・ まぁ、何事にも動じないと考えれば国王に向いている性格といえるのかもしれないな。)


若い魔法使いなど驚きのあまり未だにほうけているというのに、いつも通り平常運転の国王にあきれるのを通り越して、関心する魔道師だった。


この後、ストッキングを使って何をすることもなく(国王はとりあえず履いていたが・・・)、この国の技術者へと渡された。努力の甲斐あって同じようなものを作ることが出来るようになり、国内外で人気となったストッキングはこの国の新たな特産品となったという。


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