山櫻
真っ赤な光が辺りを照らす頃、破れた金網を潜り、斜面にできた獣道を登る。
この先には山櫻が一本生えていた。幹も太くしっかりしていて、幼稚園児の頃の僕は根元にあった空洞によく宝物というがらくたを埋めていた。
「夕方だから櫻も綺麗だろうね」
「まあ、着いたらの話だけど」
僕らはこの先の山櫻の場所で出会った。まだ小さい頃だ。
櫻の花びらが舞う春の日、僕が新しい宝物を埋めに来た時、彼女が僕の宝物を掘り返してたのがきっかけ。
『なにしてんだよ!』
そう言って彼女の手を退けると、彼女の隣には目を閉じて硬くなった雀が転がっていた。その理由が解った時、ボクは家に走って帰ったのだった。
「あの時はびっくりした~。いきなり腕掴まれて怒鳴られるとは思わなかったからさ」
「僕だってびっくりしたよ。よく見たら僕の秘密の隠し場所に墓を作ろうとしてたんだから」
「でももっとびっくりしたのは彰がスコップ持ってきて『ぼくもてつだう!』って言った時。まさか手伝ってくれる人がいるとは思わなかったから…」
そう、僕は家に帰った。けれど、またすぐに戻る。あの穴は僕の秘密の場所だった。けれど、死んだ動物のために…彼女のために場所を明け渡してもいいと思ったのだ。
それから僕らは雀の墓参りついでに会うようになった。その内、幼稚園が一緒だという事が判り、他の場所で遊ぶようになってここにも訪れなくなった。