商店街
次は近くの商店街。ここは人がほとんどいなかった。まあ、シャッター開けて客を待つ酔狂な人間がいないからだろう。僕らの他にもちらほらと人がいたが、ただぶらぶらしているだけで、シャッターの下りた店など見向きもしない。
その時、彼女が僕の服の袖を引っ張る。
「あ、田上精肉店!懐かしいなぁ。彰さ、高校の帰りに『食欲の秋』だからってここのスコッチエッグの早食いして賞金貰おうとしてたよね」
彼女が指差す方を見ると、剥がれかけたペンキで『田上精肉店』と書かれたシャッターがあった。
そうだ、ここの隣が食堂になってて、野球ボールくらいのスコッチエッグ10個を制限時間内に食べ切ったら賞金三千円、食べ切れなかったら罰金三千円というのが名物だった。これが中に大ぶりな卵が丸ごと入ってる上に、挽肉が多くひどく食べにくいものだった。
「でも途中でぶっ倒れて救急車呼ばれたけどな」
僕は挑戦して5個目で卵の黄身を喉に詰まらせて気絶してしまったのだ。それで気付いたら病院のベッドの上。結局罰金は勘弁してもらえたが、賞金は貰えないし、それ以上に治療費諸々に金がかかってしまったのだった。
「そういえばさ、何であんなのに挑戦したの?あんたじゃ無理って分かりきってたじゃない」
一瞬、心臓が止まったかと思った。
“今だ”
そう聞こえた気もする。
「もしかして、女の子にプレゼントしたかったとか?」
「んな訳ねぇだろ。青春の思い出に挑戦したかったんだよ」
彼女のにやにや顔を見ないようにして僕はそう嘘を吐いた。
本当は彼女の言う通り、プレゼントが買いたかった。
けど結局失敗してしまった。
「あー疲れた…。ここは何もないし、他の場所行こう」
そう言って僕は彼女の背中を押した。