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第十四話 彼の願い





襲撃から3年が過ぎた。私は31歳に、来音は20歳になった。

 あれから何度も小規模な侵入者があったが、強化された警備と来音の力ですべて払いのけてきた。

 彼女はもう、自分に宿る力を完全に受け入れている。それどころか喜びさえ感じている。


彼女は本当に強くなった。


 

 度重なる変異が彼女の崩壊を招かないかと不安だったが、来音には因子が完全に定着したようだ。現在も彼女から定期的に細胞を取り検査しているが、刺激を与えても正常範囲でしか細胞死シグナルは発現しない。もうインヒビターを使用することはなさそうだ。

本人曰く

「実年齢と見た目が3歳は違うんだから!使ってて良かった〜ぁ」

といたって能天気。

「トウが立つ前にまた打ってもらおうかなぁ。ね、佐井さん」

光夜の惨劇後失語症になり、2年もふさぎ込みつづけていたとはとても思えない。



 現在この洋館はもう宿泊施設としても、人工生命プラントとしても機能させられていない。光夜の事件があってから、制御しきれないものを生産することに対して否定的な意見が理事会の方で多数派となった。そして襲撃の日はたまたま客がいなかったから良かったものの、アレだけの被害を出すことをためらわない襲撃が行われることが今後も予想される。現在のようになるには十分な理由だ。


 私は期待した。悲劇を産む計画がすっかり廃棄されることを。そうすれば自由になれるだろう。しかし来音の身体機能や変異に関する研究は未だ実施する価値があると言われ、来音が解放されるということはなかった。今この施設には来音の研究に必要と考えられたものが残され、機能している。

 私は残念に思ったが、彼女は自らの意志で今はまだ外の世界に出ようとはしていない。5年前のあの日、私が言ったことを理解したいから、と本人は言っている。



 いろいろなことを知りたいという欲求からだろう。今は本を読み漁っている。ジャンルを問わず手あたりしだいに。以前、本が読みたい、と言ってやってきた時、私の研究室にあったのは難しい理論や論文の類ばかりだったので文句を言われた。そこで図鑑や百科事典を買ってあげたところお気に召したようで、いろいろなことをそこから学んでいった。小説や漫画もよく読んでいる。読んだ本に出ていたのか、ヘンな表現や言い回しをすることもよくあった。


たまに町に連れて行くと本屋で目に付いた本を買っていく。前は電子辞典が欲しいと言われた。目を輝かせながら。

「だって知らないことが多いもん。すぐ調べたいじゃん」


知的探求心が強いのは良いことだが、この3年で著しく視力が低下した。眼鏡が必需となっている。

 眼鏡でなかった時もあったのだが、今ではすっかり眼鏡を愛用している。こんなところではほとんどできないおしゃれとして選んでいるフシもあるのだが、本当の理由は違うようだ。

「コンタクトは痛いからなぁ、付けて寝ちゃうと」


だが変異した時は視力が元以上になっているというのだから不思議だ。視力だけでなくあらゆる身体能力が増強されている。理事会が手放したがらないのも、まあわかる。


やはり自分たちの叡智の結晶を、簡単に捨て去れるはずがない。

…そしていつか再開するのだろう。それも、嫌な想像の方向で。



 崩壊のおそれはもうないが、変異はやはり今の来音における一番の不安要素だ。今では本人の意思で自由に変異できる。どの腕を出すかも調節できている。一見使いこなしているのだが、変異すると精神に対する影響が強い。本人も非常に渇くと言っている。本能からの欲求が強くなりすぎているようだ。以前開発したウィルスの副作用なのかもしれない。彼女がこの残虐とも思える本能に押しつぶされたりしないか。心配でたまらない。



……


変異の際の精神変化が最大の不安であることは確かだ。

しかしすべてを含めて私は、来音は本当に純粋な生命の持ち主だと思っている。

貪欲なのだ。




生きることに



食べることに



知ることに



壊すことに



作ることに



恋焦がれることに





愛し、愛されることに。






おおよそすべての時に彼女は美しく輝いている。






私は今、幸せだ。

愛している人がそばにいて慕ってくれるのだから。


だがこの美しい少女もいつの日か、自分の意志で私の元を離れることになるのだろう。

その時にはこの少女がどういう魂をその身に宿し、どう生きていくのか。

それを知りたい。








私はこの娘を、愛しているのだから。






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