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第十三話 化け物



光夜の力は絶大だった。右肩の腕は自分の左腕よりもはるかに自在な動きをする。しかも長い。叩きつければ壁が、天井が崩れ落ちる。機械の腕と左腕で、佐井さんのいる部屋への道をすべて一本道へと変えていった。


わたしを殺さない限り、あの人には近づけさせない。

絶対に、絶対に負けない。死んでたまるか。


 コンクリートの壁に隠れてこちらを銃撃してくる。その銃弾はわたしの身体に巻きつかせた右肩の腕に当たって弾かれていく。ある程度近づいたところで背中の腕を伸ばす。見た目より伸びるうえ、恐ろしいほどの切れ味を誇った。隠れている壁ごと貫くと鈍い悲鳴が上がり、角から赤い池が広がりだした。そのまま横に薙ぐ。壁ごと真っ二つにしてしまった。悲鳴はもう上がらない。

 右の腕でけん制を行い、物陰に隠れた敵を背中の腕で切り伏せる。わたしがしたことはたったこれだけだった。しかし、敵にはなす術がない。こんな狭い場所では隠れて攻撃するか、挟み撃ちするのが効果的だろう。だが隠れることも叶わず、挟み撃ちにしようにも通路はすべて一本道にされていて不可能だった。敵はみるみる後退していく。たまに手榴弾が投げ込まれてくるが、自分の巨大な左腕がその爆発と衝撃と破片から守ってくれる。左腕は無傷だ。子どもの頃よりもはるかに強度と大きさが増していた。もはや奴らにわたしを殺すことなどできない。無駄な抵抗だ。


 かなり敵を追い込んだはずだ。そろそろ疲れてきたし、走って佐井さんのもとに行ったのだから喉の渇き方が激しい。早く決着をつけなくては。佐井さんの部屋に水があったかもしれない。もらえばよかった。

 そんなことを考えていた時、渡されていたイヤホン型の通信機から、佐井さんからの連絡が入った。敵が慌てて研究所から地上へ退却しているとのことだ。あとは洋館から追い出すだけだ。わたしの家を返してもらう。


わたしだってバカじゃない。さすがに階段から洋館に入るような真似はしない。当然出入り口には数え切れない銃口が向けられているはずだ。

なら、違うところから出たらいい。わたしには出来る。


「多分…この辺だよね…」

洋館の正面フロアがあるだろう位置の天井を見上げ、そこに思いっきり自分の左腕で殴りつけた。

 天井は吹き飛び、風穴が開いた。その穴に機械の腕をすばやく伸ばして洋館の中へと飛び込む。勢いあまって宙を舞ってしまったが、これがまたわたしの有利につながった。運がいい。

 どこにどれだけの敵がいるのか。ほとんどが洋館一階の奥の部屋、つまりはわたしが出てくるはずの部屋の正面に固まっており、スナイパーと思われる人間が五人、二又の階段の踊り場から狙いをつけ、負傷者は玄関正面で待機していた。二階には誰も居ない。

 虫の腕を振り、わたしを見上げている、階段に陣取っていた五人の首を一度にはねた。その勢いのまま空中で回転し、固まっていた群集を機械の腕ですべて薙ぎ払う。半分くらいの人間は胴体が引きちぎれるか、酷い挫傷を受け即死した。生きて走ることの出来る者たちは抵抗することなど考えず、叫び声を挙げ必死で走って逃げた。



たまらない高揚感に、わたしは支配されていく。逃げていくものたちを見たときだった。


ニガスカ

セッカクノ エサドモダ

コノカワキ… イヤサセテモラウゾ


しゃがれ、低く、うめくような声が出た。

自分でも驚いた。だがこの凶暴性に従った。本能の赴くままに。たいていの者は殺した。わたしたちの家を土足で荒らし回った連中に、容赦などする必要は無い。

背中の腕で切り裂き、左の腕で押し潰し、右肩の腕でなぎ払う。正面ホールの床には肉が散り、絨毯が血で染まる。

もう、わたしも止まらない。心地いい。



……


……


わたしもいい加減疲れた。

腰が抜けて動けなくなり、逃げ遅れていた者の中で一番健康そうなのを捕まえ、その首筋に虫の腕で切れ込みを入れる。あふれ出る血液を息絶えるまですすり続けた。

甘美なため息が漏れる。一人分を吸い尽くしたところで周囲を見渡すと、生きている人間は一人もいなかった。完全に退却したようだ。




……

わたしの、そして光夜の勝利だ。守り抜いた。あの人を。そして、自分たちも。


笑いが、止まらなかった。




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