イブの日サイト
「こっのはぁー!」
「ぎゃっ!?」
廊下で歩きながら小説を読んでいると、後ろからいきなり茜が抱きついてきた。
おかげで、小説に栞を挟まずに落としてしまう。
「茜………… 何か用?」
「うわお、木葉こっわーい」
「本を落としてページが解らなくなったんだよ。大した用事じゃないよね?」
「…… あたしがいきなり抱きついたのも非があるけど、廊下で本読んでる木葉もちょっとは悪いんじゃないかなぁ」
「はいはい、それで用事は?」
神流茜。小学校のクラスメイトで、一緒に同じ生駒中学に上がった。私達以外に同じ小学校はいなかったし、なんとなくつるむようになった。
仮にも友達なのだから言うのは失礼かもしれないけど、茜は特にこれといった特徴がない。普通にジャニーズが好きで、普通におしゃれが好きな十四歳だ。
「いやー、もうすぐクリスマスじゃん?」
「イヤミか。どうせ私は彼氏なんていませんよ。一人で寂しく過ごしますよ」
「あ、あはは~…… いや、そういうことじゃなくて。木葉にやってほしいことがあるんだよ」
茜の顔は、いかにも悪だくみしているような悪代官の顔つきだった。
「イブの日サイト?」
茜が頼んだことは、都市伝説の実際にあるのかという証明だった。
最近、巷で流行しているクリスマスイブの深夜十二時にアクセスすればいけるというサイト。そのサイトでは、どんなことが起きるか解らないらしい。
でも、イブの日しかアクセス出来ないとはおかしなことだ。アクセスしたら怖いことが起きるとかそんなのだろうけど、イブなんて聖なる夜。
せめて、忌み数の日にするとか考えれば良いのに。
「何故私? 茜がやればいいんじゃ……」
「ごめん、あたし部活の合宿なんだよね。今年のがしたら来年だから…… パソコンでしかダメらしいし。合宿先にそんなのあるわけないからさ。お願いっ、なんかおごるから」
「確かにね。それは仕方ないか。………… いいよ、やるよ。アクセスするだけでしょ。だから、帰りにたこ焼きおごってね」
「おっけー! じゃあ、よろしく! とりあえず"クリスマスイブ 部屋 秘密"でぐぐれば、なんとかなるから」
そうして、私は"イブの日サイト"とやらにアクセスすることになった。
十二月二十四日。午後十一時五十八分。
私は、カチッカチッと静かに時を刻んでいく時計を見ながらぼーっとしていた。
幽霊とか信じない私でも、さすがに時間になってくると怖いものである。
茜が言うには、部屋を暗くして一人でやらないといけないらしい。人間、暗いところは苦手なものだし。
ネットで検索して"イブの日サイト"のことを調べたのだが、全く情報が掴めない。そのサイトにアクセスした人は必ず死ぬとかいわれていたけど、全員死んでいたら誰がその噂を広めるのかという話だ。
「五十九分…… 五十九秒。行け!」
検索をクリックすると、結果一覧が出てくる前にいきなり変なサイトにジャンプした。
そして、真っ白い画面が出てくる。………… ただ、真っ白。
やっぱりガセか。はぁ、とため息をつきウィンドウを消そうとする。
「消えない」
消えなかった。何度もクリックしても、そのままだ。フリーズしてるのかと思ってしばらく待つけど、全く消える気配はない。
仕方ないので電源ボタンを押して、直接消そうとするけどやっぱり消えない。
次にコンセントを抜いてみるが、またまた消えない。
画面は真っ白なまま、部屋にはただ時計が刻む音が静かに流れていた。
「最近さー、ウチの家のパソコン変なんだよねー」
「うそっ!? あたしのとこも何か変なんだ。電源つけるとカタカナで"タスケテ"って言葉が出てくるだけでさ」
「それウチと同じじゃん! 何だろね、新型のウイルスとか? 修理出した方がいいよね、やっぱ」
「だよねっ」
生駒中学二年三組。
神流茜は、本を読みながらクラスの女子達の会話に耳を傾けていた。
しばらくして、女子達が他の話題に移ると誰にも聞こえないような微かな声でつぶやいた。
「__ あの子も、駄目だったか」