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異世界の成金道  作者: (ちきん)
第一章カンガール食堂と未亡人
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1-8スキル

ガスティとのお別れを済ませた翌日もまた

同じようにカンガール食堂の家畜を世話する。


ミーアさんからはしなくてもいいと言われたが、

何もせずに生きていけるほど

この異世界が甘いとはもう思っていなかった。


なによりカンガール食堂の力になることは、

今は亡きガスティの願いでもあるのだから、

やらないわけにはいかない。


ただ、そうはいっても六太の最優先は

己の食い扶持をどうにかすること。


職業が無職の六太にしてみると、

生きていくためのスキルはないし、特別な知識や技術を持っているわけでもない。

ましてや、ゴブリンハーフとして、成人を迎える後1~2年の間に、

ルクティの街まで行ける資金を自分の力で作らねばならないのだ。


とりあえず特技草むしりで採取されるレア食材があるので、

どうにかなるとは六太も考えていた。


「まずは十分な蓄えを手に入れて自分の足場固めをしないと」


六太はヤギニワトリの卵とミルクをカンガール食堂に届け、

ミーアのお弁当を貰い、森の中へと草むしりに出かけるのであった。





ガスティが亡くなってから1週間もせずに

植物採集で何とかこの世界で生きていける目処は立った。


毎日せっせと働き続け、

レア食材を見つけられる能力(?)により、

六太は既に小金持ちにはなっていた。

半年くらいなら働かなくても細々と生きていけるくらいには。


おまけにガスティから引き継いだ、オンボロで狭い我が家もある。


当面の問題は、カンガール食堂だが、

今のところ、カンガール食堂で三食お金を払って食べる

という結論に達した。


一度蓄えたお金の大部分を出資のような形で払おうとしたが、

ミーアさんから固辞されたので

お金を払って食事をするという方向に替えることに。


ちなみに、家畜の世話を継続することについては、

植物採集してきたモノを分別してもらうお礼という名目で

なんとか。

なかなか受け入れて貰えなかったが、

最後は粘り勝ちでミーアさんも提案を飲んだ。


これで少しはガスティも喜んでくれるではないだろうか。



ようやくこの新しい世界での生活も

少し落ち着き始め、

森の中に入り始めて一ヶ月ほど経った。


森の怖さは相変わらず感じつつも、安全と村人が判断している場所くらいは

六太は覚えることができていた。

いつものように、周囲を警戒しながらもキノコや草を探していた。


すると大きな二本の木の間に見たことがないがキレイな花。

ミーアさんの娘のシャルにでもプレゼントしようかと思い

手を伸ばし獲ろうと手前の岩に足をかけた。

すると、岩でツルンと滑り、膝をぶつけつつ

前方に派手に転んでしまう。


「花ゲ、、、、ットォォォアァァ……」


という六太の叫び声とともに、花の後ろへと転げ落ちていく。


二本の木の先は段差があり、転んだ先に地面はなく、

1m程下に六太の体は落下した。


「「「ドしんっ」」」


それほど大した高さではなかったが、

六太は尻を強打し、衝撃は脳天へと抜けた。


「nawogiwp;w」


言葉にならない声を漏らしながら、痛みに堪える。


手には花が取れたものの、痛みで数分固まっていると、


「…………」


何か苦しそうな声が六太に聞こえる。

苦悶の表情を浮かべながら周囲を伺うも、特になんにも

いない。


「…………」


それでも鳴き声というか呻くような小さい音が聞こえる。


お尻の痛みが段々と収まってくると、六太も耳をより一層澄ませる。

こっちか、ちがう……、こっち?いやこっちと

ゆっくりではあるが音の聞こえる方に近づく。


小さく聞き取るのも難しい音が、

ほんの少し大きくなる。


「ここかな……」


落ちてきた二本の木の間の岩。

その下に小さな窪みがあり、

中を覗き込んで見ると、音の発生源が六太の前に姿を現した。


ネズミの親子だった。


ただ、見たところ、

大きい親ネズミは既に生きてはいない様子。

隣に寄り添うにに倒れている子ネズミも

今にも死にそうである。


六太が彼らを見つけても

特に警戒する声を発することもなく、

とうとう子ネズミも鳴くことをやめて倒れてしまった。


六太にしてみれば、人ですら

簡単に生き残れないこの世界で、

ネズミ程度の生き物が目の前で死のうがどうしようが

どうでもよかった。


見つけてしまった窪みからちょっと視線を外し、

立ち去ればいいだけの話。


ただ、ほんのつい最近に

親しい人を失ったばかりだったせいで、

立ち去ることを躊躇させた。



二匹のネズミを窪みから

引っ張り出す。


親ネズミの方は生きているようには思えなかった。

一方子ネズミは衰弱しているとはいえ、

目立った外傷は後ろ足の傷くらい。


「なにやってるんだか……」


六太は自分の行為に呆れながら、

既に一杯になっていた籠の中に

ネズミを二匹入れて家に戻った。



自宅につくと、以前に見つけ、

六太自身に万が一なにかあった時のために

取って置いた薬草で子ネズミを治療した。


親ネズミにも傷は全身にあったので、

一応薬草を塗っておく。


「確かシビレネズミとかいう種類だよな……」


ガスティに教えて貰った幾つかの生物の中にいた生物だ。


「どっちも元気になればいいけど……」



しかし、六太の看病も空しく、

まもなく親ネズミは腐り始めた。

この異世界の魔物の類は、命が尽きると、

体を構成する魔素が抜けて簡単に腐っていくとのこと。


「やっぱり親ネズミの方はだめか。

 せめて子ネズミは助かるといいんだが……」


親ネズミの死骸は野犬などに食い荒らされないように火葬をし

家の裏手に埋める。

少し大きめの石を乗せ昨日取ってきた

墓を作る。


何もないのも寂しいので、

さっき森から持ってきた何か知らない花を供えてやり、

六太は手を合わせる。


「子ネズミが助かるよう見守って下さい」


願いが通じたのか子ネズミの怪我は

良くなっていったのか、翌朝には目を覚ましたようだった。

餌も食べないかと思ったが、

六太の与えた餌をほんの些細な躊躇だけで

すぐに食べた。


「人懐っこいネズミなんかな……」


もりもりと餌を食べる子ネズミは

このままいけば大丈夫そう。

六太は大してその状況に驚くこともせず

ただ元気になっていく子ネズミの姿を喜ばしく見ていた。




「あれっ!?

 スキルが手に入ってるぞ」


子ネズミを拾った翌日に、以前から約束していた

バース神官の元へと六太は訪れていた。


バース神官が怪我の回復状況を見るついでに、

改めてボケーションを使ってくれた。


怪我の直後は、ゴブリンとしての命が安定しておらず、

ボケーションが上手くかからなかった可能性もあるから

ということらしい。


もしかしたらということもあるので、

職業『無職』が変わるかと期待したが、やっぱり【無職】だった。


しかし、一つだけ以前とは違いがあった。

それは、なんとスキルを取得していたこと。


【スキル:『ネズミ飼い』】


だそうだ。


ネズミが上手く飼える能力なのかな。

六太がバース神官の言葉の意味を聞くと、

バース神官曰く

スキルの中には種族固有のものもあり、

ゴブリンハーフ固有であろうと。


人にも【羊飼い】といった飼育系のスキルがあり、

まさに飼う能力が上がるとのこと。

すなわち、【ネズミ飼い】とは

ネズミが飼いやすくなるということだ。


「って、どこに需要があるんだよっ……」


とついバース神官の前でツッコミをしてしまい、

驚くバース神官に謝る六太であった。


しかし、その事実を六太は知り、一つ納得する。

ついこの前に治療した子ネズミがあっさりと餌を食べ、

しかも逃げ出さないこと。


動けるようになったらすぐに

逃げるかと思ったが、逃げない。


なにか芸でも仕込めば

ちょっとした見世物にはできるかもしれないけど、

そんなことするのも面倒なので六太はする気が全くない。


せっかく手に入った仲間。

ペットといわれるかもしれないが、

六太にとってはそういう考えは出てこなかった。


一緒にここの地で生きていくなら、一人より二人の方がいい。

広く静かになったオンボロの自宅も

六太にとって少しではあるが狭く騒がしくなった。




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