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異世界の成金道  作者: (ちきん)
第一章カンガール食堂と未亡人
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1-5金のなる木

六太が新たな住処の扉を開けると既にガスティが帰宅していた。


「すまん何もしとめられなかったっぺ」


頭を下げるガスティ。扉を開けて見た顔で一目でわかったので、

それほど六太に驚きもなかった。


第一印象が凄腕には見えなかったので、予想通りではあったし……



「しょうがないですよ。

 ところでどれが教えて貰ったものか

 やっぱりよくわからなかったので、

 採って来たそれらしいモノ見て貰えます?」


籠一杯の植物をガスティの前に出す。

山盛りの籠に一応の努力を見て、感心してくれた。


「頑張って採ってくれたんだっぺ。ありがとう。

 じゃちょっと見せてもらおうか。

 これは毒草だっぺ、これも、こっちは雑草━━」


山盛りの籠の植物は毒のあるものと雑草にどんどん分別されていく。


もしこの国がゴミを出すときに有料化していたのなら、

やばいことになっただろう。

8割雑草2割毒草といった感じで二つの草の山ができていく。

やっぱり適当な仕事で結果を得ようというのは虫のいい話だったようだ。


ガスティ大きくない体を深い籠の中に突っ込んで、

最後の植物の分別をしてくれている。


「!?」


驚きで声にならない声を上げる。顔もきっと驚いているだろうが、

籠の中なので六太にはまだ見えない。


「どうしたんです。もしかして、食べられるものありました?」


奇跡が起きたかと期待を込めて六太はそうガスティに聞いてみる。


ガスティは体をゆっくりと籠の中から起こすと、右手にキノコを掴み

ぷるぷると震えている。

まるで生まれたての子鹿のようだが、おっさんなので可愛くはない。


「大丈夫ですか、もしかして一つくらいは目的の植物ありました?」


こちらを向き、はふはふと

言葉を発しようとするおっさん。

今度は熱いおでんを食べた時のようだ。

ただのおっさんだから可愛くはない。


とりあえず落ち着くのを待ち、ガスティがなにか言うまで黙っている。


「こ…れ」


「はい?」


「これ、売れる…」


「ホントですか、よかった」


「売れる、高い…」


「いくらです?おかずが一品増えるくらい?」


「9っ級っ食材!!

 やったっぺ、これで一ヶ月は生きていけるっぺ」


どうやらウメタケという森の奥でしか獲れない

9級食材が一つ紛れていたらしい。

見た目は、梅干しから地面に細長い柄が生えているという

微妙なもの。

正直取るときに、なんだこりゃと笑ってしまった植物だ。


メシ代をビギナーズラックにより稼ぎ出せ、

転生してすぐに餓死なんて悲しいことにならないことが、

ただ今は喜ばしい六太であった。




初めての植物採集を経験して以来六太は

毎日植物採集という草むしりに精を出していた。


神様ありがとう、今ツイています。

六太は世界の全てが自分を祝福しているようにさえ感じていた。


あれから毎日、ソルダース村で繰り返した植物採集。

ゴミ99.9%ではあったものの、レア食材0.1%といった感じ。


ほとんどがはずれなのだが

ただで引けて当たるクジで当たりが出るなら、

いくらでも引くでしょ。

つまり、俄然やる気が出ます、この森の永遠に終わらない草むしり。


それに一回きりの出来事ではなく、ほぼ1000回草むしれば

一回は確実に当たるならそれはもう何かのスキルなのかもしれない。


日々の食事すら確保できるか不安だったつい数日前の自分が

懐かしくなる。人生余裕ができるとなんか楽しくなってきた。





今日も閑散としているソルダース村のカンガール食堂。

明日の仕込みを始める時間なのだが、まだ食材が届いていなかった。

いつもならもう、そうカンガール食堂の女主人ミーアが

疑問に思っていると、店の扉を叩く音が響いた。


「すまんね、ミーア」


扉から現れたのはギルが亡くなってから

食材の調達をお願いしていた商人だった。

気まずそうな顔でお詫びを告げに来ただけで、

食材は何も持ってきてくれなかった。


閉じられる扉を見つめる。

食堂に一人残るカンガール食堂の女主人ミーアは思う。


夫のギルが死んで以来、上手くいかないことばかりが続く。

今日商人にお願いしていた代わりの食材も

止められてしまった。


彼も生活がある。

あの乱暴な村長の息子の目をかいくぐって、

これまで届けてくれただけ感謝しないといけない……

現実を受け入れないといけないのだけど、

ミーアも中々理解できても受け入れるのは難しい。


とりあえず今日の食材……


自前で用意してあったヤギニワトリと卵とミルク。

以前に商人から仕入れてあった

地喰いウシの熟成肉がほんの少し残ってる。


ただ、継続的に手に入りそうなのは

飼っているヤギニワトリの卵とミルクくらいだろう。


それも飼育を手伝ってくれていた村の人が

やはりつい昨日辞めてしまったから

どうなるかわからない。


さすがに飼育場も食堂も両方一人でやるのはムリだ。

ミーアは準備中のカンガール食堂でテーブルに

帳簿を開きながら厳しい現実に打ちのめされていた。


「村長の息子には、あいつには抵抗できないのかな……」


テーブルに突っ伏して何度見たかわからない帳簿に触れる。


もともと店の開店費用で借金はあったが、

あと1~2年もすれば返し終わるはずだった。

夫のギルが死ぬ前の状態が続くなら。


それが今や先月から続く営業赤字で

借金返済より前に運転資金が底をついてしまいそうだ。

それにまともに料理を作る材料もない。


「もう限界……」


ミーアは疲れたように目をつぶる。

すると、最近になって

これまで以上に一生懸命お手伝いを

してくれるシャルの顔が思い出される。


つい数瞬前までは弱気になっていた心も、

愛娘の存在を思い出せばそれだけでもう一踏ん張りできる。

シャルは私が守らなきゃ。

私しかいないんだ。


ギルが死んでから何度も呟いた言葉で

ミーアは己を鼓舞する。


「あの村長の息子と……結婚か……」


思い出されるあのいやらしい視線。

下卑た笑み。

夫のギルとは正反対にあるような誠実さのかけらもない人間性。


あいつに抱かれるかと思うと、寒気がする。

それでも生娘ではもうないのだからそれくらい我慢できなくもない。

でも、あいつはきっと私に飽きれば、

ゴミクズと同じように扱う。


考えたくもないが

娘のシャルもとてもヒドイ扱いを受ける可能性は高い。


けれど、ミーアとしてもこのまま一人でシャルを

育てられる状況にはもうないことはわかる。

頼れる身内でもいればいいが、生憎両親も兄弟も

すでにいない身である。


窓から差し込む日は、日が沈むまでもうあまり時間が

ないことを教えてくれる。

西日の明るさが目にしみて涙が出そうになるが、

我慢。


涙は流せない。


ギルを埋葬した日に一生分の涙を流し尽くしたから。

もう悲しさで泣くことはしないと決めたのだから。






ガスティの家はソルダース村の端にあるが、

その近くには家より家畜の小屋が多い。


特にカンガール食堂所有の家畜小屋は業務目的ということもあり大きく、

ヤギニワトリという大きめの鶏(?)のような生物が

数十羽飼われていた。


そこで六太は今餌やりや搾乳、排泄物の処理諸々を任されていた。



そもそもなぜ植物採集ではなくこんなことをしているかといえば、

ガスティに頼まれたから。至極単純な理由であった。


この家畜小屋の持ち主は、ガスティに良くしてくれていたギルという男性

が所有していたモノとのこと。


そのギルがついこの前亡くなり、家畜小屋の世話をしていた村の人も辞めてしまい、

お世話になっていたギルやその家族の力になりたく、六太に話が回ってきた。


ちなみに、ガスティはヨルチアの森へと狩りにでかけ、

カンガール食堂に食材をたくさん獲ってくるとはりきっていた。


日本にいた時も学校で飼育係とかやってなかったし、

森にいるより安全だから、六太は楽しくやっていた。


そんな楽しい状況になったとはいえ、

六太には一つ残念な出来事があった。


それは、ボケーションの魔法をバース神官から受けた時のこと。


六太の職業は、『無職』と神託を受けた。


職業は神がおおよそ選ぶ世界で、

【無職】。意味がわからない。


つまり神様は何もしなくていいよと言っているのだろうか。

それとも、お前はこの世界の人間じゃないからこの世界の枠組みには

入れてあげないということだろうか。


バース神官もこれまでに見たことがない神託だったみたいだが、

ゴブリンハーフだからそんなこともあるかもしれないとのこと。


現状では職業で取得できるスキルは諦めてと言われ、

近々行くことになるであろうルクティの街で

もう一度ボケーションの魔法を受けてみるのが良かろう

ということになってしまった。


……もしかしたら、いやきっと前世で定職についていなかったことが

影響しているのかと邪推してしまう六太ではあった。


しかしいつまでも落ち込んでも居られないので、

とりあえずその件は忘れることにする。


職業がなくても、レアな食材は獲れるし、

家畜の世話のお礼に美味しい料理も貰える。

寝る場所も小さくて汚いが一応ある。


コレでなんの不満があるというのか。

あるわけがない。上を見ればきりがない。




なによりガスティのように職業があっても

上手くいかないこともかなりある。


ガスティは何度失敗しようとも

毎日狩りに出掛けるので心意気はいいのだが、

結果が付いてこない。


一度だけ狩りに同行させて貰ったが、

獲物を見つけるまではさすがプロといった感じなのだが、

いざ矢を射る段になると、緊張感が押し潰されているよう。

そこで、ちょっとした物音や予想外の獲物の動きが

あろうものなら失敗することも頷ける。


結局、職業があるガスティの

生活を支えているのは

無職の六太というなんとも不思議な状況になっている。


無職でも構わない。

そう問題なしなのだ。



「大丈夫、まだルクティの街でもう一回

 神官様に診て貰えば変わるかもしれないっぺ」


「……そうですかね」


「きっとそうだっぺ。

 それに職業なんてあってもおいらみたいに

 スキルが上手く使えないこともあるかんな」


「(同意したいけど……できない)」


「ほんとはおいらがもっと

 六太をしっかり支えられればいいんだが、

 すまない」



怪我させた負い目もあり、そういった状況は

彼としては辛いようで何度も謝られたが、

気にしないようにして言い含めた。

一苦労だった。いい人と付き合うのもこういう時はちょっと面倒。


だが、居心地は悪くない。



現状立場は完全にこちらが上になってしまったものだから、

ガスティの意見は尊重し頼まれ事は基本受けることにしていた。


なにより六太にとって、日本での前の人生を含めて

これだけ近い距離で人と過ごすことは両親以来。

つまり、ガスティは六太にとって家族以外のなにものでも

ない存在にいつの間にかなっていた。





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