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異世界の成金道  作者: (ちきん)
第四章奴隷商人と3人の奴隷
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4-2クサリの狙い

「……もう一度言ってもらえる?」


六太は応接用のふかふかのイスにかけながら、

対面に座る丸眼鏡の女性クサリに聞き返す。


「六太さんに旧ドルント男爵領の領主になって欲しいの」



六太は第2区に滞在しているハーフダークエルフのユールに

会いに来ていたところをクサリから呼び出され、

第1区にある庁舎の財政官執務室まで来ていた。


財政官執務室へと続く廊下には陳情者の列ができており、

陳情者が並ぶ中を彼らの順番とは関係なく執務室に入ったので、

六太は横入りしたような冤罪気分を味わわされていた。


しかし、それもあっという間に吹っ飛んだ。


「……どういった理由で、オレみたいな

 一般庶民にそんな大役が回ってくるのさ?」


六太もソルダース村の村長補佐という立場にはあるが、

領主はそれとは似ているようで全く違う。



ガリアナ王国では、王都と東西南北の州都に大きく分けられている。


各区分ごとにそれぞれの領地を治めており、州都の財政官は

管轄内の各地の領主を定めることが出来る。


領主はその領地を好きなようにできる権限があるのだ。

いわば実質的には貴族である。

事実庶民からは“新”貴族と呼ばれている。


それに対して、“旧”“貴族という、国が認めている貴族も存在する。

彼らは昔からの貴族であるが、

領地の権限を王により取り上げられている。

過去に各地で圧政をやりすぎたための措置であった。

そのため今では旧貴族は王都に住み、

外交や軍事など国全体について議論をし王を支えている。


もちろん全国から集まった税金で贅沢な暮らしはしている。


「端的に言うと、『亜人の地位向上』のためです」


「亜人の地位向上?」


六太は自分とクサリの目的とするものがどう繋がるのか

すぐにはピンと来なかった。


あっ、そういえばゴブリンハーフは亜人だ。

六太は自分が人間となんら変わらないので忘れていたが、

ゴブリンハーフになっていたことを思い出す。


そうなれば、なるほど納得できる。

ゴブリンハーフは人から嫌われている亜人というカテゴリーの中でも

特に嫌われている。

それはゴブリンという魔物が、

低能で醜く薄汚い存在の代表格であることに由来する。

加えて、その卑しい血を持っているのにも関わらず、

人と見た目は全く同じなのがさらなる憎悪の原因となっていた。


「つまり、ゴブリンハーフであるオレが領主になり

 何らかの結果を出せば、次に続く亜人がやりやすくなると」


申し訳なさげに頷くクサリ。


これまでの慣習から外れ、分不相応な地位を得る。

それは裏返せば、

多くの嫉妬の対象になるということでもある。


「すみません。どの程度の危険が伴うかもはっきりしないことを

 お願いするのは心苦しいんですが、引き受けてもらえませんか?」


六太にとって新貴族になることは滅多にないチャンスだが、

命を狙われる可能性は十分に考えられる。

もちろん財政官のクサリの後ろ盾がある以上、

連日連夜襲われ続けるようなあからさまなことはないにしろ、

即決するのを躊躇わせる提案である。


六太が渋い顔をしていると、クサリはさらに恐縮して、


「それと……言いにくいことですが、領地となる旧ドルント男爵領は

 現在荒廃しています。

 捕まえた前領主は領民から搾取しすぎていたので皆ボロボロです。

 おまけに、奴隷商人から高額で買った性奴隷への支払いのために、

 借金のカタで領内の数少ない穀物生産に適した土地の長期利用権も

 奴隷商人に渡してしまっています」


新貴族になってもまったく贅沢できないということか。

六太は完全にやる気を失っていた。


多少リスクがあっても、貴族と呼ばれる程度に贅沢ができるのならば、

引きうけるのもありかもしれないと六太は思っていた。

しかし、リスクしかないのなら、

受ける理由がない。

ただの善意で命をかけるほど領地経営に魅力を感じられなかった。


「悪いけど━━」


と六太がクサリの提案を断ろうとすると、

クサリはテーブル越しに身を乗り出してきて

六太の手を掴む。


「確かに荒廃はしています。

 でも、まだ開発はできていないけど、

 領内は湖も川も森も山もあってとても広いんです。

 多数の冒険者が訪れるほど資源もある。

 つまり、やり方次第で、ガリアナ王国一の領地にだって

 なりうるんです」


もの凄い気迫で迫られる。

加えて、丸眼鏡は今ひとつ色気があるとはいえないが、

顔立ちは整っている美人の若い女性からのボディタッチは、

六太から『NO』という気力を奪った。


一方のクサリはというと、六太の心の揺れに

気付いたようで、


「領地経営は私が信頼できる人物がおおよそやってくれます。

 六太さんは領主という立場で、領地の未来予想図でも考えながら、

 たまに上がってきた案を決裁して、のんびり暮らすだけでいいですから」


懇願するクサリと、『のんびり暮らすだけ』という

甘い言葉に釣られて、


「ま、まぁそこまで言うのなら……やるよ」


ぽろっと六太は言ってしまう。

すぐに、まずいと気付くが、訂正の時間もタイミングも

六太は見つけることができず、

クサリとの話し合いは終わった。


財政官執務室から追い出されるように退室すると、

秘書官の女性に誘導され、

財政官への面会を待っている陳情団の側を抜ける。


六太の呆然とした表情を見て、一部の陳情団の人間はにやけていた。

財政官にけんもほろろに追い返されたのだろうと想像すると、

自分の立場なら辛いが、他人ならそれは面白いことこの上ない。


しかし、六太は周りからそんな目で見られていることなど

露ほども知らず、

庁舎の外へと機械のように足を出して出て行った。


「……どうしよう……」


六太はゴミ一つ落ちていないキレイな庁舎前の庭に立ち

途方にくれる。


来る時は見事な快晴だったが、

いつの間にか薄雲で日差しが弱くなっていた。





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