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異世界の成金道  作者: (ちきん)
第四章奴隷商人と3人の奴隷
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4-1幻獣の副作用

ミミーは強くなった。

『幻』という文字を使わないと表現できない【幻獣】になったのだ。


これからは無双できちゃったりするのか。

という淡い希望を六太が持ったのも仕方ないことであろう。


しかし、それは六太の側から拒否することになった。


「「「「おう゛ぉうぇ~~」」」」





六太とミミーは牛が引く荷車に乗ってルクティの街の外に来ていた。


街から二十分近く進み、

周囲に誰もおらず、人から見られる心配のない場所で止まると、

御者台から下りた。


「この辺ならいいだろ」


六太は、【幻獣】の力を試すために

朝飯食べてすぐに訪れていた。


そして、朝食べたものを盛大にリバースしていた。


六太の嗚咽を聞いて、ミミーはすぐに力を使うのを

止めていた。

あれ以上続けたら、六太の心が壊れるのではないかと

ミミーは心配していた。


『……なに……コレ』


六太は驚愕していた。

力そのものの強さなど気にしている余裕はない。

ミミーと繋がっているパス(経路)を通して、

もの凄く気持ち悪い映像やら記憶やら力やらが

なだれ込んできたからである。


『私の中にいるのは【不浄】の幻獣だから、

 力を発揮すると不浄が集まってくるし、

 幻獣自体からも不浄な力やモノが溢れるから

 それにやられちゃったのかもね。

 でも、幻獣の力を使いたいなら我慢しないと』


『我慢……できない。

 たった一瞬だったけど正直トラウマになりそうなレベルだし、

 もう少し使ったら心が壊れる気がする』


六太はミミーの力の検証作業を諦めて、

ルクティの街を出てから1時間もかからずに、街へと戻っていった。


実際に力を試し確認することはできなかったが、

あまり実用的でなく、

どうしても必要な時以外は使えないことを確認できたのは

六太にとって一つの収穫になっていた。









洗濯機は世の主婦を助けたという歴史があったが、確かにあれは便利だ。

いやだったというべきだろう。今六太のいる場所にはないのだから。


六太はルクティの街に帰ってくると、

自分の汚物が少し服にかかっていたのに気付き洗濯を始めていた。


「「じゃぷじゃぷ、ごしごし、じゃぷじゃぷ」」


汚れ物を桶の水の中にぶっ込み、泡が出る何とかという実の粉末をかける。

後はひたすら両手でもみ洗い。

嫌な記憶と一緒に、

ごしごしごしごしと両手をこすって汚れを落とす。


「手が荒れていくのに……汚れがなかなか落ちん」


洗濯テクがなかなか上達しない。

この世界に来てそんな洗濯方法を始めたばかりの時は、

かなり神経質に、汚れを落とすことに躍起になっていた。

もう親の仇のごとく念入りにやっていた。

それはそうだ。清潔大国の日本から来たら、やはり気になる。


しかし、洗濯は一回きりではないのだ。

日常的に発生するルーティンワーク。


いつの間に六太の心もおおらかになっていき、

まず汚れを大体落とせればいいとなり、次に洗濯する回数が減った。


今はズボンや上着なら1週間くらいは洗わずに着ることに抵抗はない。

なんたってこっちではそれが普通だ。皆で渡れば赤信号だって恐くはない。


むしろそれでも着替え過ぎかもしれない。

もちろん、汗や泥の汚れが気になる時は、早い時期に着替えをするので、

汚れに単に鈍感になったということでもない。

無駄な労働はしないというだけである。


「こんなもんでいいかな」


念入りに擦った結果、汚れの跡はほとんどなくなった。

六太もそれに満足したように、泡を水で流す作業に移っていった。




宿屋ファインの最上階に洗濯物を干すスペースがある。

そこに六太は洗ったばかりの良い匂いがする服を持って上がる。

シワにならないように物干しにかけると、


「よしっ」


干し始めるには少し遅いが、昼に近いとはいえまだ朝。

しかも本日は晴天。たぶん乾くだろう。


六太は一仕事終えて達成感に浸っていた。

朝のトラウマレベルの精神攻撃で、くすんで見えていた世界も

今ではだいぶ明るくはっきりとした世界に戻っていた。


「あれ?

 六太帰っていたの?」


屋上へと続く階段の扉が開き、

狼娘ラクアが大きな袋を持って出て来た。


朝早くから干してあったシーツなどが乾いていることを確かめ、

速やかに回収していく。

あっという間に回収したシーツを袋にまとめ抱える。

量が多いので、かなり重そうである。


「……持とうか?」


六太は持てるか微妙な感じだったが、

男性が手ぶらで女性が重い荷物を持つという状況は、

なんだか悲しいので、提案してみる。


もし腕力で持つ人を決めるなら、

獣人のラクアには百戦百敗だろうが、

そこは男の見栄だ。



「六太の細腕じゃ持てないんじゃない?」


あっさりラクアに拒否された。

意味のない見栄だったと六太は反省しつつ、

ラクアと一緒に宿屋ファインの屋上から下りて行った。






「喉が乾いたんですけど、果汁かなんかあります?」


しこたま吐いたので、六太は喉が乾いていた。

口をゆすいで、水分も少し取ったが、

爽やかな飲み物を体は要求していた。


宿屋ファインの地下一階には厨房がある。

今は朝食の時間帯を過ぎていることもあり、

料理人達が夜の仕込みを始めていた。


「おう、六太。オレンジがあるぜ。

 オレの特製のなっ」


野太い声の樽のような親方が自信を漲らせ返事をする。


六太の前に特製オレンジの果汁が入った木製のコップが

出てくる。


見た目はただのオレンジジュース。

六太が飲むのを親方がにやにやしながら見ている。

きっと“ただの”オレンジジュースではないのだろう。


六太は勢いよくあおる。

旨いッ。

しっかり味わいたいところだが、爽やかな口当たりが

飲むのを途中で止めさせてくれない。


「どうだ、特製オレンジ果汁は?」


親方はよく六太に味の具合を聞いてくる。

正直グルメとはいえないし、

美味しく食べられれば細かいことはいいか

という人間としては返事に困る。

『旨い』くらいしか旨いモノを食べた時の表現が思い付かないから、

深刻である。


しかし、研究熱心な料理人の親方には、異世界人である六太の味の記憶、

この世界とは違う飽食の世界で刻まれた味の記憶に興味があるらしい。

今回も果汁数パーセントの体に悪そうな

炭酸オレンジジュースの再現に挑戦し、

大差ない代物が目の前に用意されている。

さすが、親方である。


これがあるから、面倒ではあるものの、

これからも美味しいものが食べられるなら協力しようと六太は思うのだった。


「これですよ、これ。

 美味しいです。ただの果汁もそれはそれで美味しかったけど、

 やっぱり甘くシュワシュワしてるのは爽快ですよ」


「だろ、果汁から少し水分飛ばしたり、色々工夫したからな。

 かなりの自信作よ」


そう言うと、親方はまた仕込みの作業に戻っていく。


なんか馴染んできたな。この生活も。

六太は感慨にふける。


つい先日まで、国民になるだとか、ファイン商会の跡目争いとか、

獣人会の手伝いだとか、大神官の騒動だとか忙しすぎた。


それも落ち着き、ここ一週間は仕事もせず休暇の日々。


大神官の騒動で怪我をして以来、周り、特にラクアが休むように

勧めてくれるおかげで、ゆっくりできていた。

ガリアナ王国の国民にも慣れたし、もう少し休んだら

一度ソルダース村に帰ろうかな。

六太は特製オレンジ果汁がたんまり入ったピッチャーを取り、


「もう一杯もらいますよ。この特製オレンジ果汁」


どんどん飲め、という威勢のいい親方の声を聞きながら、

六太は再び特製オレンジ果汁をあおった。

くぅ~~。旨い。


爽やかな柑橘系の香りが六太の気分を晴れ晴れとしたものに変えた。






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