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異世界の成金道  作者: (ちきん)
第三章教会とダークエルフと財政官
54/59

3-24一段落

大神官による事件は、クサリの予想を超える広がりをみせた。


そのきっかけが、六太から渡されたメモ。


そこに記載されていた場所をクサリが捜索すると、

大神官と繋がりのあるルクティの街の多数の有力者の

『不正の証拠』の書類が山ほどあった。


騎士団の副団長や有力な商会のトップなどなど

クサリへの妨害工作を繰り返す人達の名前が連なっていた。



「「バタンッ」」


勢いよく開けられた部屋の中では、騎士団の副団長がいた。

腰を振って男女の営みに励んでいた。

大人数の武装した冒険者達の突然の訪問に驚いた副団長は、


「な なんだ。貴様ら。

 私室に断りなく入って来やがって━━」


「ベオグランド。貴様を公金横領、

 獣人殺害等多数の容疑で拘束する」


腰を振っていたため反応が遅れたベッド上の副団長は、

抵抗することもできず拘束される。

犯罪者用の首輪をつけられて、部屋から連れて行かれた。



こういった逮捕劇がルクティの街のあちこちで数日の間続き、

ルクティの街から多くの不正が取り除かれるに至った。




「どうしよう。はぁ~」


クサリは不正の一斉摘発を終え、様々な部署や要職の空きポストで

頭を抱えていた。

日常業務が滞るほどの人数が捕まり、

早急に後任人事をしなくてはいけない状況にあった。


ただ、大神官のポストについては、すぐに新たな大神官が決まった。

どうやら大神官の枠は限られており、なりたくても上が詰まっていたため、

待っている人材がたくさんいたようだ。


もちろん、大神官のスキャンダルにより、教会の意向を抑え込み、

財政官であるクサリが

信頼できると思った人材を登用することができた。


なので、新たな大神官が同じ轍を踏むことはないだろう。


「はぁ~。どうしよう━━」


クサリは少し静かになった財政官執務室のイスに座りながら、

明日からの街づくりに頭を悩ませるのだった。






ハーフダークエルフのユール、鹿男のニバ、蜥蜴男のギュリゲ。


三人は体調を取り戻し、いつも通りに動き回れるようになった。

救出されてから3日程は体調が十分には戻らず、

クサリの屋敷で安静にしていたが、

それ以上獣人の二人はゆっくり寝ている時間はなかった。



「もうお帰りになるのですか?」


老執事が帰宅する準備をしている獣人の二人に声をかける。


「あぁ、世話になったな。爺さん」


ギュリゲは残っている左腕を上げて、礼を言う。


「そろそろ帰らないと、

 獣人会の皆への負担が大きくなりすぎてしまうので。

 本当にお世話になりました」


頭を下げるニバを見て、老執事も引き留めるのはムリと判断する。


「分かりました。

 クサリ様には私の方から伝えておきます」


「よろしくお願いします」


ニバはそう言い残して、ギュリゲと共に屋敷を去っていった。


気持ちのいい若者でした。

老執事は獣人の二人を見送り、滞在期間中のことを思い出す。

言葉遣いや仕草は粗くとも、強さと優しさを持っている若者だった。


貴族や商人などの金持ちばかりを見てきたせいか、

彼らのことがとても好ましかった。

老執事は二人の背中が見えなくなるまで、見送るのであった。



一方、ユールはというと、六太と共にもう暫くクサリの家に

滞在することになった。


ユールはニバやギュリゲと一緒に第9区の病院に戻ろうとしていた。

しかし、

騎士団の人手不足などに乗じて、悪さをする輩が増える危険性があり

皆に止められた。


そうなると、することがない。


ユールは掠われたとはいえ、眠って起きたら事件は終わっていた。

ギュリゲの腕には驚いたが、本人もまったく気にしていない様子だったので、

そのことを気に病むこともなかった。


ユールは暇を持て余していた。


おまけに、ユールは近々第9区の病院の仕事から外される。


これまでは財政官のクサリがテスト的に行っていたが、

これからは公式に行われる事業として第8区~第10区の全域で実施される。

そこに薬師見習いでしかないユールに出番はなかった。


それでも、獣人会の皆の環境が良くなるなら、

自分が居座ろうとするのは良くない。

きっと皆は居座っていいと言ってくれる。

だから、我慢しよう。


ユールは3年お世話になったあの場所を離れようと決めていた。


そして、ユールは元気になっている六太と共に

クサリの家で庭の手入れに一日中勤しんでいた。


「ふぅ~、ちょっと休むか」


六太の提案に頷くユール。二人は屋敷の方へと歩き、

老執事が屋外に用意してくれたテーブルとイスに座る。

そこでお茶とお菓子で小休止を取った。


「大分隠れていた道が見えてきたな

 …………やっぱり獣人会の側にいたいのか?」


体は元気でも、どことなく寂しげで元気がないユールを見て、

六太は訊く。


「……はい……できればぁ」


しかしそれが無理な希望であることを知っている。

ユールはその思いを飲み込むように、

目の前のお茶を飲む。


六太はそのいじらしい姿を見て、

考える。自分になにかできないかと。


六太は器の中で揺れているお茶の表面を見つめながら、

頭を悩ませる。

その間にお茶の揺れは徐々に収まっていき、

まさに止まる寸前、


「!?」


六太は何かを思い付く。


「そうだ、獣人会の病院の側に薬屋を開こう。

 ユールのお店。どう?」


「 え? 」


「お金はオレが出す。

 病院とは違うけど、獣人会の連中は冒険者が多い。

 彼らがポーションを手に入れる場所は

 住んでいるところから近い方が便利だろうし、

 悪くないアイデアだと思うけどどうかな?」


「……いいんでしょうかぁ。

 その……まだ見習いの私が店を開いてもぉ」


ユールの言うことは正論だ。

見習いのまま店を持ち運営したとしても、

効果が十分ある薬が作れないかもしれない。


そうなれば、多くの人を助けられるような薬師になるという

ユールの目標からずれてしまう。


それじゃマズい。

六太はユールに元気になってもらいたいのだから、

どうすれば問題が解決できるか考える。


そして、単純な結論に辿り着き、


「……薬師の師匠を探して、

 その人と一緒に店をやる……どうかな?」


ユールはそんなことができるのかと

不思議でならなかった。

それでも、王草を一緒に見つけたり、

テイムしているネズミと遊ばせてもらったり、

獣人会の食糧事情の改善に一役買ってくれたりと、

六太と出会って以来、想像以上の出来事が色々あった。


理解は追いつかないけど、できるかもしれない。


ユールは六太の提案に首を縦に振る。

そして、新たな一歩を踏み出す決意をしたようであった。


「……はい、よろしくお願いしますぅ」


最高の笑顔で、六太に返事をする。


亜人の中でも特に嫌われるダークエルフであったが、

六太にとってユールの姿はまさに天使のようであった。



『顔が下品』


六太はユールの笑顔を見てだらしなく緩んだ表情を指摘される。

ミミーは六太の肩に乗り、

主である六太を変態と断ずる。


『す、すみません』


ミミーには頭が上がらない六太は平謝りに謝る。



ミミーは生きていた。

正確には幻獣の力により、

死に片足突っ込んだ所から復活していた。


ただ、ミミーの眷属のネズミ達は今やいない。

ミミーほどではないにしろ、

この異世界で長く付き合い力になってくれたネズミ達が亡くなり、

六太の悲しみは深かった。

それでも、ミミーが生きていて側にいてくれたので、

悲しみにも耐えることができた。



六太はクサリの屋敷の草刈りでかいた汗に、

冷汗を追加しながら、六太は念話で伝える。


『気をつけるんで、その

 これからもよろしくお願いします』


六太のその言葉にミミーは笑って応えた。





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