表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の成金道  作者: (ちきん)
第三章教会とダークエルフと財政官
50/59

3-20獣人会の妹

六太の先導で、鹿男ニバと蜥蜴男ギュリゲは地下牢から出る。


脱出ルートは大した苦もなく分かった。

元々行方不明になっていたニバとギュリゲを探した際に

判明していたので、実際にそのルートを歩くだけで済む。


しかし、六太は獣人二人とすぐには地下から脱出しなかった。


「オレらが監禁されていたのが地下なら、

 ユールも地下のどこかにいるかもしれないぜ」


そう指摘するギュリゲに同意し、六太とニバは地下の通路を探索していた。


部屋は4つほど見つかった。


書庫だったり、金庫があったり。

物置だったり、何かの作業室だったり。


どこにもユールの姿はなく、隠し部屋がないか探したが

それも見つからなかった。


「……ここには……いないようだ」


まだ喋りにくさが残っているようだが、

一人で歩く程度は支障がない位に回復しているニバが言う。


六太もギュリゲも同じ意見のようで、

脱出ルートを使ってここから脱出することになった。


地上へと続く長い階段を三人は上っていく。

獣人の二人は妖艶なメイドから受けた攻撃の影響が

残っていることもあったが、

脱出できるというのに皆の表情に明るさはなかった。




階段を上りきり扉を開けると、そこは書斎であった。


庶民では揃えられないだろう量の書籍が

大きな壁の本棚にぎっしりと詰められている。


窓にも装飾が施されており、人目で貴族用の屋敷だと

分かる作りになっていた。


「貴族街か。

 やっぱり第2区に屋敷を持ってやがったのか、

 あの大神官のやろう」


ギュリゲは第2区に近い第3区の路地裏で捕まっていたので、

貴族街と庶民から呼ばれる第2区に大神官の屋敷があると推測していた。

どうやらその推測は当たっていたらしい。


「……貴族街だとすると、……クサリ邸はそれほど遠くない。

 ……3人の内誰かが助けを呼びに行くか?」


ニバが提案する。

それを聞いて、六太が答える。


「いや、クサリにはこの場所のことを

 伝えてあるからあえて今さら行く必要はないと思う。

 それよりもユールの居場所を調べよう」


ニバは少しの間瞑目し考え、


「……そうか。そうだな。

 ……なら三人で分かれて別々に行こう」


「おい、確かにそうすれば効率的ではあるが、

 流石に危なくないか」


「……いや、3人でもあのメイドに見つかれば

 どうしようもない。

 ……3人別々なら一回の遭遇で全滅することはなくなる」


ギュリゲも一度は別々に探すことに難色を示していたが、

妖艶なメイドの強さを思い出したらしく、ニバの案を承諾した。


「あのメイドに見つかったら大きな音を出せ。

 それを合図に他の奴は逃げる。忘れるな」


三人は頷くと、広い貴族の家を静かに

そして出来る限り素早く散っていった。










その小さな女の子は、クサリに手を引かれてやって来た。


ユールと紹介された女の子は、人見知りするような

弱々しい印象を与える子供だった。


「こんな所に小さな子供寄越すなんて

 あんた正気か?」


鹿男のニバはクサリにかなり強い口調で言う。

声の大きさに驚いたのか、ユールはクサリの後ろに隠れてしまう。

あっ、とニバも小さい子を怯えさせてしまったことに少し後悔する。


しかし、クサリの行為は責められるべきものであるとも

ニバは考えていた。


「ルクティの街第9区は

 あんたが思っているより危険な場所だ。

 もしかしてその子を殺したいのか?

 それともゴミのように扱いたいのか?」


ニバの圧力で半歩後ろに下がるクサリだったが、


「分かっています。

 でもこの子の希望を叶える上ではこれが

 今は一番だと判断しました。

 それに、始めてここを訪れた時に比べてですけど、

 この周辺の治安は第7区と変わらないくらいになったと思います」


確かに、治安は良くなっている。

小さいながらも騎士団の詰め所もあり、

獣人会による自警団もある。


それでも昔からの貧民街。

いつ危険な状態になるかわかったものではない。

ニバはやはりクサリの考えに納得できないでいた。


「……一応聞くが、お前の希望ってなんだ?」


鹿男ニバは跪いて目線を下げ、

まっすぐにユールの目を見つめる。

クサリの後ろで怯えていたユールだったが、


「…………そ……その……

 ……わわたし……は……

 おおかあさんみたいな……

 人をたくさんたすけける……くすしになりたいぃ」


その小さな褐色の手は震えているが、

その目には強い意志を感じさせる光があった。


ダークエルフか。それにこの喋り方。

ニバは目の前の子供が歩んできた人生を思った。


亜人の中でも嫌われている部類に入る種族で、

言葉を絞り出すようにする喋り方。

辛いことがあったであろうことは

容易に想像できる。


それでも今の目は生きている。

……強いな。


「分かった。面倒みよう」


そのニバの言葉を聞いて、

ユールの強張った顔は安堵した表情になった。

クサリもユールの嬉しそうにしているので、

自然と笑顔になる。


「よろしくユール。

 オレら獣人会はお前を歓迎する」



それからはユールの住む場所を用意し、

安全対策も考えるなど仕事は増え、非常に忙しくなってしまった。

ニバもギュリゲも他の連中も忙しくなって正直面倒だと

感じていた。


しかし、すぐにユールのただの幼い女の子から

獣人会になくてはならない存在になった。


それほどユールの作るポーションに

獣人会のほとんどのメンバーがお世話になった。

どうやってメンバーの皆と仲良くなるようにするか

考える必要はなかったな。


ニバは嬉しい誤算に喜び、ギュリゲや獣人会の皆と共に

獣人会に新しくできた妹が傷付けられるないように

命を張って守ろうと決意したのだった。


━━絶対に守る、と。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ