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異世界の成金道  作者: (ちきん)
第三章教会とダークエルフと財政官
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3-19思い出話

クサリは財政官執務室で不覚にも涙を流してしまった。


しかし、すぐに泣いてる場合ではないことに気付き、

行動を始める。


騎士団は役に立たない。

かといって、それに代わる武力も自分は持っていない。

でも、一つだけ思い付いたことがある。


上手くいかないかもしれないが、今はそこしか頼るところがない。



クサリは完全に日が暮れた街を走った。


第1区から第4区の目的地までは記憶の中では

大した距離ではなかった。

歩いても15分もあれば着く距離だったが、

思ったより遠く何度も途中で止まりかけた。


それでも、ほんの少しでも早く到着するために、

吐きそうなのを無理矢理抑え付けて走った。

もっと運動しておけば良かった。

クサリは何度もそんな今更なことを考えながら走り、

ほとんど歩いているようなスピードで目的地に到着した。


目的地は、


【第4区の冒険者ギルド】



夜も深くなっていることもあり、大通り沿いの店は

ほとんど閉まっている。

人通りも今はほとんどない。


そんな中に、ぽつんと人の気配を感じさせる建物が

冒険者ギルドだ。


ここは一日中開いている街の中でも珍しい施設である。

もちろん訓練施設などは夜の利用はできなかったりするが、

受付や酒場はずっと開きっぱなしなのである。




「す……すみま……せん」


汗だくで今にも倒れそうなクサリが受付の男性に声をかける。

男性受付はさすがに鬼気迫るものを感じたらしく、

クサリの次の言葉をただ待つ。


「……ギルド……マスターに取……次を……」


「あ……こんな夜遅くに

 ……そのどういったご用件でしょうか?」


さすがにただギルドマスターに取り次げと言われて

取り次ぐ受付もいない。

受付だとこの街の長である財政官と面識があるわけがないので、

仕方がない。

しかし今は急ぎである。

クサリも呼吸を整えて、改めて笑顔で言う。


「財政官のクサリです。

 緊急の用件ですので、早急なお取り次ぎを」


最後の方の言葉には気合というより殺気らしきものが

乗っているようで、男性受付は声を裏返らせて、


「少々お待ち下さいっ」


と言って走って裏に引っ込んでいった。


すると、数分後に受付の奥から苛立っている

女性の声が聞こえる。


「なんだなんだ。

 こんな夜中にギルマス呼び出すなんて

 ふざけた奴は」


明らかに寝てるところを起こされて不機嫌になっている。

しかし、受付へとその女性が出てくると、


「!?

 財政官って本物かよ。

 クサリ、何にやってんのさこんな時間に」


その女性はギルドマスター代理。


クサリとは随分と顔を合わせており、

この街に赴任してから度々お世話になっている女性だ。


「入りな。

 こんなとこで話すような内容でも

 きっとないんだろうし」


そういうと、ギルドマスター代理の女性は、

フロアから受付の中に入る場所を指差す。


クサリは受付の端にある出入口からギルドの奥へと

進んで行った。















魔方陣は禁術である。


しかし、スキル【魔字】を持っていれば簡単に使うことができる。


ただし、既に魔方陣の作り方が見つけられている場合に限る。


求める効果を出すための魔方陣は、

実験に実験を重ねてようやく使えるものになる。


例えば、幻獣の召還。


幻獣の力は一個大隊に比しても遜色ない力を得られる。

禁術になる前は多くの非人道的な研究が行われており、

一時的でかつ種類はランダムではあるものの、

幻獣を召還することができる魔方陣を完成させていた。




「すぐに実用化まで辿り着けるかと思っていましたが、

 そこまで魔方陣は簡単ではなかった」


大神官は第2区の地下大広間で既に魔方陣を起動していた。


ただ、完全に幻獣の召還が終わるまでには時間がかかる魔方陣のため、

今は召還が完了するまでゆっくりと酒でも飲みながら見守るだけ。


「「トクトクトクッ」」


妖艶なメイドが一本で金貨10枚は下らない酒を

大神官のグラスに注ぐ。


「呼び出した魔獣の魔力の安定化、存在の安定化、契約の方法など

 研究すべきことは山積みでしたよ。

 もちろん、ごくっ、着実に成果は出てましたから

 焦ってはいませんでしたが」


と大神官は話すが、ただ一度だけ実験で大失敗をしていた。


「お恥ずかしい話、一度大きな失敗もしてるんですよ。

 あの時は危うく大神官から大犯罪者になるところでした」


大神官になり目当ての禁術の書物を閲覧することができるようになった。

召還の実験にも一層力を入れていたが、

召還した幻獣をこの世界に固定するのに失敗した。


結果、ガリアナ王国東南にある村や街が壊滅した。


「あの時は南州の州都サルガスにいたんですが、

 東南部の村々での疫病の噂が耳に入った時、

 やってしまったなと思いましたね」


空になった大神官のグラスに妖艶なメイドは酒を注ぐ。


「ただ、誰も私が犯人だとは気付きませんでしたがね。

 法王でも病の原因すら掴めていない状況でしたし。

 なのに、田舎の薬師が病の原因を特定し、

 閑職ばかりの真面目な大神官らが

 私を特定した時はつい笑ってしまいましたがね」


被害の拡大から王国もようやくその重い腰を上げ

地域一帯の封鎖を実行した。大神官はその陣頭指揮を任されていた。


「それに便乗し、原因・犯人を特定した連中を

 地域とまとめて消し去り、疫病を止めたという功績まで得られました。

 おかげで州都の大神官に栄転でき今の私があるのですよ」


「窮地に陥っても、ただでは起き上がらぬ所は、

 大神官様らしいですわ」


妖艶なメイドは少し酔いが回ってきた大神官に微笑みかける。


二人の間に流れるまったりとした空気とは異なり、

魔方陣は光を徐々に強めていた。


魔方陣中央のユールに大きな変化はないが、

仰向けの体の上に置かれた王草は色を失い真っ黒になり崩れ始めていた━━




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